第85話お恥ずかしい『管理はコスト』だと思っていました
「『管理なんてコストでしょ』当然のことだと思っていました。今では、違うことが良くわかります。以前の自分が恥ずかしいですね」支援先のK社長がおっしゃいました。社員数が30名ほどに増え、順調に成長している会社です。
数年前まで、K社は約10名の会社でした。誰がどの案件を担当しているのか、進捗はどうなっているのか、社長が十分に把握できる規模でした。仕組みで管理するよりも、社長が気になったところを確認すればよい。それで、仕事が回っていました。
社長は右腕の幹部社員とツートップで営業をしていました。仕事を確保するのは、社長と右腕社員。お互いに営業情報を把握しています。だから「管理なんて売上にならない。単なるコストでしょ」こう考えていたそうです。
確かに、社員数が10名、最大でも15名ぐらいまでの会社は、仕組みで管理をするよりも、社長の皮膚感覚でフォローした方が手っ取り早いものです。だから管理の重要度は必然的に下がります。K社の人員は、営業活動は社長と右腕社員。あとの社員は製造担当であったり、納品担当であったり、経理担当者も一人という、役割分担でした。何年も、これで会社が回っていました。
たしかに仕組みをつくり、仕組みで管理をすると費用がかかります。業績は、<売上-費用=利益> という計算式です。営業活動に旅費交通費や、場合によって接待交際費は必要。直接、受注につながるものだからです。でも、そのほかの費用、特に管理する費用は、直接受注につながるものではありません。ですから、とにかく管理費用は少ないほうが良い。費用は減らすもの、無くすものという発想をしていました。
K社長は「いずれ30名規模になったら、管理が必要になるだろう」と感覚的にとらえていました。しかし、「10名程度の我が社にはまだ早い」とも思っていました。いずれ30名規模になったら…と考えていましたが、なかなか社員が増えませんでした。
案件の量をこれ以上増やすことができなかったからです。既存顧客のフォローも考えると、社長と右腕社員の二人で営業するには限界。「もう一人営業がいたら」と思って採用しても、しばらくすると辞めてしまいます。1名増えては、1名辞めて、そんな状況が何年も続いていました。
この原因は、社長の思考にありました。「管理はコスト」「我が社にはまだ早い」という発想が、ブレーキになっていたのです。K社長は、人数が増えたから管理が必要になると考えていました。しかし、実際は逆です。適切に管理をするから事業が拡大し、人数も増えるものなのです。経営の原理原則と、K社長の発想が逆になっていたのです。
< 「管理はコスト」「我が社にはまだ早い」この発想が ブレーキ思考 >
つまり、管理はコストではなく、管理は培養装置なのです。培養装置とは、再現性を高めるもので、誰でも回せるようにするものです。つまり、繰り返しの作業を効率化させるものなのです。
仕組みをつくり管理をするには、どうしても費用がかかります。でも、仕事の効率を高めるための投資なのです。
そこで、社長は管理の手間と、期待効果のバランスを考えます。効果が期待される対象は、組織の内側に対してのものもあれば、外側に対してのものもあります。例えば、在庫管理をすれば、効率よく在庫を把握できます。営業管理をすれば、武器となる提案書の更新履歴や、見込み客の集客活動、提案・フォロー活動などを効率化できます。ですから、管理は使い方次第なのです。
< 管理は使い方次第。管理はコストではなく、利益の培養装置なのです >
これを上手く活用しているのがフランチャイズの本部、フランチャイザーです。コンビニエンスストアや外食産業など、儲かる店舗のフォーマット(型)をつくり、テスト運用し、一気に展開していきます。基本的にフォーマットのコピーなので早いスピードで展開できます。他にも、大手のハウスメーカーなどが上手く培養し、営業しています。
しかし、小さな会社の社長は他人事としてみています。「だって効率化の割合と、管理の手間を考えると手間の方が多くて…」こう考えるからです。これが問題です。こう考えるから、ブレーキ思考なんです。なぜなら培養する対象を狭くとらえすぎているからです。
培養する対象を広くとらえると、認識が変わり、判断が変わります。既存業務を効率よく回す培養装置ではなく、新たな事業や新たな顧客を創造する培養装置だととらえるのです。言い換えると新しいフォーマット(型)をつくる仕組みづくりという観点で管理をしたら…ととらえるのです。
昔からある会社の成功事例でいれば、リクルートです。とらばーゆ、フロムエー、じゃらん、ゼクシィなど、次々と創刊し、それぞれの分野で新市場をつくりだしました。
最近の会社の事例で言えば、ソフトバンクやサイバーエージェントなど、次々と新規事業を立ち上げています。もちろん全てが上手くいくわけではありませんが、確率論です。上手く育てば将来の大きな稼ぎ頭になります。
K社長は、管理のとらえ方を変えました。そして、右腕社員への仕事のふり方を変えました。
これまでは、社長のやっていることを、そっくりそのままやらせていました。右腕社員は社長に似ていました。動物的な感で、顧客の懐に入り、受注をとってくるスタイルです。たまたま彼のセンスが良かったので、上手くいきました。ただ、こんなケースは稀です。ですから、実際には、次の営業担当が育ちませんでした。それがK社の限界。10人規模で足踏みをした理由だったのです。
そこで、右腕にそのまま仕事をやらせるのではなく、受注のプロセスを仕組み化させ、プロセスを管理すること、それが仕事だと指示しました。仕組みづくりに着手している間は、一時的に右腕社員の売上が落ちました。その分は、社長が脅威の営業力でカバーしました。数ヶ月かかりましたが、ある程度仕組み化でき、その仕組みも改良を重ねました。
すると、彼自身の仕事が効率化できるようになりました。改めて若手の営業担当者を採用し、仕組みで育てていきました。右腕社員も自身の業務が効率化できたので、育成する時間も持てるようなっていました。そして、半年もすると、無事に仕事を受注することができたのです。
小さな受注でしたが、K社にとっては大きな一歩でした。そして、他の案件も受注をするようになりました。次に、製造や、納品、経理部門の業務そのものも、仕組み化を進め、管理していきました。いずれも最初は大変でしたが、仕事そのものが効率化されました。新しく増えた社員も、育てやすくなりました。今では30名の会社に育っています。
K社は、まず既存事業を伸ばすための仕組みをつくり管理しました。この取り組みに専念したのです。そして、その仕組みを管理をすることで次のステージに進みました。かつてのように「管理なんてコストでしょ」といって後回しにしていたら、恐らく今でも10名ぐらいの会社だったことでしょう。
< 管理は、コストではない。管理は、利益の培養装置である >
< 仕組み化する管理対象は、大きく2つ。既存業務を効率化するための管理と、新規市場・顧客を効率的に生み出す管理である >
社長がいつまでもプレイヤーに甘んじていたら、管理をコストだととらえていたら、企業の成長をとめるブレーキになってしまいます。管理を利益の培養装置ととらえ、仕組みづくりを進めること。管理をアクセルととらえ、培養装置を管理運用すること。これが管理の本質です。
「培養」と言う言葉を和英辞典で引くと「culture」と訳されます。この「culture」を和英辞典で引くと、「文化」と訳されます。管理を培養装置ととらえると、自社の新たな文化を創造する装置になることだと気づくのではないでしょうか。
もし、自社を次のステージに引き上げるチャンスがあったら、あなたはどうしますか。もし、御社が次のステージに進むのならば、創造する文化をどのように構築していきますか。文化は、一朝一夕でできるものではありません。時間をかけて育むものです。自社の力だけで取り組むと10年20年とかかるかもしれません。それでも、チャレンジする価値があるものです。ぜひ、新たな管理をはじめましょう。社長の意思で、次のステージに進むきっかけをつくってください。次は御社の番です。
※追伸:当社は、「社長も社員も心から安心できる状態をつくる 【3年分 受注残をつくる経営】(業績3年 先行管理のすすめ方)」を公開しております。本コラムでお伝えした創造のための管理の仕組みです。弊社セミナーだけでお伝えする具体事例やその留意点も、多数紹介します。興味のある社長様は、ぜひご参加ください。