第64話できる社長の幹部人材の見極め方
「小島先生。ご相談したいことがあるので“責任をとる”という言葉の意味を教えて下さい」
先日、先行経営プロジェクトのメンバーに選抜されたYさんから質問をいただきました。
同じ言葉を使っていたとしても、人の解釈は異なります。幼少期から今現在まで、人生経験や体験したことは、人それぞれだからです。そして、そこから生まれた感覚的なイメージや意味づけした内容が違うからです。
例えば “努力をする” という言葉を見てみましょう。
Aさんにとっての努力は「繰り返し続けること」
Bさんにとっての努力は「あきらめないこと」
Cさんにとっての努力は「試行錯誤をすること」
Dさんにとっての努力は「目標を達成するために、より良い方法を見つけ、それを実行し続けること」
…
このように同じ言葉でも、人によってニュアンスが異なります。
そこで、同プロジェクトでは、人の解釈の違いによる誤解(認識のズレ)を減らすため、言葉の定義を明文化することをおすすめしています。営業部門で言えば「新規開拓とは○○○」「深耕開拓とは○○○」というように、社内で使う言葉を定義するのです。
冒頭の“責任をとる”という言葉。Yさんは辞書で調べました。
【責任】:人や団体が、なすべき務めとして、自身に引き受けなければならないもの。責め。
【責】:しなければならないつとめ。義務。
【任】:まかせられた役目。つとめ
何となく意味合いは理解できます。しかし、どのような行動が役目やつとめになるのか。自社で共通認識できるように、行動レベルの言葉で定義したい、というご相談でした。
Yさんは <自社の幹部社員の責任感が、人によって大きくバラついていること> そして、<幹部社員の部下である若手・中堅社員が不満を蓄積していること> を危惧していました。そこで、“責任をとる” という言葉を定義し、具体的に幹部社員は何をすべき役職なのか、お互いの役割や責任を共通認識できるようにしようと企んでいたのです。
今週はこの “責任をとる” という言葉の意味を考えながら、できる社長がどのように幹部人材を見極めているのかをお伝えします。
■1.“責任をとる” とは?
「責任を取って辞めますか?」
マスコミが、不祥事や業績不振が発生するたびに、経営者にする質問です。本人が犯した不正や犯罪は問答無用ですが、社員が起こした不祥事や業績不振はどうでしょうか。辞めただけで責任が取れるのでしょうか。風評被害を恐れ、体裁よく逃げるだけになっているのではないでしょうか。定義が曖昧なままだと、辞めたらこの問題は終わりとして安易に扱われます。結果として、根本的な見直しになっていないケースがほとんどです。
それでは “責任をとる” とは、いったいどういうことでしょうか。小島の恩師である岡野実氏の書籍「三々(さんざん)な経営」の中からこの意味を確認してみました。考え方のヒントにしてください。
・責任とは、もともと、他人に問われたときに申し開きができるという意味であり、自分が意思決定したこと、行動したこと、人に任せたことの結果を関係者に保証すること、「結果に対する責任」と「遂行することの責任」の2つがある(『毎日使える管理用語150』齋藤勝美著 JMA刊)
・企業人として責任をとる3つの行動 ※ミスやトラブル、クレームなどの問題に対しての場合
(1)問題が発生したら、応急処置をすること(許容できる状態への回復に向け、迅速な対処を図ること)
(2)原因を分析し、再発を防止すること(真の原因=人の意思決定や判断ミスといった人災を防ぐ仕組みをつくること)
(3)事後処理として、起きた問題の全体を見直し、社内外への関係者へ対処を履行すること(主因の特定、再発防止策の説明、損害の補償、社内の処分:出処進退)
このように、行動レベルで定義をすると、実際にどのように責任をとるのか、具体的に考えることができます。
ここで、時間をとって、御社における “責任をとる” を明文化してみてください。前述の問題発生時だけでなく、通常時の責任のとり方も明文化すると良いでしょう。具体的には、各部門の役割や使命、役職ごとの役割や使命を明文化するのです。すると、それぞれの部門、役職毎の責任の取り方が共通認識できるようになります。
■2.できる社長の、幹部人材の見極め方
幹部人材には、それぞれの部門の役割と責任を全うしてもらいたいものです。そこで、できる社長が幹部人材をどのように見極めているのか。一緒に考えていきましょう。
期待している社員が幹部人材に適しているか否か。実は、この見極め方はとても簡単です。その社員の責任のとり方をみれば良いのです。できる経営者は、これを皮膚感覚で見極めています。いったいどのような基準で見極めているのでしょうか。
小島自身、これまで約12年間で約170社の企業様を支援してきました。そこで、伸びている会社の幹部と、停滞もしくは衰退している会社の幹部、両者の違いに注目することでこの法則にたどり着きました。結論を聞けば、自明の理だと思うかもしれません。ただ、何週もグルグルと検討した結果なので、参考にしてください。
将来、問題のある幹部になる社員は、社長に対する報告と、部下に対する指導のスタンスが真逆。人格がコロコロかわります。
→ 社長(上司)に対しては、耳あたりの良い心地よい報告しかしない
→ 部下(後輩)に対しては、すべて任せて失敗したら責める。上手くいったら自分の手柄にする
将来、優秀な幹部になる社員は、社長に対する報告も、部下に対する指導のスタンスも変わりません。あり方・存在がすでに確立されています。
→ 社長(上司)に対して、たとえ悪いことであっても事実を報告し、痛みをともなう対策もためらわず意見具申する
→ 部下(後輩)に対して、目的や目標、自身の思いを自ら掲げ、率先垂範で見本を見せる。上手くいったら部下(後輩)の手柄にする
というものです。つまり、
心地よい報告をするのは、任せて責める問題幹部。ほろ苦い報告をするのは、掲げて攻める存在幹部。
なのです。
■3.問題幹部を使う5つのNGワード
問題幹部は、5つのNGワードを使います。(岡野氏の分析より)
はじめの二つは部下にいう調子の良い言葉です。残りの三つは社長が責任を追及したときの言い訳です。
この5つの言葉を安易に使う社員は要注意です。もし御社の部門長が使っていたらイエローカード、役員が使っていたら一発レッドカードにしてください。
<部下に使う言葉>
NGワード1「責任はとってやる」
日常は無責任に徹していることの証明。
NGワード2「信頼しているぞ」
(実は真逆)うまく処理し、自分に責任が及ばないようにという脅迫をしている。
<社長に使う言葉>
NGワード3「知らなかった」「聞いていない」
遂行責任と結果責任は異なる。結果責任は部下に委譲できないという原則を知らないだけ。結果責任をとらず見苦しい他責化をしているだけ。
NGワード4「想定外」
能力不足で想定が間違っていたか、あるいは想定できなかった。
NGワード5「記憶にない」「記録に無い」
認知症の場合:任に堪えられないだけ。認知症でない場合:その通りだが、認めたくないだけ。記憶より記録という職業人の鉄則を知らないだけ。
御社の幹部社員が、方針の進捗会議や営業会議でどのような言葉を使っているのか。一度、じっくりと観察してみてください。
■4.視点の高さを変えてみる
最後に、今回お伝えした “責任をとる” こと、 “社員を見極める” ことを、視点の高さを変えてみてみましょう。
すると、どの階層にも言える法則だと気がつくことでしょう。幹部だけでなく、若手社員にも、中堅社員にもあてはまります。そして、社長自身にもあてはまるのです。
冒頭のYさんは、この2つの条件にあてはまる方でした(良い意味で)。Yさんのご質問がきっかけで、小島自身、“責任をとる” という言葉に改めて向き合うことができました。そして、社長が皮膚感覚で選抜した理由がわかり、納得しました。大変ありがたいことです。
もし、御社にYさんのような社員がいたら、あなたはどうしますか?
今回のような取り組みをすると、古参幹部達が煙たがったり、他の社員が誤った忖度をして距離をとって様子見モードになるでしょう。社長にも苦い報告や、痛みをともなう意見具申をしてきます。
経営者と言えども人間ですから、ラクをしたくなるときもあります。しかし、動物的な感情に流されず、人間らしくどう行動するのか取捨選択することが重要です。節目節目で己を律することが大切なのです。
心地よい報告を鵜呑みにするのは、任せて責める問題社長。ほろ苦い報告を噛み締めて消化するのは、掲げて攻める存在社長。
自社を次のステージに引き上げるためにも、御社はどのような人材を引き上げていきますか。今一度、じっくりと考えてみてください。
100年続くような、生き残る同族企業は、実力本位で人材を配置しています。実力のある社員がいれば、非同族であったとしても役員に引き上げていますか。逆に実力が不十分であれば、同族であったとしても幹部社員以下の立場で粛々と仕事をさせていますか。
社長がどのような基準で人を見極めているのか、社内の社員だけでなく取引先・協力会社・金融機関…など、社外の利害関係者も見ています。さぁ、あなたはできる社長として、どのような選択をしますか。
※追伸1:今回コラムの中でご紹介した岡野実氏の書籍「三々(さんざん)な経営」に興味がある方は、お問合せページから、その他のお問合せを選択し「書籍購入希望」の旨と、ご住所・お名前等の送付先をご連絡ください。
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