第61話できる社長の投資判断基準とは何か
「小島先生。ようこそいらっしゃいました」
個別相談の依頼を受け、ある企業にお伺いした時の出来事です。
「この書籍はもうお読みになりましたか。積読(つんどく)が増える一方ですが、思わずアマゾンでポチッとしちゃいますね」
リラックスした雰囲気のN社長。エアキャップ(気泡緩衝材:プチプチ)の付いた封筒を開封しながら、笑っておっしゃいました。話を伺うと、アマゾンのヘビーユーザーでした。お気に入りの書評家のメルマガを読んだり、知人からお薦め書籍の紹介を受けたりすると、その場で書籍を注文しています。
本に対する考え方も明確です。書籍にもいろいろありますが、ビジネス書で言えば1冊約1,500円前後。高くても数千円です。 “たった数千円の投資で、著者の人生経験や知見を集約したエッセンスに触れることができる。ハズレも多いが、自社の経営に役立つヒントがたった1行でも見つかれば儲けもの。すぐに読まなくとも、自身のアンテナが察知した書籍は、あとで役立つかもしれない。” そんな思いで、ためらうことなくクリックしているそうです。事務所には、毎日のように新しい書籍が届きます。社長室の机の上には、平積みになった書籍が何列もそびえ立っていました。
「それにしても便利ですよね。便利すぎてつい買ってしまう。アマゾンのようなインフラを持つ企業がうらやましいものです」
N社長は、頭を掻きながらおっしゃいました。
アマゾンをはじめ、インターネット上での買い物は、リアルの店舗にいくより、圧倒的に便利です。物流網が整備されており、すぐに商品が届きます。その場で在庫の有無もわかるし、価格の比較もできる。さまざまなメリットが上げられます。便利だから利用者が増える。利用者が増えると、出展企業も増える。この連鎖でサービスの価値を継続的に高めています。
■1.プラットフォーム戦略とは?
アマゾンのようなインフラをもつ企業の戦い方をプラットフォーム戦略※といいます。
2010年に刊行された書籍「プラットフォーム戦略」(平野敦士カール氏、アンドレイ・ハギウ氏著)では、“関係する企業やグループを「場=プラットフォーム」に乗せることで、外部ネットワーク効果を生み出し、一企業という枠を超えた、新しい事業のエコシステム(生態系)を構築する経営戦略である”と説明されています。
※株式会社ネットストラテジーが登録商標をしています
世界規模で躍進する企業でいえば、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンやマイクロソフトなど)に共通する戦略です。日本の市場に注目すると、楽天市場やモノタロウといったECサイトや、モバゲーやグリーといったデジタルコンテンツサイト、ランサーズやクラウドワークスといった個人ワーカー向けサイトが上げられます。
■2.地方の中小企業でもできるのか?
プラットフォーム戦略で成長している企業を見ると、どの企業もかつては中小規模のベンチャー企業でした。しかし、今では大手・中堅規模の会社に成長しています。ここ数年の動向を見ると、従来型のビジネスをしていた中堅・大手企業がプラットフォームビジネスに続々と参入してきました。
そして、各分野のプラットフォームは乱立し、徐々に淘汰が進んでいます。モノゴトにはタイミングがあります。既存事業を持つ中小企業にとって、今からこのビジネスに参入することは、あまり得策とはいえません。もちろんアイデア次第ですが、外部ネットワーク効果を生み出すには、時間も資源も相当に投資しなければならないからです。
一方で、N社長の会社は、異なる戦い方をしてきました。“企業は人なり”という言葉を信じ、様々な投資をしてきたのです。毎年、教育研修会社から講師を派遣してもらい、様々なテーマで社員研修を実施してきました。他にも、業界の成功事例を横展開する業界特化型コンサルティングを導入したそうです。しかし、思うような成果は上げられず、いつも元のやり方に戻ってしまいました。
「戦略のミスは戦術でカバーできない」という有名な言葉があります。
これは、事業戦略レベルでも、投資戦略レベルでも同様です。N社長の会社は、この投資戦略を誤っていました。中小企業は、いったい戦略的にどこに投資をするとよいのでしょうか。
■3.普通の中小企業が投資をすべき分野とは?
できる社長は、自社が普通の中小企業であったとしても、適切に判断し投資をしています。投資の判断基準が明確だからです。
この基準とは、いったい何でしょうか。
この答えは、とてもシンプルです。それは、社員に活用される仕組みとして社内に残るものなのか、一時的なイベントとして終わるものなのか、という基準です。
各部門がツールとして採用し、それを利用する社員が増えれば増えるほど、便利になったり、業績が上がったりする仕組みであれば投資をする。打ち上げ花火のように消えてなくなるものには投資をしない。こう判断しています。
つまり、プラットフォーム戦略の発想をまずは社内で考えるているのです。前述した定義をもう一度見直します。そして、組織の規模を一回り小さくとらえてください。
【市場という観点でみた、プラットフォーム戦略】
“関係する企業やグループを「場=プラットフォーム」に乗せることで、外部ネットワーク効果を生み出し、一企業という枠を超えた、新しい事業のエコシステム(生態系)を構築する経営戦略である”
↓
【自社を市場に置き換えてみた、プラットフォーム戦略】
“関係する部門やチームを「場=プラットフォーム」に乗せることで、社内ネットワーク効果を生み出し、一部門という枠を超えた、新しい事業のエコシステム(生態系)を構築する経営戦略である”
ととらえるのです。
■4.N社長の会社は、どこに投資をすべきか?
プラットフォーム戦略は、有名な大手企業がとる戦略だから…と諦めることもできます。一方で、社内の仕組みづくりという観点で、プラットフォーム戦略を参考にすることもできます。
N社長は、社員のためになると思えばためらわず投資をしてきました。厳しい言い方をすれば、結果として、“すぐに” “誰でも” “簡単に” というフレーズに夢を見て、安易に契約をしてきました。教育研修会社やコンサルティング会社が言う提案に、まるで書籍を買うかのように無意識にクリックしていたのです。
利用率が著しく低くログインさえされないEラーニング。「勉強になりました」という感想だけで社員の行動が変わらない社員研修。分厚いファイルにまとめられただけで活用されないコンサルティング会社の納品物。失った経営資源をあげたら、きりがありません。
「今後の投資は、“社員に活用される仕組み”に限定したほうが良いですよ。教育等はその後です」
こう伝えると、N社長は大きく頷きました。合点が行ったようです。企業経営は様々な要因が複雑に絡み合っています。何らかの投資も1:1で効果が測定できるものではありません。業績を上げるには、営業部門、開発部門、製造部門、管理部門が連動し、ボトルネック工程を解消しなければなりません。人材に関しても、採用・配置、評価、報酬、能力開発と連動しています。経営資源も、ヒト、モノ、カネ、情報と連動しています。
これらをつなぐ社内のプラットフォームを整えることに注力してください。これが、強い組織づくりを実現する第一歩です。強い組織は、社会に価値を提供し業績をあげることができます。中長期的に市場のプラットフォームを整える可能性も秘めています。やがて、市場を創造する力にもなりうるのです。
<プラットフォームで 市場を創造するのか。ポチッとクリックで 資源を喪失するのか。>
独自の社内プラットフォームの構築にぜひ投資をしてみてください。まずは、試行錯誤をしながら、自社にあったプラットフォームを構築すること。これが重要です。各社が提供しているクラウドツールもありますが、あくまで補完ツールです。社内プラットフォームを整えるサブツールとして活用することがポイントです。
御社は、貴重な経営資源をどこに投入しますか。社員に活用されるどのような仕組みに投入しますか。
※当社は、全社員が進化成長しながら稼ぐプラットフォームとして「社長も社員も心から安心できる状態をつくる【3年分 受注残をつくる経営(業績3年 先行管理の仕組み)】」を公開しております。独自の社内プラットフォームを構築するために、試行錯誤を繰り返し、自ら仕組みを構築するノウハウをお伝えしております。興味のある経営者さまは、ぜひ弊社セミナーご参加ください。