第107話できる社長の攻め方・守り方
「小島さん。困りました…。右腕だと思っていた営業部長、彼が主力の営業社員数名を引き連れて急に辞めてしまい…」
T社長から緊急の電話をいただき、すぐに状況を伺いに行きました。
手元の手帳には殴り書きのメモが見えました。いつもハツラツとしていたT社長ですが、めずらしく動揺しているようです。取引先も転注してしまいそうで、他の営業担当者の引き抜きや、目先の業績も心配のようです。
恐らく営業部長は周到に準備をした上で実行に移しています。なんとか引き止めたとしても、長続きはしないでしょう。一度崩壊した信頼関係は簡単には取り戻せません。相当の辛抱と時間が必要です。物事の解釈は変えられますが、過去の事実と他人は変えられません。だから、切り替えが必要です。今は辛い出来事かも知れませんが、次へのステップとして諦めたほうが適切です。
雇用契約違反など、法的な対応はもちろん必要です。その上で、何よりも早く営業機能を回復させなければなりません。急遽、社内外のリソースを活用して、営業部隊の再編成をどうするのか考えました。
「このピンチを、どう切り抜けるのか? 」
人は、許容量を超える精神的な負荷がかかると、どうしても弱気の発想をしてしまいます。しかし、数々の難局を乗り越えてきたT社長は違いました。話をするうちに落ち着きを取り戻しておっしゃいました。
「このピンチを、どうチャンスにするのか? 一緒に考えたい」と。
前者の発想は【守り】の着眼です。既存の販売先への売上をどう守るのか? この発想では業績悪化(マイナス)を減らすことはできても、プラスを生み出すことはできません。社員の中に蓄積された不満を理解したり、対策を考えたりすることは必要ですが、守りだけではダメなのです。
一方でT社長の発想は【攻め】の着眼です。既存の販売先への売上を維持しつつ、今回の教訓を活かしてより良い体制や仕組みを構築し直そうという前提で考えます。
例えば、できる営業担当者を数名ピックアップし、彼らが考えていること・やっていることを抽出する。どうせ引き継ぐなら、できる社員のノウハウを見える化しながら、後任に引き継いでいく。そんな機会として捉えるのです。新たに採用した中途社員のノウハウも織り込めば、より使える武器になり、全体の底上げが見込めます。
このように営業スタイルを属人的な状況から、仕組み化・育成可能な状態に切替えていくのが一つのアイデアです。T社長とも、すぐに組織図と担当得意先一覧を印刷し、ホワイトボードに書き出しながら新たな体制案と進め方を決めていきました。
つまり、【守り】が重要なときほど【攻め】の要素で考えてみる。【攻め】が重要なときほど【守り】の要素で考えてみる。表を見たら裏を見る。裏を見たら表をみる。ものごとの両面を見ながら全体を踏まえて判断をしていくのです。
異なる分野の頂点を見るとヒントになります。例えば、東京オリンピックの各種目の選考争い、年末に放映されていた総合格闘技、どの競技をみてもトップ選手は違います。強い選手ほど防御が上手い。防御が上手い選手は攻撃も強いものです。
さらに高い視点で見れば、「上手な攻め方・守り方があると捉えていること」そのものが残念な考え方だと気がつきます。あくまで一つの側面だからです。つまり、攻め方・守り方といった狭い視野では無く、全体を見て勝つための条件や方法を考えつくすのです。このとき、既存の選択肢だけではなく、新たな選択肢を設けることがポイントです。
ニトリの似鳥会長も全体を見て勝つための条件や方法を考えています。有名な台詞ですが「社内の最大の敵は幹部だ。幹部が反対したらやれ! 幹部が賛成したらやるな! と決めている」と言っています。これぐらいの意思が必要です。
人は緊急事態が起きると、どうしても部分でものごとを捉えてしまうものです。深呼吸をして、全体をみて最善の判断する。当然のことですが、これが社長の仕事です。ぜひ留意してください。
例えば、我々のような外部ブレーンを活用するときも注意が必要です。それぞれに特性があるので、頭の中を整理して意図的にアドバイスを聞き分ける必要があります。
税理士は過去の数字に対しての専門家。社労士や弁護士は現在の問題を解決したり、トラブルを防止する専門家。経営コンサルタントは、企業の未来をつくる専門家です。
この時間軸の違いを意識しながら、社長は全体観をみていくのです。また、経営者仲間は、それぞれの業種・業態、組織規模、企業文化が前提となった意見だという点にも配慮が必要です。もちろん社内の状況も押さえることは言うまでもありません。
そしてもう一つ。緊急事態の建て直しには負荷が高まります。自転車に乗ったときをイメージすると分かりやすいでしょう。こぎ始めはペダルが重たく、軌道にのったらラクにこげるものです。ですから、最初の数ヶ月は負荷が高まることを想定して経営資源を集めチーム編成をしなければなりません。
学生時代の物理学で言えば、【 静止摩擦計数 > 動摩擦計数 】 の関係を思い出してください。何事も、はじめに負荷がかかります。動き出せば負荷は弱まります。つまり、はじめに適切に注力すれば後から軌道にのせやすくなるのです。逆に、働き方き改革で成果がでない会社は、目先ばかりの愚策が目立ちます。ほぼはじめから負荷を減らそうとして失敗してしまうのです。
言い換えると、はじめは<生死>摩擦計数だから負荷がかかる。だからこそ、生死をかけて資源を投入する。軌道にのれば<道>摩擦計数がかかる。だから、仕組みが機能し続けるために道をメンテナンスする。社長は、この観点で最終的な決断をしてください。
< 経営の投資判断 静止摩擦計数は生死 動摩擦計数は道 を分ける >
もともと会社は潰れるようにできています。今回、多面的に打ち合わせをした後、T社長は腹を括ってある決断をしました。道のりは厳しいものになりますが、T社の今後がとても楽しみです。
御社は、今期どのような決断をして、どのような活動を進めますか? 今年の抱負は、どれだけ全体観を踏まえて決定しましたか? 決めたことは実行に移して初めて意味をなします。宣言しっぱなしでうやむやになることなく、ぜひ決断し、実行し、現実を変えていきましょう。それが、御社が次のステージ進むための必須条件です。令和2年がスタートしました。社長であるあなたは、何をどのように挑戦しますか?
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