第58話できる組織がどのようにスキルを育んでいるのか
「我が社の強みと言えば、ベテランの職人社員が持つ専門スキルです。これは他社が真似できものなんですよ…」
と語るS社長とT部長。
個別面談の中で「御社の強みはどこにあるのですか?」とお伺いするケースがあります。すると、ビジネスモデルそのものや、製品・サービスを生み出す源泉についてご説明いただく機会が多いものです。冒頭の言葉も、その一例です。
職人社員がもつ専門スキルは、自社の競争優位性を生み出す貴重な経営資源です。そして、この強みをどのように引き継ぎ、磨き、育てていくのか。日本の中小企業が抱える共通の悩みです。
S社長の会社も例に漏れず、この悩みを抱えていました。詳しく話を伺うとベテランの職人社員たちは、再雇用で働いていたり、あと数年で定年をむかえたりするそうです。いち早く次の世代に引き継がなければなりません。しかし、一向に引継ぎが進んでいないとのこと。
「現場業務の中心を担う40代の社員が不足しており…」
これは、1990年代の後半、採用を控えていたことが影響しているようです。さらに、社員は、働き方改革という名の残業規制に苦しんでいたり、職場のハラスメント問題におびえていたりしています。つまり、スキルを引き継ぐべき中堅社員たちが、現場の業務に忙殺されており、余裕がないのです。すると、引継ぎどころではなく、人間関係の構築もおろそかになってしまいます。T部長も数年後のことをとても心配していました。
それでは、いったいどうしたら良いのでしょうか。
今週は、できる組織がどのようにスキルを育てているのか。このヒントをお伝えします。
■1.社内スキルに注力する企業
「我が社の独自スキルを何とか継承しなければ…」
当然のことながら、社内スキルの継承に注力したいものです。しかし、ほとんどの企業で、なかなか思うようにすすみません。
なぜなら、先輩職人の背中を見て育ったベテランの職人は、その技術が適応できる条件や手順を皮膚感覚で習得しており、形式知として部下・後輩に伝えるトレーニングをしてこなかったからです。
しかも、S社長の会社のように40代の社員が不足しており、下手をすると20代の社員に伝えなければなりません。孫に近いぐらいの世代にどのように伝えて良いのか、受け手もどのように習得したら良いのか。双方の間に深い溝があり、どうしたら良いのかわかりません。
また、安易に技術を継承してしまうと、その企業における自身の存在価値が無くなってしまうのでは…、と余計な心配をするベテラン職人社員もいます。
すると、今現在何とか成り立っているから…と社内スキルを盲信し、現実的な将来に真正面から向き合うことを避けてしまいます。すると、各階層で従来の仕事の仕方を繰り返します。
<社内スキルに注力する>
この選択をすると、組織はどうなるのでしょうか。
答えは簡単です。マンネリ経営を続けることになるのです。社内の独自スキルの継承がすすまないまま時間が過ぎていきます。やがて業務が回らなくなります。また、環境変化にあわせて戦い方を変えることもできません。技術革新によりその技術が無力化したり、コモディティ化したりすると、自社の存続価値を失い、価格競争に飲み込まれてしまうのです。
つまり、社内スキルに注力すると、社内スキルを盲信したマンネリ経営になってしまうのです。すると、近い将来、衰退の道しか選択できなくなります。それでも、御社は、社内スキルに注力を続けるのでしょうか。
■2.ポータブルスキルに注力する企業
ポータブルスキルとは、業種や職種に関わらずどの会社でも、どの職場でも通用する“持ち運び可能な能力”のことです。従来主に用いてきた“専門知識”“専門技術”そのものではなく、それを習得する前提となる“仕事の仕方”や“人との関わり方”に注力する企業のことです。
“仕事の仕方”という観点では、職場の課題を明らかにして、解決に向けた計画を立て、実行する能力のことです。“人との関わり方”という観点では、社内でいえば経営陣や上司に提案したり、期待する役割を理解し果たしたり、部下や後輩を指導・育成する能力や、顧客や提携先との関係性を強化し、合意形成を導く能力のことです。
わかりやすく言えば、①相手の意図を汲み取る力(理解する)、②わかりやすく言語化する力(まとめる・メモにする)、③わかりやすく伝える力(図解する・簡潔に話す)、④会議を効率よく進行する力(ファシリテーション)、⑤PCを操作する力(迅速に処理する)などが上げられます。どのような職場でも、発揮できるスキルです。
<ポータブルスキルに注力すると、どうなるのか>
この選択をすると、組織はどうなるのでしょうか。
単純に、社員一人ひとりの業務を推進する力が高まります。そのため、同じ業務を終わらせる時間が早くなります。すると、心の余裕が生まれ、社内スキルの引継ぎが行われるようになっていきます。
ポータブルスキルに注力することは、不思議なもので、社内の独自スキルの継承を支援することになるのです。かつて皮膚感覚で引き継いできた社内のノウハウが言語化されはじめます。手順や基準が明らかになり、資料として形に残るようになるのです。人が得意なことと、コンピュータが得意なことを区別し、仕組み化したり、自動化したり、効率化を図ります。しかも、もし環境変化にあわせて戦い方を変えることになったとしても、柔軟に対応することができるのです。
つまり、ポータブルスキルに注力すると、ポータブルスキルで前進する柔軟経営を選択できるようになります。
■3.できる組織がどのようにスキルを育んでいるのか
社内スキルを盲信したマンネリ経営を続けるのか、ポータブルスキルで前進する柔軟経営を選択するのか。
できる組織は、後者を選択し、社員のスキルを育んでいます。どこの会社でも通用するスキルを強化することが、自社独自の強みを引き継ぎ、磨き、育てることになるからです。
もちろん業界固有の専門知識や技術が不要なわけではありません。ただし、その前にポータブルスキルを身につけさせなければ、どれだけ専門に特化しても人が育ちません。人材育成の歩留りが改善されないままでは、ザルで水をすくうようなものです。
会社と社員の関係性が変わり、終身雇用を前提に事業を設計しにくくなる時代だからこそ、自社にとってもそこで働く社員にとっても、共にメリットのある能力の開発を支援してください。
社員の立場に立ってみると、こういった組織の方が魅力を感じるのではないでしょうか。この小さな積み重ねが、大切です。今以上に優秀な社員が集まる会社に変えていくためにも、ポータブルスキルの強化を図りましょう。人材不足の時代、採用が難しい時代だからこそ、小手先の採用活動よりも、社員が確実に育つ仕組みを考えてください。そして、御社が自社固有の強みをどのように構築していくのか、ぜひじっくりと検討してみてください。
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