第36話できる経営者がPDCAサイクルを捨てる理由
第36話:<できる経営者がPDCAサイクルを捨てる理由>(伸びない企業は、PDCAを徹底する 伸びる企業は、PDCAを捨て去る)
「なるほど。ずっと勘違いをしていました。早速PDCAサイクルを捨ててみます。」
先日、ご相談にいらっしゃったA社長のお言葉です。
業界全体が低迷する中、A社は既存事業で順調に業績を伸ばしています。また、新規事業も初年度に黒字化を実現するなど、将来がとても楽しみな企業です。しかし、A社長いわく、実態は数名のキーパーソンが業績をつくっているとのこと。そこで、組織全体の底上げをしたい。マネジメントを強化し、若手・新人を確実に成長させたい。今年・来年と売上は追わず、地盤固めに専念すると決めて情報を収集していました。
A社長は、これまで何社も会社を立ち上げてきました。いずれの会社も経営権を引き継ぐ前までは順調に成長していたそうです。ところが、経営権を引き継いだ後は、いずれの会社も業績が停滞してしまったとのこと。中には破綻した会社もあるそうです。
結局のところ<社員が自ら実施できるマネジメントの仕組み>がつくれなかったようです。
「やはりPDCAの徹底が重要ですね。社長は当たり前に実施していることですが、なぜ社員は上手くまわせないのでしょうか?」
A社長は、素朴な疑問をお持ちのようでした。
「おそらく社長が実施していたのはマネジメントサイクル。社員の立場で実施しているのはPDCAサイクル。一見すると、とても似ていますが、おそらく真逆のことをやっていますよ。」
と小島はお答えしました。その後、詳しくお話を続けていくうちに合点がきたようです。そして、冒頭のお言葉になりました。
■1.PDCAサイクルは万能ではない?
PDCAサイクルは、仕事の基本。第二次世界大戦後から続く、古典的なフレームワークの一つです。
P:PLAN(計画)
D:DO(実行)
C:CHECK(検証) ← ココが問題
A:ACTION(改善)
いまさら…と思う方も多いでしょう。新入社員をはじめ階層別の研修でも、日々の職場でも、当たり前のように言われます。社長・役員から各部門長へ。各部門の上司・先輩から、部下・後輩へ。上の立場から下の立場へ。口酸っぱく「徹底しろ!」と伝えられます。
とはいっても、会社にとっても、個人にとっても、徹底することは容易ではありません。すると、年間・四半期・毎月・毎週・毎日と時間軸を細分化し、徹底度のチェックがはじまります。
環境変化のスピードが速くなっている今、業務を継続的に改善する手法が必要だ。PDCAサイクルは、強い企業ほど徹底している(はずだ)。だから我が社も徹底させよう。盲目的に古典的なフレームワークを信じきってしまう。実は、こういった発想が、過ちを犯します。
なぜなら、PDCAサイクルは、あくまで調整するための手法だからです。基準値とその許容範囲を定め、実績がそこから逸脱しないように統制する。製造工程でQCDの基準を満たすために必要な、コントロール手法です。一定の条件化では、とても有効です。しかし、社員の立場では、心理的に改善を止めてしまう構造になっています。
にも関わらず、全てのマネジメントに安易に応用しようとしてしまいます。そして、スローガンのように唱え続けてしまいます。これが問題です。
■2.C:CHECK(検証)は、人間の心理を配慮していない
C:CHECK(検証)=「なぜ、うまくいかなかったのか」
PDCAサイクルの要は、C:CHECK(検証)→A:ACTION(改善)にあります。なぜ、うまくいかなかったのか。某大手の自動車会社では、この「なぜ?」を何度も繰り返し、原因を掘り下げることを徹底しています。そして、原因を改善すれば、確実に良くなるという考え方です。
理屈で考えればとても有益なアプローチです。しかし、人間の心理を配慮していません。
「過去と他人は変えられない…」という有名な言葉があります(カナダの心理学者エリック・バーン氏)。また、いかなる事象の原因も、冷静に客観的に事実を眺めれば、自分にも原因がありますし、環境や他人にも原因があります(ウエイトは事象によって異なります)。
このとき「なぜ?」を探求すると、どうなるのか。この前提には、自ら改善に関わるというフィルターがかかっています。すると、社員本人の自己責任の意識に関わらず、自責を強要することになります。有無を言わせず、自身に原因があることを掘り下げ続けなければなりません。無理やりに。すると、まるで全責任が自分にあるように感じてしまいます。社員はこれが受け入れられません。
経営者は「全責任は自分自身にあると考えたほうが有益だ」と理解しています。だから、当然のように受け入れられます。しかし、社員は違います。とても受け入れられないと拒絶してします。すると、潜在意識的に保身スイッチがONになります。
そもそも、ヒトは感情で行動を決める傾向が高い生き物です。そして、後からもっともらしい理屈を考え出します。社員にPDCAを強要し、保身モードをフル稼働させるとどうなるのか。
社員は、社長の前では自責で考えているフリをします。その上で改善(案)を考えているだけ。ただし、根本的には他責で捉えています。どのような改善(案)も単なるジェスチャーです。あまり意味がありません。改善よりも保身が優先。社員は、自らの考え方・行動パターンを変えようとしません。
社長と社員。それぞれの立場で、自分自身の考え方・行動パターンを変えることができれば、会社は良くなります。「未来と自分は変えられる(変えられるのは自分の未来の関わり方)」という言葉の通りです。ところが、PDCAサイクルは、社員の感情を考慮していません。結果として、現状を前提とした調整をするだけ。あくまでコントロール手法です。だから徹底するほど、会社が伸びなくなってしまうのです。
■3.コントロールではなく、マネジメント
社員は、「社長や上司に、とやかく言われたくない」と考えています。管理されたくないものです。同時に、「管理されたい(コントロールされたい)」とも考えています。両方の側面があります。しかし、PDCAを徹底させると、上記2の理由から、多くの社員は依存傾向が強くなります。PDCAのジェスチャーをすれば安心。実は、自ら考えたくない、自ら行動したくない、責任をとりたくないといった、傾向が強くなってしまうのです。そして、組織全体が依存傾向になります。よほど自立した社員は例外として、さらに自立し退職します。
また、顧客に価値を提供し続けるためには、製品ライフサイクル(導入期・成長期・安定期・衰退期)にあわせ、新たな製品・サービスを投入しなければなりません。同様に、新たな事業、新たな人材を投入しなければ、既存事業の衰退をカバーできません。
ところが、コントロールを重視すると、依存傾向が強くなります。新たな価値を生み出すことなく、調整するので精一杯です。近い将来、存続できなくなるでしょう。
このとき、社員という経営資源をどのように活用するのか。経営者の思想が求められます。社員一人ひとりを1馬力の物理的資源と考えるのであれば、徹底的にPDCAサイクルをまわし、コントロールすることをオススメします。無駄を排除することで経営効率が高まるからです。しかし、1馬力以上、無限の可能性を秘めた質的資源として考えるのであれば、PDCAサイクルを捨てて、マネジメントに徹してください。
伸びない企業は、PDCAを徹底する。
伸びる企業は、PDCAを捨て去る。
マネジメントとは、社員に自己責任を強制するのではなく、気がついたら自ら自責で考えたくなる関わり方です。PDCAサイクルの呪縛を振り払うために、まずはPDCAサイクルを捨て去ってみてください。そして、シンプルな着眼「なぜ、うまくいったのか」に注力できる仕組みを構築してください。
最後に、A社長は、起業家として動物的な勘でマネジメントサイクルをまわしていました。単なる膨張ではなく、正しく成長するためには、人間の心理を配慮した仕組みが必要です。仕組みでまわせるようになれば、次世代に会社を残すことができるのです。
ご相談の最後に「やはり、今年・来年と売上は追わず、地盤固めに専念します。早速PDCAサイクルを捨ててみますね。」と力強いお言葉をいただきました。覚悟を決めたA社長。マネジメントサイクルの土台をどこまで構築できるのか。どんな未来を実現するのかとても楽しみです。
新たな価値を創造するには、基準値とその許容範囲に収めるコントロールではなく、基準値を超える新たなアイデアを発想し、それを実現するマネジメントが基本です。過去ではなく、未来に注目する仕組み。特に、営業部門や開発部門では、重要な着眼です。このコラムをヒントに、貴社なりに新たな仕組みを考えてみてください。きっと、自社を次のステージに引き上げるはじめの一歩になるでしょう。
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