第93話なぜ、できる社長はチームワークを捨てるのか
「もっとチームワークを高めなければ!」
ある専門商社を経営するA社長のお言葉です。A社長は 「社員は財産である」 という観念のもと、チームワークを高める活動を実施していました。社員と共に成長し、我が社を次のステージに進めようとしていたのです。
しかし、なかなか思うように進ません。そこで弊社に相談に来られました。
チームワークを高めるメリットは、とても多いものです。例えば <社員のベクトルが一致し、力が集結する> <多様性(ダイバーシティ)を認め、お互いを尊重しあう文化が育つ> <協力し合うことで、様々な課題を克服することができる> といったものです。
そこで 「チームワークって、調味料みたいなものですよ」 と小島は伝えました。
料理をする上で、調味料はとても重要な役割を果たします。例えば “さしすせそ(砂糖・塩・酢・醤・味噌)” です。この順番や量によって、料理の仕上がりが大きく変わります。
同様にチームワークも、ちょっとした関わり方の順番や量によって、状態が大きく変わります。ですから、重視する社長が多いのです。
この分野も需要に応じて供給する組織が増えています。この分野を研究する教授や、商売のネタにする研修会社も多く、チームワークを高めるテクニックが溢れかえっています。また、それを提供するサービスや購入企業も増え、人材育成市場は大賑わいです。
だから注意が必要です。第1ボタンを見極めましょう。
そこで小島はA社長に伝えました。 「ひとまず調味料を捨てた方が良いですよ。つまり、チームワークを捨てた方が良いですよ」 と。なぜならA社の状況をお聞きし、順番が違うと判断したからです。
チームワークが不要だ! と極端な考えを押し付けているわけではありません。弊社も 「チームワークは重要だ」 と考えています。ただ、それが有益なタイミングと、逆効果になるタイミングがあるのです。これを見極めなければなりません。つまり、A社はそのタイミングではなかったのです。
チームワークを高める活動が有益に働くのは、平常時です。平常時に 「修正的な変化=改善」 をうながすときに、この活動は有益なものになります。平常時とは、会社が安定操業しているときのことです。この場合は、社員に対立よりも協力する姿勢をうながした方が良いでしょう。
もし御社が 「この先10年、20年、…と我が社の商売は安泰だ!」 と言えるのであれば、ぜひチームワークを高める活動に専念してください。そして、改善を重ねより良い職場を目指しましょう。
ところが、A社の状況は異なりました。緊急時だったのです。業績が慢性的に低迷し、根本的に、かつ早急に何とかしなければならないケースだったからです。今すぐ改革が必要だからこそ 「チームワークを捨てた方が良い」 とアドバイスをしたのです。
改革を進めるには、現状を破壊しなければなりません。業績が良かろうが悪かろうが、今の安定している状態を一旦は壊さないと、根本的な変化が望めないからです。つまり、創造の前には必ず破壊が必要だからです。
地球上の全ての存在は、破壊 → 創造 → 安定 → 破壊 → 創造 → 安定 → … と、状態を変えながら進化のサイクルを回っています。都合よく、安定 → 創造 → 安定 → 創造 → … とはいきません。もし、都合よくいけば平和なのですが、実際はそうならないのです。
チームワークを提唱している会社は、この破壊のプロセスが上手くいきません。お互いを尊重し、協力しようとしてしまうからです。破壊のプロセスが不十分だと、結局元の状態に戻ってしまいます。
さらに、チームワークを重視するには、どうしても民主的に経営を進めなければなりません。お互いを尊重するためには、納得してくれる人を増やす必要があるからです。社長が独断で決めるよりも社員の納得度は高まります。しかし、民主的に進めるために時間と労力が膨大にかかります。
ですから、緊急時は、チームワークを高めようとしてはいけません。この取り組みに着手することは、そもそも間違いなのです。
それでは、緊急時には何が必要なのでしょうか。それは 「健全な危機意識の共有」 です。
社長は、この健全な危機意識を皮膚感覚で持っています。そして、社員に逐次伝えているつもりです。しかし、社員は社長と同じレベルでは認識していません。なぜなら立場・役割が社長ではないからです。
すると、組織では、営業部門と製造部門が対立したり、直接部門と間接(管理)部門が対立したり、上司と部下が対立したり、…と次から次へと課題が表れます。これをチームワークを高めて解決しようとするから、とても骨が折れる取り組みになってしまうのです。永遠にモグラ叩きゲームを続けているようなものです。なぜなら、社員は、それぞれの立場で、それぞれの理屈を優先したいからです。
ところが、もし 「現状のままでは我が社は3年以内に潰れますよ(あなた達も路頭に迷いますよ)」 と全社員が共通認識をすることができたら、組織はどうなるのでしょうか?
もちろん 「我が社という船を降ります。お世話になりました」 という社員がでてきます。この時、プラスアルファーとして 「我が社が変革した後の理想の姿」 を魅力的に示すことが必要です。すると、社員が下船せずとどまることを選択します。
そして社員達は 「内部の対立でお互いの体力を消耗するよりも、外部に向かってあらゆる策を模索し力を合わせよう」 という発想に切り替わるのです。
すると、変革した後の理想の姿を 【共通の目的】 として、それぞれの役割を果たすように活動し始めます。このプロセスで、社員は健全な対立をします。そして、一回り大きな視点でものごとをとらえられるようになります。結果として、自然とチームワークが高まるのです。緊急時は、チームワークを高めるのではなく、勝手に高まるのです。
つまり、変革のためのチームワーク(ステージ2)は、改善のためのチームワーク(ステージ1)を捨てることで生まれるのです。さらに、変革のプロセスで育まれるものなのです。
< 我が社のチームワーク 高めて停滞するか 捨てて前進するか >
現在は、変革の時代です。会社のあり方も商品・サービスも根本的に見直さなければなりません。もちろん、働き方も大きく変わることになるでしょう。
そんな時代に、従来のメニューを提示しても顧客からも社員からも見切りを付けられることになります。同じメニューで調味料を代えたとしても、一時しのぎにしかなりません。新たなメニューを開発しなければ、理想の未来は実現しないでしょう。
大切な社員は、料理に例えるなら素材です。社長の究極の目的を、社員と共に実現していくためには、時代にあった新たなメニューをつくることが必要です。そのために、組織に健全な危機感を育て、社長も社員も既存のメニューを破壊しようと覚悟してください。
チームワークといった調味料はその後です。最近は、化学調味料も乱立しています。手っ取り早く効果的に見えるため乱用されています。素材を本当に活かすためには、シンプルな天然素材を使うことが基本です。目新しい化学調味料に踊らされないでください。
< 我が社のチームワーク 高めて停滞するか 捨てて前進するか >
ぜひ、順番に気をつけてください。社長と社員が、目的と危機意識を一致させることができれば、後は勝手に協力するようになります。目的を達成するために相互の理解が進み、自然とチームワークが高まるのです。
巷に溢れる強い会社の事例は、この結果を表現しているに過ぎません。チームワークが高いから強くなったのではないのです。チームワークは強みの源泉ではないのです。
御社は、今期の売上・利益を十分に確保できていますか? ひょとしたら 「今期は大丈夫だけど何か?」 とお考えかもしれません。それでは、この先3年後・5年後の業績は、どれくらい見通すことができていますか? もし、社長自身が、将来の業績に少しでも不安を感じるのであれば 「我が社は緊急事態である」 ととらえてください。何事も、成果が出るまでに時間がかかるからです。
本当に強い会社は、社員一人ひとりが健全な危機感を持ち、個を磨いています。金太郎飴のような社員を量産するのではなく、個々人の能力を引き出し、組織の目的達成に貢献していくのです。社員が育ち、自ら考え、自ら行動し、自ら稼ぐ、一つ上の戦い方ができるようになっているのです。
何のためのチームワークなのでしょうか。御社が現状の枠を超えるために、どのような目的をもち、どのような仕組みをつくれば良いのでしょうか。今一度、じっくりと考えてみてください。
目先のチームワークを高めることは、チームワーク:ステージ1のレベルです。子供が、小学生→中学生→高校生→大学生→…と成長していくように、御社も次のステージに進みましょう。
将来、遅かれ早かれ緊急事態がやってきます。このとき、小学生の単なる仲良しクラブを目指すレベルのチームでは、障害を乗り越えられないでしょう。バラバラに崩壊するのが目に見えています。なぜなら、個が確立されておらず、とても脆い存在だからです。
ですから、健全な議論ができる社会人大学のようなチームを目指しましょう。御社に必要なのは、個を確立させた次のステージのチームワーク:ステージ2です。
そのためには、適切な危機感を醸成する仕組みをつくり、一旦チームワークを捨てること。そして、対立を克服する仕組みを活用しましょう。弊社は、次のステージを目指す勇気のある社長を応援しております。次は、御社が挑戦する番です!
※追伸:当社は、健全な危機感を共有し、チームワーク(ステージ2)に進む仕組み 【3年分 受注残をつくる経営】(業績3年 先行管理のすすめ方)を公開しております。弊社セミナーだけでお伝えする具体事例やその留意点があります。興味のある社長様は、ぜひセミナーにご参加ください。