第83話なぜ、できる社長は完璧よりも不整合を求めるのか
「決めたことは完璧にやれ!」
「1ヶ月かかることを1週間でやれ!」
こう願う社長は多いものです。新たに就任したC社長もその一人でした。
この会社は、某大手メーカーの子会社です。最近、子会社数社が合併して誕生した会社です。骨を埋めるつもりで、親会社から片道切符でやってきました。
「脱下請け。自力で仕事が取れる会社になろう!」
C社長は、自社を次のステージに引き上げるため「脱下請け」という方針を掲げました。そして、新規開拓の営業部隊を社長直轄にし、グループ会社以外の事業会社へ、営業活動を開始しました。
一般的には、ターゲット企業への提案の場を設けることに苦戦します。しかし、C社は違いました。親会社で培った人脈を駆使して解消したのです。親会社のブランド力は強力で、相手企業も応じざるを得なかったからです。
そして、社内にいる日は、毎日営業部隊のフロアに顔を出し、檄を飛ばし続けます。「新規顧客との接点を設けたから、あとはちゃんと受注してやり切れよ!」「問題があれば原因追究。そして早急に対策を打て!」とカツを入れます。
C社長は、完璧主義者です。変革の指導者として、強硬姿勢を貫いています。そのため、営業部隊のいるフロアは、戦々恐々としているそうです。
これまで社内には、下請け意識が浸透していました。これまで親会社の指示に従うことが仕事だったからです。ですから、今回のような荒治療が必要です。
同様に、歴史ある同族企業が大きく変わるときも、荒治療が必要です。人や組織は、ショックが無ければ、変わろうとさえ思えないからです。気づかぬまま茹でガエルとなって死ぬよりは、熱湯をかけて驚かせたほうが得策です。
その上で、どちらの荒治療も、上手くいくときと、上手くいかないときがあります。この違いはどこにあるのでしょうか。
この答えはとてもシンプルです。上手くいくか否か、会社が変化できるか否かの違いは、トップである社長の関わり方で決まります。つまり、単に荒いだけなのか、荒いように見えて工夫や配慮があるかどうか、で決まります。
単に荒いだけとは 「正論を振りかざし、正論通りに完璧にやれ!」 と強要することです。今のところ、C社の社長は、このスタンスです。活動のきっかけとしては有効ですが、このままでは問題です。対話ができず、指示命令のみの一方通行になっています。
完璧主義の社長は、自分に厳しく、相手にも厳しいものです。周りにも当然のように完璧を要求します。ある程度の成果は、このスタンスで出すことができます。また、年齢を重ねるにつれて、少しずつ許容範囲が広がったつもりです。だが、実際はそうでもありません。自身の基準に満たないものは、心から受け入れていないはずです。ここに弊害があります。
C社長のような完璧主義。正論を求めるだけの荒い関わり方は、中長期的に上手くいきません。なぜなら、完璧だと思っている正論は、過去の自分がイメージできる100点に過ぎないからです。
つまり、完璧にできたとしても過去の自分を超えることは決してないからです。現時点の限界が、完璧の上限になるからです。環境や状況が変われば、正解も変わります。これに適応できなくなるからです。
C社長は気づいていません。「子会社よりも広い視野を持っている。営業経験もあるから自分が正しい」このように考えていることでしょう。
しかし、仕組みが確立された親会社の経験はあっても、子会社で新たな仕組みを構築した経験はありません。親会社にはブランド力もあります。認識しているよりもはるかに多く、強力なリソースを持っています。C社長は、親会社の立場で歴代の先人達が創ってきた景色を見ていたに過ぎないのです。
例えば、親会社には、戦略的に市場を開拓するマーケティング部隊や、新規顧客を開拓する営業部隊がありました。顧客開拓の機能があったのです。そして、正論を突きつければ、何とかしてくれる優秀な部下も、無理難題に応えてくれる子会社もありました。好調な大手メーカーゆえに、経験が蓄積されており、顧客を創造する仕組みが整っていたのです。
ところが、子会社にはこのような機能はありません。ましてや下請け企業に徹していたので、営業機能が退化しています。一言で表現するならば、親会社でやってきたように完璧を求めても、それを応える土壌が無いのです。
同族企業の社長も同様です。社長自身が社外で経験したことや学んだことを、よかれと思って社内に取り入れようとします。社長の視点を基準に考え、社員に完璧を求めます。しかし、なかなか上手くいきません。失敗するケースが多いものです。社内には、これに応える土壌がないからです。
C社長のように正論を振りかざし、完璧を要求すればするほど、社員の心は社長から離れていきます。そして、社長に対して裏と表を使い分けるようになります。やがて、社員の建設的な意見や生の声、現場で起きている事実情報が社長に届かなくなります。
一方で、できる社長は、異なります。活動のはじめは厳しい姿勢を求めます。しかし、その後は社内外で起きている不具合・不整合に向き合い、心から感謝しているのです。社長自身が気づいていない経営のヒント、自社の新たな伸びしろが見つかるからです。
社会と自社、社長と社員、上司と部下、部門と部門の間で起きている不具合・不整合。競合と自社、理想と現実、感覚と数字の間で起きている不具合・不整合。実は、これらは自社を強くするヒントの固まりです。
本音で向き合い相互理解を深める場があれば、ボトルネック工程を解消できます。業務効率も大幅に改善します。他にも、不具合・不整合が潜在的な顧客ニーズに気づいたり、新たなサービスを生み出したりするきっかけになります。さまざまな工夫を積み重ね、差別化を図るポイントにもなります。変化を容易にして、新たな流れを創造する源泉になるからです。
< 平凡社長は、完璧にやれと言う できる社長は、不具合に感謝する >
完璧主義を貫くと、社内の風通しが悪くなります。社長も社員もお互いに不幸です。社長は、鞭を打つ続けることになり、疲弊します。社員も、言い訳をつくるために必死です。社員は、パフォーマンスが必要なので、書籍にかかれたノウハウや、他社事例を安易に真似をしてその場をしのぎます。
あえて補足をすると、強いフランチャイザーは、儲かる仕組みをパッケージ化しています。例えば、フランチャイズ方式の元祖と言われるケンタッキーフライドチキンや、カレーハウスのCoCo壱番屋(ココイチ)です。この仕組みを活用したければ、フランチャイジー(加盟店)になるしかありません。ブランド力や儲かる仕組み(成果が出る仕組み)を購入しなければ、手に入らないからです。
しかし、一般的には状況が異なります。脱下請けのノウハウは、パッケージ化されていません。されていたとしても肝心な部分は公開されません。また、そのプロセスで生じる不具合や不整合をヒントにして、組織を成長させる方法も確立されていません。C社長は、この状態でやれといっているのです。
ですから、C社長のように親会社の正論を子会社でも完璧にやれと押し付けたり、社員に他社の成功事例や理論を猿真似させたりしても、結果はでません。土壌が無く、表面的にやるだけだからです。無理強いを続けるほど、組織が弱体化していきます。さらに、ジタバタと自社が足踏みをしているうちに、競合他社は新たな手を打っています。やがて御社は後れを取ることになるでしょう。
< 平凡社長は、完璧を求めて組織を衰退させる できる社長は、不整合を探り組織を成長させる >
社長業は、とても忍耐がいる仕事です。成果を出すために、完璧を求めて当然です。実際に、自社で起きている不具合・不整合を見つけると、イライラしてしまうことでしょう。気持ちはとてもよく分かります。しかし、イライラする感情を優先すると、自社は良くなりません。完璧はあくまで方向性です。正しい方向を意識しつつ、自社で起きている不具合・不整合に感謝したほうが得策です。
目的は、社長の感情を発散させることではありません。本来の役割は、社会に価値を提供し成果を上げること、社長の思いを実現することではないでしょうか。
なぜ、できる社長は完璧よりも不整合を求めているのか。今週は、この理由をお伝えしました。
社長といっても、一人の人間です。不完全な部分があっても良いのです。だから感情に支配されないように、意思を保つ仕組みが必要なのです。つまり、社内の不具合・不整合に本当に感謝できるようになるまでは、それを活かす仕組みを構築した方が良いのです。
あなたは、いつこの仕組みづくりに着手しますか。完璧を超えた新たな可能性は、意外と身近にあるものです。ヒントは感謝の気持ちにあります。本コラムをお読みの社長にも、今のご自身が想像している未来を超えるヒントが見つかるものです。次は御社の番ではないでしょうか。弊社は、挑戦する企業を応援しております。
※追伸:当社は、理想の将来と現実のギャップ(不具合・不整合)をあぶりだし、組織の相互協力を生み出す仕組みとして「社長も社員も心から安心できる状態をつくる 【3年分 受注残をつくる経営】(業績3年 先行管理のすすめ方)」を公開しております。この弊社セミナーでは、コラムではお伝えしきれない具体的な事例も、多数紹介します。興味のある社長様は、ぜひご参加ください。