ノートとペン 今週の「コジマ式 変革経営の視点」 代表 小島 主の経営者様向け専門コラム

第101話なぜ、吐き気を求めると会社が飛躍するのか

平凡会社は、覇気を求める。躍進会社は、吐き気を求める。
第101話:「なぜ、吐き気を求めると会社が飛躍するのか」(平凡会社は、覇気を求める。躍進会社は、吐き気を求める。)

 

「小島先生。あまりのショックに吐き気がしました」
 

T社長は、某技術系カンファレンスに参加しました。そのときの感想です。
 

「それは良かったですね」
 

と小島は言いました。T社長に “吐き気” という身体反応が表れたからです。
 

「AI(人工知能)技術がここまで進んでいるとは……。自動化の流れを痛感しました。想像していた以上です。我が社の技術者派遣業も大きく見直さねばなりません。このまま現状維持を続けていたら……。“倒産” の二文字しかないですね」とT社長。
 

小島は、「それでは、幹部社員の皆さんも交えて、今後の戦い方を模索していきましょう」とお伝えしました。
 

実はこの1ヶ月前、小島はT社長から相談を受けていました。 「幹部社員も、現場で得意先に常駐している社員達も、とにかく覇気がなく困っている」 とのことで、状況を詳しくお聞きしていました。そして、某技術系カンファレンスに参加するようアドバイスをしたのです。
 

実は、儲かっていない会社や、変われない会社は、どこもこの危機意識が希薄です。「大波乱の時代」はもう目の前。にも関わらず、従来と同じことを繰り返していたら……。物理的に追い込まれてからでは遅すぎます。大きな犠牲をともなうことになり、生き延びる可能性も極端に低くなります。
 

社長であるあなたは、自然と危機意識を持つことができます。T社長もその一人です。しかし、社員はどこまで危機意識を持っているか分かりません。ですから、往々にして社長は社員に対して不満を募らせます。“危機意識が足りない”と感じるからです。
 

すると、社長の多くは 「危機意識を持て!」 と何度も社員に伝えます。経営会議、方針検討会、営業会議、朝礼時など 「自分が伝えなければ誰が伝えるのだ」 という思いが強く、繰り返し唱えるのです。
 

しかし、何度伝えても、いくら社員の意識を駆り立てようとしても、社員はあまり変わりません。誰も本気にならないのです。なぜなら、危機意識は本人が “感じるもの” で、他人から言われて “理解するもの” ではないからです。
 

つまり、社員に当事者意識が芽生えない限り、ずっと暖簾に腕押し状態なのです。
 

「この1年、社内で言い続けた “緊急事態宣言” も、どうりで社員に響かないわけですね」
 

T社長は、変わらない我が社を振り返りながら、意識付けの限界を改めて認識していました。
 

「そうですね。そもそも、社長も社員も時間軸が異なります。だから、社員は社長の言う当事者意識は持てないものですよ」 と小島は続けました。
 

実はここが盲点です。社長と社員では、重視する時間軸が異なるからです。社長は我が社の 【将来】 を重視し、現在を見ています。一方、社員は目の前の業務に追われ、 【現在】 を重視しています。
 

目的に注力したい社長。手段に注目している社員。立場・役割の違いが、時間軸の焦点を変えています。そのため、社長と社員では、危機を察知するセンサーの特性や感度が根本的に違うのです。
 

「社員の焦点を広げる仕組みが必要ですね」 とT社長。
 

「そうですね。仕組みは必須です。ただし、これでも足りませんよ。本当の盲点は、社長の危機意識が不足していることなんです」 と小島は言いました。
 

「いったいどういうことですか?」 T社長はソファーから背を離し、少し前のめりになりました。
 

「まずは一般論として聞いてください。多くの同族会社は、社長と社員がお互いに癒着し、従来と同じ関係を続けているんですよ。典型例は、社長が先導型のリーダーシップを続け、社員の主体性を奪い、組織を弱体化させているケースです。もちろん、程度の差はあるんですが、社長は自身の優位性を固持し、社員は依存し全責任を社長に委ねられる気楽さを手放さないものです。お互いに関わり方を変えず、同じ役割を演じ続けている役者のようなものです」
 

T社長は、強引なタイプではありません。しかし、自身が社員との関わり方を変えていないことに気がつきました。
 

「社長も社員も、健全な危機意識を持たなければ、会社は変わりません。つまり、迫り来る危機を実感できる体験が必要なのです。人は本当の危機を感じなければ、決して変わりませんから。だから、あのカンファレンスをおススメしたのです。吐き気がするぐらい危機を感じたのなら、とても良かったです。絶望を味わったら、そこが変革経営のスタートです」
 

小島がそうお伝えすると、T社長は頷きました。
 

平凡な会社は、経営理念やビジョンを社員と共につくり「明るい未来を目指そう!」とするケースが多いものです。社員に 【覇気】 を求めているのです。しかし、あまり効果はでません。
 

なぜなら、人は希望では変わらないからです。理念やビジョンで生まれた【覇気】は、企業が次のステージに進んでいく“後押し”にはなりますが、次に進むための“スイッチ”にはならないからです。
 

一方で、飛躍する会社は、健全な危機意識を持つための仕組みがあります。その仕組みを通じて社長も社員も 【吐き気】 を感じ、従来とは異なる戦い方を模索するようになります。
 

人は絶望を感じて、はじめて変革できるものです。そして、同時に新たな武器を手に入れると、自ら次のステージに進みはじめます。つまり【吐き気】は、前に進むためのスイッチ、覚悟と決意を持つスイッチになるのです。
 

< 平凡会社は、覇気を求める。躍進会社は、吐き気を求める。 >
 

あなたの組織が健全な危機意識を持つためには、それに適した仕組みが必要です。近い将来、我が社の現実的な業績がどうなるのか。従来の戦い方を続けていると、我が社の将来はどうなるのか。リアルに実感できる仕組みです。物理的に追い込まれる前に、精神的に危機を感じる仕組みを構築するのです。
 

社長は知っています。“現状維持” は “衰退” です。環境変化を考慮すれば、“現状維持” は “横ばい” にはなりません。この当たり前のことを、社員の皆さんが実感できるようにする。社長と社員が、経営状態を共通認識できる仕組みを今すぐ構築してください。当然ですが、この変革経営のスイッチを仕込むのは、全責任を背負う社長の仕事です。社員では不可能です。
 

そして、現状を変えたければ “社長としての危機意識” も今まで以上に育ててください。オリンピック景気など、業界によっては目先の業績に安心している経営者も多いものです。5年後、10年後、今後も確実に安泰でしょうか。油断をしていると、気がついたときには、すでに “ゆでガエル” になっていることでしょう。前もって手を打ちましょう。あなたは、我が社の危機意識を育むために、何からはじめますか?
 

 
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