ノートとペン 今週の「コジマ式 変革経営の視点」 代表 小島 主の経営者様向け専門コラム

第89話なぜ、成功事例を真似しても上手くいかないのか

成功事例を取り入れよう この発想が失敗思考
第89話:「なぜ、成功事例を真似しても上手くいかないのか」(成功事例を取り入れよう この発想が失敗思考)

 

「あの○○社。とにかく凄かったですよ。小島さんが私ならどうしますか?」
 

勉強熱心なE社長。先日、夕食をご一緒したときのご質問です。
 

E社長は、ある事例研究会に参加しており、毎月各地域の優良企業を視察しています。つい先日も、ビジネス雑誌で特集が組まれていた○○社を見学したそうです。
 

E社長の分析内容を一通りお聞きしたのち、泡の減ったビールグラスで乾杯しました。
 

「そうですか。私がE社長であれば、今のやり方を変えませんね」
 

と小島はお答えしました。“○○社の成功事例は採用しない” という判断です。
 

「そうですよね。私も同感です。数年前だったら、“いち早く我が社でも!”って言い出して、○○社の真似をしていたでしょうね」
 

と笑っていました。今では、視察は楽しみながらも、冷静に判断しています。E社長の事例を見る視点が変わったからです。
 

“成功事例の真似をすれば上手くいく” … これは本当でしょうか?
 

E社長は、事例研究会のメンバーを思い出しながら「真似をしてみよう。参考にしてみよう。と安易に考えてしまう若手社長が多いんですよ。私もそうでしたからお恥ずかしいんですが…」と苦笑いをしていました。
 

今のE社長は違います。「成功事例の真似をすると上手くいかないこと」を知っているからです。
 

なぜなら、どれだけ視察をして成功企業の真似をしても、上っ面を真似することになるからです。
 

簡単に真似ができる部分は、あくまでカタチです。そのカタチには、これまでの歴史的背景があります。カタチが生まれた意図やプロセスがあるのです。これを十分認識せず、どれだけ真似をしても上手くいきません。表に出てこない本当のキモチを知らないからです。ですから、対した効果は得られません。
 

武道に例えれば分かりやすいかもしれません。基礎練習を十分にしていない初心者は、守破離の守も、その意味も知りません。何も知らず、有段者の真似をしても滑稽なだけです。
 

地域に置き換えても同じです。南国に住んでいる家庭が、北国の生活習慣を意図も分からず真似するようなものです。アメリカ文化のやり方を、上っ面だけ真似して日本に取り入れても上手くいかないようなものです。
 

身の回りを冷静に振り返れば、当たり前のことです。単に真似をしても上手くいかきません。これは、火を見るよりも明らかです。
 

たまたま上手くいくケースがあるかもしれません。しかし、これはあくまで偶然です。ほとんどが上手くいきません。背景をしっかりと理解した上で、自社に合うようにアレンジする必要があるからです。
 

他にもさまざまな誤解があります。
 

“成功事例の良いところどりをすれば上手くいく!” … これは本当でしょうか?
 

最大公倍数を考える社長もいます。残念ながら、これも上手くいきません。良いところを組み合わせれば組み合わせるほど、資源が必要です。肥大化するだけですし、何よりも角が取れて丸くなってしまいます。固有の良さが消されてしまうからです。
 

“失敗事例を悪いところを真似しなければ上手くいく” … これなら本当でしょうか?
 

このように、逆転の発想で考える社長もいます。これも、成功事例と同じく上手くいきません。どちらも上っ面だからです。
 

それでは、どうしたら良いのでしょうか?
 

他社の事例研究をせず、ひたすら自社に向き合えば良いのでしょうか? … これも発展性がありません。視野が狭く、井の中の蛙になってしまいます。
 

成功事例の実態を掘り下げていく…背景や意図、プロセスを解明していく…。もし、それができればヒントが見つかります。しかし、その会社の内部や歴史をつぶさに見ることはできません。
 

それでは何がヒントになるのでしょうか?
 

活用するヒントは、成功事例と失敗事例の差、違いから見つかります。
 

成功事例だけを見て、何が成功要因か考えていても答えは見えてきません。失敗事例だけを見て、何が失敗要因か考えていても、同様に答えは見えてきません。
 

ところが、成功事例と失敗事例を比較すると、その差、違い、コントラストが見えてきます。この差に価値があるのです。違いの共通項を抽出していくと、成功するための原則が見えてきます。そして、上っ面を真似するのでは泣く、原則と言う形で自社に取り入れていくのです。
 

< 成功事例を取り入れよう。この発想が失敗思考 >
 < 成功事例と失敗事例の差から、成功に変える原則を抽出する。この発想が成功思考 >
 

表面的なカタチではなく、原理原則というカタチで真似をする。成功に変える原則を自社に応用する。これを前提に、試行錯誤や創意工夫をしていく。このプロセスが必要です。
 

もちろん簡単にはいきません。時間がかかります。でも、時間をかけて適切なプロセスを踏めば血肉化することができます。だから、我が社が強くなるのです。
 

いずれの事例企業の取り組みにも、メリットとデメリットがあります。成功事例は、このメリットが表出しただけです。失敗事例は、このデメリットが表出しただけです。原理原則というカタチで活用すれば、両方のメリットを引き出せる可能性が生まれます。
 

ですから、上っ面のカタチを安易に真似をしてはいけません。原理原則というカタチに抽出し直して活用しましょう。これは、自社の取り組みのメリットを享受するためのヒント、自社にあった発揮の仕方を見つけるヒントになります。
 

我が社を良くする原理原則を見つけましょう。そして、自社流にアレンジして下さい。その上で大切なことは、成功に変える原理原則を抽出したら、自社と比較をすることです。原理原則と自社の差が、我が社をより良くする突破口になります。つまり、御社がメスを入れる場所になるのです。
 

E社長は、数年前から原理原則の発掘とそれを自社に落とし込む挑戦をしています。○○社の事例は、文化が異なる組織への応用だったので見送りました。ある会社の成功事例が、別の会社の失敗事例になることが頻繁にあります。そういった危険性や、原理原則から見た共通項を認識していたからこそ、冒頭の判断をしていました。非常に頼もしいものです。
 

同族会社の社長として、我が社を本当に強くしたいのであれば、他社の成功事例を安易に取り入れないこと。これが経営者の基本です。そして、ぜひ原理原則を抽出し、御社ならではカタチづくりをすすめてください。私どもは、挑戦する社長を応援しております。
 

 

 
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