ノートとペン 今週の「コジマ式 変革経営の視点」 代表 小島 主の経営者様向け専門コラム

第75話なぜ、社員を能力の有無で判断してはいけないのか

低迷する会社は、社員を 能力の有無で 判断する
第75話:「なぜ、社員を能力の有無で判断してはいけないのか」(低迷する会社は、社員を 能力の有無で 判断する)

 

「Aさんは優秀社員。Bさんは問題社員」 こういった社長の判断が、会社をダメにします。
 

Bさんのように1~10まで指示をしても、一向に行動に移せない問題社員がいます。行動しないだけならまだしも、何をしても足を引っ張り、邪魔になります。本当にイライラしてしまう存在です。
 

一方で、Aさんのように、1を伝えるだけで10まで汲み取って行動に移してくれる優秀社員もいます。社長の思いを理解し、役割を自ら認識し、先回りして行動してくれます。本当に助かる存在です。
 

Aさんクラスの優秀社員が、あと数人いたら…と社長は妄想をします。社長が、社員の能力を判断すること。これは、ある意味当然のことです。社員の振る舞いと自社の業績を眺めれば、なおさらです。この気持ちは、とてもよく分かります。
 

しかし、社長が社員の発揮能力を見て、優秀社員や問題社員だと決め付けてはいけません。安易に判断をしてはいけないのです。なぜなら、社員の能力発揮に関する原因を、社員のせいにした表現、他責にした表現になっているからです。他責ではなく自責で。言わずと知れた考え方ですが、社長自身が自責で捉えなければ、会社は良くなりません。
 
 

「結局、精神論ですか」 あなたは、そう思うかも知れません。そこで、今回は、より現実的に考えてみましょう。
 
 

社長が、社員一人ひとりを “優秀人材” or “問題人材” と判断をすると、会社はどうなるのでしょうか。
 

できる優秀社員は、社長の期待に応えるべく優秀社員を演じ続けます。できない問題社員も、ある意味で期待を裏切らないように問題社員を演じ続けます。つまり、できる・できないといった役割分担をそれぞれが担いうのです。そして、役割に応じた責任も、特定の社員が背負い続けます。
 

この状態が続くと、優秀社員だからできる、問題社員だからできない、といった解釈は、変えられない固有のものだと信じて疑わなくなります。まるで事実かのように、本人も周囲の人たちも確信しているのです。そして、解釈が事実となり、役割と責任が固定化します。柔軟性が完全に奪われ、変えられなくなるのです。
 

このとき、できる優秀社員はその役割を担うことで、自身の承認欲求を満たし安心しています。一方、できない問題社員はその役割を担うことで、自身の甘えを許し安心しています。
 

同様に、役割や責任が固定化した組織は、やり方を変えられなくなります。かつて成功した先人のやり方が正しいという価値観が優先されるからです。しかし、環境は変化し続けています。企業は環境適応業です。中長期的に見れば、その会社のビジネスモデルの限界が、その会社の限界になります。やり方を変えられないということは、企業の死=倒産を意味するのです。
 

「過去にとらわれてはいけない。だって時代は変化しているんですから」 セブン&アイホールディングス会長の鈴木敏文氏も当たり前のこととして、重要な言葉を残しています。
 

社長が社員を能力の有無で判断すると、組織を固定化させる要因になります。そして、組織の環境適応力を奪い去り、無力化させます。これが、会社を潰す原因になるのです。だから、社員を能力の有無で判断してはいけません。固定化したイメージ(ラベル)を貼り付けてはいけないのです。
 
 

念のため補足で解説をします。 “現在発揮している姿が、自分の能力の限界である” 社員がこう信じていると、会社はどうなるのでしょうか。
 

より根源的なところから探求してみましょう。動物を観察するのです。例えば、我が家の犬(5キロの小型犬)の話です。散歩中や自宅にいるときの様子を見ていて、いつも不思議に思うことがあります。20センチほどの溝の前で立ち止まったり、人間のベッドに手をつくものの自ら上らなかったり。身体能力的には余裕で移動できる溝や段差を、決して跳び越えようとしないのです。
 

犬のリード(紐)を引っ張り、無理やりにでも「できる」という経験を積み重ねることで、12~13センチほどの溝は越えられるようになりました。しかし、20センチほどの溝となると、今でも跳び越えられません。溝に蓋があるところまで遠回りをしています。何度も人間のベッドにのせていますが、自らジャンプをしません。抱き上げられるのを待っています。つまり、経験したことが無いことは、自ら挑戦しないのです。
 

この様子は、まるで自分に秘めた可能性に気づくことを恐れているかのようです。勝手に限界を決めて、その制限の中で生き続けようとしています。思い込みが作りだす限界です。
 

人間も動物の一種ですから、同じことが言えます。子供が親に甘えるために、挑戦をするのではなく、できないフリをすることがあります。根源的に “甘えられる立場を手放したくない” という欲求があるからです。実は、大人も同じなのです。
 

会社組織に置き換えて考えてください。中小企業や同族企業の多くは、社長が貼り付けた優秀社員・問題社員というイメージ(ラベル)が固定化されています。また、積極的にジョブローテーションをしておりません。ますます変えるきっかけを失っています。だから、特定の社員に特定の業務が貼りついてしまう。この状態を脱せられないのです。
 

例えば、御社の営業部門を思い出してください。6,7年、10、15年と同じ社員が同じ得意先を担当しているかもしれません。この場合、御社の営業社員は、慣れ親しんだ環境の中で、慣れ親しんだ営業スタイルを続けているだけです。だから得意先の業績に左右されます。自社に主導権はありません。得意先の業績が低迷すれば、自社の業績も伸び悩みます。
 

かつて小島が支援したコンサルティング先では、まさにこの状況でした。営業社員が20名ほど在籍していましたが、担当得意先が10数年も固定化していました。しかも、数年後に約3分の1の社員が定年を向かえる状況です。主要得意先の引継ぎが急務でした。
 

支援をする前は、定年が近いベテラン社員の後任として新入社員を配置していたそうです。しかし、いずれの新入社員も一人前になる前に退職してしまいました。実の親よりも年齢が高い大ベテラン、実の子供よりも年齢が低い新入社員、お互いにどのように仕事を引き継いでよいのか分からなかったからです。
 

小島は、数ある留意点ととともに、全営業担当者の担当得意先の変更を進言しました。そして、適切な準備期間を経て、担当得意先を大胆に変更しました。すると、実は予定通りなのですが、社長の予想を超えた結果となりました。
 

変更直後から、業績が低迷した得意先もあれば、信じられないほど業績が好転した得意先もありました。あまり業績が変わらなかった得意先もあります。
 

そこで、低迷した得意先は、前任者がフォローに入り、元の業績まで回復させながら引継ぎをしました。好転した得意先は、新しい担当者が新たなアイデアを出し、どんどんと取引額を増やしていきます。
 

しかも、面白いことに、優秀社員が新たな得意先で苦戦していたり、問題社員が新たな得意先で業績を好転させていたり、想定外に苦戦する姿や活躍する姿が沢山見られました。
 

この事例から分かるように、社員に能力の有無があるのではなく、能力が発揮できる環境があるかどうかが重要なのです。
 

他にも、主力社員を特定の業務から引き抜くと、残った社員から新たな主力社員が生まれたという話を良く聞きます。これは、残った社員が能力を発揮せざるを得ない環境になるからです。つまり、繰り返しになりますが、社員に能力の有無があるのではありません。能力が引き出される環境、適切な人格を引き出す環境があるかどうかなのです。
 

同じ社員でも様々な人格を持っています。誰しも、仕事中の顔や、家庭での顔、友人といるときの顔と、様々な顔があります。同じように、一人の社員の仕事の顔にも、挑戦を好む顔もあれば、自然体の顔もあるし、安定を好む顔もあります。もちろん、素養による傾向もあります。
 

仕事ではダメダメな社員が、社員旅行や宴会になると大活躍したり、子供の野球チームの監督として大活躍したりしています。逆に、仕事ではリーダーシップを発揮している社員が、家庭ではゴロゴロとしていたり、一人趣味の世界に没頭したりしています。
 

このように、どの人格が表出するかは、その社員が身をおいている環境によって決まります。その社員の無意識が、自動的に人格を選択しているからです。
  

この人格を引き出す環境として、社員に最も影響を与えているのは企業風土=社風です。成長し続ける会社は、挑戦する社風を持っています。だから、新たな経験を自ら選択し、社員が経験を積み重ね、確実に成長していきます。低迷する会社は、安定を優先する社風を持っています。だから、やり方を変えられず人が成長する機会を逸しているのです。
 

挑戦する社風に身をおくと、新入社員であっても、どんどんと実力を発揮していきます。積極的に役割や責任を引き受け、新たな経験を積み、次々に可能性を広げていくからです。ソフトバンクグループやサイバーエージェントのように、20代の社員が、僅か数年の社会人経験で子会社の社長になるような風土です。
 

一方で安定を優先する社風に身をおくと、40代、50代になったとしても、いち担当者レベルでとどまってしまいます。前例主義で、役割や責任を上司にゆだね、規定路線の中で社内政治を優先しているからです。淘汰されていった会社や、何十年もやり方を変えず細々と生き延びている会社のように、変われることを忘れてしまった風土です。
 

低迷する会社の社長は、社員を能力の有無で判断しています。永続発展する会社の社長は、社員が能力を発揮できる環境か否かで判断しています。
 

社長の仕事は、社員の能力を判断することではありません。能力を発揮できる環境を整備することです。いつ、どのように能力が発揮できる環境を整備していきますか。このタイミングで、自社をじっくりと見つめてください。そして、新たな風土づくりに着手してください。
 


 
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