ノートとペン 今週の「コジマ式 変革経営の視点」 代表 小島 主の経営者様向け専門コラム

第79話なぜ、社長が問題解決に注力すると失敗するのか

よかれと思って 問題解決 やればやるほど 症状悪化
第79話:「なぜ、社長が問題解決に注力すると失敗するのか」(よかれと思って 問題解決 やればやるほど 症状悪化)

 

「小島先生。どうしたらスタッフの問題解決力が高まるのでしょうか?」
 

先日、相談を受けたクリニックのT院長からのご質問です。
 

「T院長が問題解決に注力するほど失敗してしまいます。力点を変えてください」
 

こう答えると、T院長は前傾姿勢になり、小島をじっと見つめました。
 
 
 

T院長のクリニックは、開業して15年が経ちます。患者数が増えるにつれ、スタッフも増えてきました。3年程前から、保険診療だけでなく、遺伝子などの先進的な研究を活用した自由診療にも力を入れています。従来の治療法とは異なる新しいアプローチが採用されたため、現場は混乱しました。スタッフ・患者ともに正しく意図を理解し、新しい手順で取り組んでいかなければなりません。
 

この新しい治療法は、先進的な研究が進んでいる海外で多数の臨床事例があり、再現性の高いガイドラインが示されています。しかし、文化の異なる日本で実施するには、導入を妨害する多くの問題を克服しなければなりません。そのために、現場の試行錯誤が必要だったのです。そこで、T院長は現場の問題解決力を高めようと考えました。スタッフ向けの勉強会を何度も実施したり、プロジェクトチームをつくり問題解決活動を進めてきました。
 

しかし、現場の問題はなかなか解決されません。活動を強化すべく、T院長がスタッフに声をかけるほど、雰囲気が悪くなってしまいました。変化への恐れが、院長に対する不信感へと転化されていったのです。やがて、T院長とスタッフに深い溝ができました。患者を迎え入れる受付で、愚痴をこぼしあうスタッフ。患者への配慮よりも、不満を共有するおしゃべりが優先です。患者の立場で見れば、とても安心できません。事実、自由診療に力を入れてから、クリニックの評判はガタ落ちです。某検索サイトの直近の評価は、5段階のうち最低ランクの1が並んでいました。
 
 
 

なぜ、T院長が問題解決に注力したのに、活動は失敗してしまったのでしょうか。これは、多くの組織、多くの会社で共通して発生しているテーマです。
 
 
 

本来、問題解決は通常業務の一環です。しかし、日々お客様(患者)と対面している現場では通常のオペレーションが業務、問題解決活動は追加業務ととらえています。現場は慌しく、次から次へと応対しなければなりません。余裕がないこともあり、トラブルは対処をしただけで終わってしまいます。
 

根本的な対策が進むよう、トップは問題解決活動を組織に定着させようとします。口うるさく、活動状況を繰り返し報告させるのです。すると、現場は本来の目的を忘れてしまいます。本来の目的を見失い、報告することが目的になります。現場では、体裁の良い報告パターンがテンプレート化され、すばやく報告して終わり。現場の根本的な原因にメスは入りません。当然、問題を解決することはありません。
 
 
 

T院長は、これではいけないと考え、問題が発生した原因分析に注力しました。実は、これが状況を悪化させていたのです。
 

「なぜ、問題が発生したのか。この原因はどこにあるのか」トップが原因を追究するほど、現場はあら探しをされているように感じます。そして、過去の事実は変えられないため、自己防衛に走ります。つまり、環境や他人のせいにするのです。Tクリニックのスタッフは <新たな治療をはじめた院長が悪い> と考えるようになったのです。だから、自分達の振る舞いを変えずに、愚痴ばかり言うようになったのです。
 

本来、問題解決は <現状> から <あるべき姿> に組織を確実に導くために行います。壁になっている障害を乗り越えたり、効率よく推進したりするための手段です。しかし、 “原因が環境や他人のせいにある” と考えていると、現場は行動を変えるきっかけを失ってしまいます。
 
 
 

するとトップは、精神論をかかげるようになります。 「主体性を発揮しろ!」 とか 「自己責任の意識を持て!」 と、いいだすのです。T院長も、そうしてしまいました。こうなると、現場はさらに状況が悪化します。
 

責任感の強い真面目なスタッフは、自分に原因があると素直に考えます。そして、「何とかしなければ!」と必死に試みます。ところが、相互に不信感をもった組織で成果がでるはずがありません。一部の人間が、全身全霊で努力します。努力するほど、本人は苦しむことになります。やがて、心の病にかかってしまうか、身体の調子を崩してしまうか、です。いずれも働き続けられなくなります。
 

一方で、自身の生活を優先するスタッフは、表面的には自己責任で考えているような振る舞いをしますが、あくまで自己責任風です。内面では環境や他人のせいにしています。なぜなら、自己責任の意識で考えると身が持たないからです。これは人間の防衛本能として、当然の反応です。この状態が続くと、前述のように報告することが目的になります。すると
 

目的のはき違い → 環境や他人のせいにする → 精神論に走る → 目的のはき違い → …
 

と負の連鎖がより強固なものになってしまいます。トップから見ると、なぜ思ったような効果がでないのか? と不思議に感じる場面もあることでしょう。しかし、期待した効果がでない場合は、ほぼ間違いなく、この負の連鎖が当てはまります。
 

< よかれと思って 問題解決 やればやるほど 症状悪化 >
 

実は、これを克服する方法は簡単です。日本人(日本文化で働く人)が誤って認識している共通の価値観を正すだけで良いのです。
 

冷静に事実を分析し、問題の原因をどのようにとらえるのか。あるべき姿とそれに至るプロセスをどのようにとらえるのか。このツボをおさえるだけで、スタッフが本当の意味での自己責任の意識を持ち、自身の言動を自ら変えようとしていきます。
 

つまり、職場の問題解決力を高めるためには、問題解決に注力する前にやることがあるのです。この下準備をやらずに注力すると、トップが注力すればするほど、逆効果となり活動が失敗します。
 

問題解決のワナにご注意ください。多くの組織、多くの会社が共通してこのワナにおちいっています。このような負の連鎖を起こしてしまう人間の本質を理解してください。適切な下準備をした上で、御社の問題解決力を高めてください。
 

社員が、このツボをおさえると変わります。新たな視点を持つと、一気に問題解決が進むのです。どの立場にも共通して使える、有益なものごとの見方・考え方があります。ぜひ御社でも体験してみてください。他社よりも先に、問題解決力を高める下準備に着手してください。次は御社の番です。
 
 

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