第80話なぜ、社長の効率重視が非効率を生むのか
「ムダなことはやめましょう。さらにカイゼン。もっと効率を上げよう…。こう言い続けてきたのですが実は限界で…」
当社が定期的に開催しているセミナーの終了後、A社長から相談を受けました。A社長の会社は、小さな部品メーカーです。
これまで、何十年もカイゼン活動を続けてきました。はじめは工場、そして管理部門へと全社に展開しました。主要得意先の度重なるコスト削減要求に、何とか応えてきました。今ではカイゼンの文化が定着しました。
ところが、得意先の要求に終わりはありません。油断をすると他社に注文が流れてしまいます。引くに引けない状況です。A社長の表情は冴えません。危機感を募らせていました。
「A社長。御社のカイゼン活動による効率重視の考え方が、結果として非効率を生んでいます。なぜなら…」
こう答えると、A社長は合点が行ったようでした。
もちろん <カイゼン活動そのものが間違い> というわけではありません。とても大切な活動です。しかし、結果としてA社のボトルネックになってしまいました。
A社では「我が社は製造業。カイゼン活動は当たり前」と考えていました。この常識は、A社長が尽力した歴史によって組織に浸透したものです。かつては役に立った考え方ですが、時代が変わり今では成長をはばむワナになっています。現実を見れば一目瞭然です。得意先の要求にどれだけ応えても、一向に光が見えない状況。なかなか報われないと感じているのは、A社長自身でした。
そこで、A社長には、創業からこれまでの取り組みを冷静に振り返ってもらいました。
勤めていた工場を20代半ばで辞め「一旗揚げるぞ!」と決意し創業したそうです。はじめは、すべて社長の仕事でした。少しずつ仕事が増え、家族の手伝いにも、すぐに限界がきました。やがて社員を雇い、役割分担をしました。
さらに仕事が増え、社員も増え、部門に分かれました。個人から組織へ、家業から企業へ成長しはじめました。分業によって効率化を図ったのです。
ところが、社長が手をかけられない部分では、仕事のムダや社員のミスが散見されました。属人的な仕事になっていたからです。そこで、担当が代わっても支障が出ないように、帳票を整えたり、業務手順を明確にしたりしました。仕事の仕組み化によって効率化を図りました。
やがて、主要得意先とのパイプを太くしました。効率よく受注を確保するために、下請けという道を選択したのです。その後、主張得意先からの指導もあり、5S活動やカイゼン活動を取り入れました。ムダを省き、さらなる効率化をすすめてきたのです。
しかし、主要得意先がいつまでも成長し続けるとは限りません。景気の波とともに、主要得意先からのコスト削減要求は厳しくなりました。A社はこれに必死に応えました。このプロセスで、効率化重視の思考パターンが、A社全体に浸透しました。
A社の歴史が効率化重視の思考パターンをつくり、その結果、根本的な非効率を生み出していたのです。なぜなら、守りに注力した効率化だからです。
製造業で当たり前とされているカイゼン活動や5S活動をどれだけ続けても、限界があります。業績をつくる計算式 < 利益 = 売上 - 費用 > を見れば簡単です。これらの活動は、売上を増やす主導権がなく、費用を減らすことに注力したアプローチだからです。
つまり、内向きの効率化は、<事業を根本的に成長させる戦略的な取り組みではない> から根本的に非効率なのです。はやい話が、<どれだけやってもコントロールされる側では勝てない> からです。
社長は、今の事業モデルの限界を察知し、いち早く新しい事業モデルを考えなければなりません。もっと社会の役に立ち、しっかり儲かる事業モデルを考え、自社を通じて実現させること、それが仕事です。
いうまでもなく、戦略のミスは戦術でカバーできません。最も効率を高めるためには、売上の主導権を握る外向きの活動に注力する方が先なのです。儲かる事業モデルによる売上は全てを癒す。社長は、この点を改めて認識しなけれなりません。
「儲かる事業モデルを考えること。社長なら当然でしょ」と思う方も多いでしょう。A社の事例を聞くとなおさらです。ところが、実態はできていない会社が多いものです。なぜなら社長が分かっていても、なかなかできないからです。
A社長も、その一人でした。新しい事業モデルは、社長が考える仕事です。しかし、じっくりと考える時間もなければ、新たな発想もできませんでした。既存ルールの中で効率化ばかり考えてきたため、社長自身が戦い方を変えられません。新しいルールのイメージがわかないからです。
例えイメージがわいたとしても、それを実行する社員がいません。長年下請けでやってきたため、開発や営業機能が退化しきっています。それに、既存の仕組みに安住した社員は、戦い方を変えることに全力で抵抗するものです。
先日、某大手不動産会社が経営するイベントホール・貸し会議室の予約プロセスを知って驚きました。都内で有名なあの会場です。スタイリッシュなWebサイトとは対象的に、仮予約・本予約の申込手段はFAXでした。
電話で空き状況を確認。その後、申込書のPDFをダウンロードすると、入力フォームの設定がありません。ただの画像データです。手書きにしても、データを追記しても、いずれも手間がかかります。空き状況の確認から仮予約 → 本予約 → 備品予約 …と、会議室の手配一つで1時間以上かかってしまいます。申込企業にとっても、受付企業にとっても、お互いに手間がかかりムダです。ムダの極みです。
カイゼン活動では、申込欄を見直したり、申込書をはさむファイルを整えたり、社内の予約情報をシステム化したそうです。しかし、利用者側も運営側も、お互いに手間は変わりません。
他社の貸し会議室では、カイゼンしウェブ上で手続きができるケースもあります。それでも、その多くが、ユーザーや運営担当者の使い勝手を無視したような、とにかく使い難いものばかりです。( UI/UXへの考慮が全く感じられない)
笑い話のようですが、このような事例は多くの会社でやっているカイゼン活動です。A社長のこの話をすると、我が社にも当てはまっている…と肩を落としていました。
実は、既存ルールベースのカイゼン活動は、カイゼンの皮を被った雇用確保システムです。社員は、社長に活動をアピールをしますが、自身の雇用を確保するために、決して戦い方を変えません。新たな戦い方をはじめから拒否してしまうのです。
当然、根本的に戦い方を変えるには、試行錯誤が必要です。ムダにも見える失敗が、新たな事業を実現するヒントになります。ところが既存ルールで効率化を図り続けた会社は、誤って認識しています。
前例が無いから試行錯誤をするのに、確実に成果がでないことはムダであると信じてしまうのです。社長も社員も、試行錯誤を許容できなくなります。
新しい戦い方で他社を出し抜くためには、未知の領域に挑戦し、試行錯誤をするしかありません。確実だとわかってから参入するようでは、すでに出遅れています。にも関わらず、目先の効率化病にかかると、成功する保障がないと踏み出せなくなるのです。
< ムダなことは やめましょう この効率重視が 非効率 >
儲かる事業モデルを考えるためには、社長も社員も変わらなければなりません。真正面から一見ムダに見えること、面倒でやりたくないことに向き合う仕組みが必要なのです。
つまり、根本的に会社の戦い方を見直す全社公式の仕組みが必要なのです。社長と社員が力を合わせて、既存の仕組みを見直す、そんな仕組みです。
この仕組みを通じて、社長は次の儲かる事業モデルを考える。この仕組みを通じて、社員は次の儲かる事業モデルを実現する。戦い方を変える文化をもった組織は、柔軟に成長します。仕組みを見直す全社公式の仕組み。次は御社が構築する番です。
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