第48話トップセールスマンにみる営業社員のモチベーション
「社員にやる気が無いんですよ。指示待ちタイプが多くて、本当に困ります」
M社長は、営業社員のモチベーション不足に悩んでいました。
M社長の会社は、既存得意先の案件が減少する中、新規顧客の開拓が急務といった状況のようです。営業戦略を立て、営業会議でターゲットと提案する製品を明確に指示をします。しかし、営業社員がアプローチするものの、なかなか成果につながりません。
その様子を見ると「何が何でも受注してみせる!」という気概が感じられません。指示したことしかやらない。そんな営業社員では、新規顧客を開拓するなんてできるわけが無いだろう。もっと自立した営業社員がいれば助かるのに…とM社長は考えていました。
約20名いる営業社員のうち、M社長が納得できる社員はSさんたった一人。自らストーリーを描き、実際に行動して成果につなげている。彼みたいにモチベーションが高い社員が、あと数人いれば助かるのに…と願っていました。この一方で、社内を見渡すと残念で極まりありません。
「指示待ち社員に限って、立場や権利を主張するんですよ。たいして義務は果たしていないのに、立場を上手く使い分けていましてね…」
そんな愚痴がでてしまいます。「政府が提唱する<働き方改革><人づくり革命><生産性革命>に躍らされ、労働環境がどーのこーのいう社員も増えてきたんですよ。その前にしっかり成果を出してくれなければ、まだいいんですがね」思わず本音が出てしまいます。
話を戻します。営業社員の状況をじっくりと伺うと、“原因はモチベーションにある”と考えていました。
トップセールスマンは、モチベーションが高いから創意工夫をして結果を出す。指示待ち社員は、モチベーションが低いから言われたことしかやらず結果が出ない。だから社員のモチベーションを上げなければ。という発想です。
これまで、M社長はいろいろと手を打ってきました。営業社員のモチベーションを高めるために、表彰制度を見直したり、社員研修をしたり、旅行や運動会などのイベントを開催したり、クラウドツールを入れたり、考えうる施策を次々打ってきました。
実は、これが大きな間違いだと気がつかず…。
「指示待ちタイプの営業社員。この原因は、モチベーションにはありません。経営資源がもったいないので、今すぐ優先順位を変えてください」
小島がそう伝えると、首をかしげていました。
これまで打ってきた手は、場合によっては有効なアプローチです。ただし、「根本原因にメスを入れた後であれば」という条件がつきます。今回は、ここにメスを入れる前。結果として焼け石に水となります。残念ながら事態は改善しないのです。
社員が指示待ちになってしまう根本原因とは何なのか。それは、社員の頭の中が整理されていないことです。
何をどうするのか、どういった順番でやるのか。社員の頭の中が整理されておらず、今やるべきことが分からないから動けなくなってしまう。ただそれだけなのです。
M社長は、目を見開き静かにうなづきました。
M社長は、目を見開き静かにうなづきました。
つまり、新規開拓先のターゲット企業や提案する製品を明確にしたとしても、どうやってアポイントをとるのか、どうやって信頼関係を構築するのか、どうやってニーズを引き出し、どうやって意思決定してもらうのか、この具体的な手順が分からず我流でやるから上手くいかない。上手くいかないから、やる気も無くなる。数回繰り返すと、ますますやる気が無くなる。すると、営業社員としての役割・使命を果たすよりも、目標管理で設定した行動基準をクリアするためにだけに、ただ行動するという状況になってしまうのです。
例えるなら、自転車に乗る練習をする子どもが挫折をしてしまうことです。親子で練習をしている姿を想像してください。
父親は「自転車の乗れると世界が広がるよ!だから乗れるように練習しよう」と目的を伝え、動機付けをします。
ここでいきなり練習をスタートするとどうなるでしょうか?
何をどうするのか、どういった順番でやるのか、子どもは頭の中が整理できておらず混乱したまま練習をスタートします。父親が後ろから支えながら、少しずつ前にすすみ、そっと手を離します。すると子どもはバランスを崩し、自転車を倒してしまうでしょう。
すると父親は声をかけます。「もっとバランスをとって!」「もっとちゃんとべダルをこいで!」「ちがう!バランスをとって!」「ちゃんとこぐの!」「こぎながらバランスもとるんだよ!」これを何度も繰り返すうちに、子どもはさらに混乱し、やる気がなくなります。
そこで、「やる気を出そう!もう一度頑張ろう!」と何度も声をかけても逆効果です。子どもはどんどん嫌になります。一時的にモチベーションが上がったとしても、すぐに下がってしまうでしょう。やがて泣き出してしまいます。そして、練習を中断するか、もし続けたとしても父親に怒られないために受身で練習をするだけになります。
それでは、どうやって練習したらよいのでしょうか。
目的や動機付けをしたあとに、やるべきこととは何なのか。何をどうするのか、どういった手順でやるのかを伝えることで、具体的に子どもの頭の中を整理してあげるのです。
つまり、「自転車に乗れるようになるには、2つのポイントがあるよ。バランスをとることと、こいで前に進むこと。まずはバランスをとる練習をしよう」と声をかけ、具体的にやるべきことを整理してあげるのです。
まずは、事前にべダルを外しておいた自転車を渡します。そして、「両足で地面を蹴って前に進み、バランスをとってみよう。足を地面から何秒離せるかな?」と声をかけ、実際に練習をさせるのです。
すると、こぐ必要が無いため安心して自転車にまたがります。サドルの高さを、両足がしっかりと地面につくまで下げておけば、恐がることなく練習を続けます。「もうちょっと強く地面を蹴ってみて」「もう1秒長く足をうかせてみて」とやっていれば、やがてバランスがとれるようになるのです。
その後、幅が広く緩やかな坂に移動します。そこで、バランスをとりながら、ゆっくりとジグザグ左右に曲がりながら降りてくる練習をします。ここでバランスをとりながら曲がる操作とブレーキで止まる操作を身体で覚えます。
ここをクリアしたあとに、ようやくこぐステップに進みます。自転車にペダルをつけて、実際にこぐ練習をスタートします。バランスが先で、こいで前に進むことが後。先にバランスをとれるようになっているので、こぐ時にも自然とバランスを取りながらこぎ始めます。
このように、何をどうするのか、どういった手順でやるのか、具体的に伝えるだけで挫折することなく、すぐに自転車に乗れるようになります。この手順でやれば、ほとんどの子どもが2時間足らずで自転車にのれるようになるのです。
営業社員も一緒です。何をどうするのか、どういった手順でやるのか。
頭の中が整理されていないから、やるべきことが分からないだけ。だから受身で動けないだけなのです。
もし、頭の中が整理されていれば、やるべきことが分かります。だから自ら動けるようになるのです。
稀にいるトップセールスマンは、このやるべきことを自ら把握しているから、自ら考え行動しているように見えます。そして、確実に成果を出していきます。
多くの指示待ち型の受け身社員は、このやるべきことを知らないから、行動に移せずやる気が無いように見えます。そして、なかなか成果につなげられません。
この原因は、モチベーションではありません。
大切なことなのでもう一度お伝えします。この原因はモチベーションではないのです。
だったら、どうしたらよいのでしょうか。もうお分かりですね。
何をどうしたらよいのか、どういった手順でやるのか。何らかの仕組みで、普通の社員でも分かるようしてあげましょう。
いつまでも口頭で伝えるようであれば、人に依存してしまいます。労力がかかりすぎるわりに、ノウハウが社内に残りません。人が変われば再現できなってしまいます。だから、何らかの仕組みをつくり、普通の社員でも分かるようにしてあげてください。
少し補足すると、2:6:2の法則で言えば、上位2割の社員が把握している優先順位の高いやるべきことを、中位6割、下位2割の社員でも分かるような仕組みをつくってください。
(上位2割のうちの上位2割、つまり上位4%の社員がやっていることは、普通の社員ではマネができない特殊ケースが多くみられます。そのため、2:6:2の上位2割の社員をモデルにすることをおススメします)
M社長の会社も、まずは、こういった仕組みづくりを優先すると良いでしょう。さまざまな施策は、その後です。この話をすると、よく「マニュアルを整備すれば良いのですね」と受け止める方もいますが、注意が必要です。
マニュアルは、現場で活用されなければ意味がありません。ISOマニュアルのように、書類棚に眠っているだけのマニュアルや、社内システムに保存されているだけのマニュアルではなく、日常業務で使用する仕組みとして、整備してみてください。
御社は、モチベーション施策の前にどのような仕組みを整備していきますか?
御社ならではの仕組みを、じっくりと整備してみてください。
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