第84話不具合と問題。なぜ、同一化せず、区別するのか
「あの不具合は何とかならないの? どうしたら無くせる?」──M社長は、落ち着いて部門責任者に問いかけました。実はこの十数秒前、怒りの感情を生唾ともに飲み込み、ゆっくりと3回深呼吸をしたそうです。
M社長は、かつて社員から“瞬間湯沸かし器”と恐れられていました。しかし、これではマズイと思う出来事があり、“頭ごなしに指摘をしない”と決めました。裸の王様にならなぬように、数ヶ月前から努力していたのです。
(感情的に怒ってはいけない。冷静にならなければ社員と意思疎通ができない。アドバイスの目的は、あくまで不具合を解消すること、状況を良くすること)」──心の中でこう言い聞かせていました。
にも関わらず、なかなか効果が感じられなかったそうです。そこで、弊社セミナーにご参加いただいた後、ご相談にいらっしゃいました。
不具合は組織のいたるところで発生しています。単独で発生するケースもあれば、繰り返し発生しているケースもあります。
「社長!不具合が発生しました!」
あなたは、社員からの報告を聞いてどう感じますか。不具合をトラブルやクレームと置き換えてもよいでしょう。
取引先に迷惑をかける。謝罪が必要になる。2度手間になる。無駄が発生し利益率が下がる。できれば無くしたい。とても喜ばしいことではない…
どちらかといえば良くないイメージではないでしょうか。気持ちは良くわかります。
しかし、こういったイメージや感情に流されてはいけません。なぜなら、業績が悪い会社ほど、不具合に対してイライラしているからです。社長も幹部社員も総じて同じ傾向が見られます。
なぜイライラしてしまうのでしょうか。それは、【 不具合 = 問題 】というように、不具合と問題を同一化して捉えているからです。
一方で、業績が良い会社ほど、社長も幹部社員も総じて不具合に対して冷静に向き合っています。
なぜ冷静に向き合うことができるのでしょうか。それは、【 不具合 ≠ 問題 】というように、不具合と問題を区別して捉えているからです。
< 不具合と問題。同一化する組織は、解決を見失う。区別する組織は、自ら突破する>
不具合と問題は同じものではありません。これが結論です。なぜなら、問題は不具合のずっと前からあるものだからです。当たり前のことですが、盲点になっているケースが多いものです。
つまり、御社には社長も社員もまだ気づいていない問題が先にあるのです。それが仕事の流れや人間関係を蝕み、やがて不具合として表面化するのです。表面化することで、はじめて認識することができます。そして、「何とかしなければ!」という活動が起こせるのです。
ゆえに、不具合は問題というよりも、解決のはじまりなのです。だから、不具合にイライラするのではなく、不具合に感謝するとよいのです。
社長が自社の不具合にイライラすると、その感情が相手に伝わります。そして、幹部社員の無意識は、いやな感覚を味わいたくないので、不具合に向き合うこと避けます。すると、不具合を隠蔽するようになります。
そして、幹部社員が職場の不具合にイライラすると、その感情も相手に伝わります。先ほどと同様に、現場の社員達の無意識は嫌な感覚を味わいたくありません。現場社員も不具合に向き合うことを避け、隠蔽するのです。
これらは、意識せずともやってしまう行為です。すると、御社の中で隠蔽行為がミルフィーユのように、何層にも重なっていきます。風通しが良くなるはずがありません。現場の建設的な意見も出にくくなります。もし、意見が出たとしても、一つ上の階層に潰されてしまいます。社長の耳には届きません。
結果として、本来解決すべき問題に、組織的に向き合うことができなくなるのです。
< 不具合と問題。同一化する組織は、解決を見失う。区別する組織は、自ら突破する>
不具合と問題。二つを同一化するから気づけなくなります。区別するから気づくことができるのです。主観的なままでは気づけません。分けて客観的にするから気づけるのです。
一方で、解決への取り組みはこの逆になります。客観的なままでは動けません。当事者として、主観的になるから動くことができるのです。
また、同じ【問題】という言葉にも、解釈の仕方はいろいろあります。すでに不具合にまで発展した問題、将来的に不具合に発展する問題、発症するか分からない潜在的な問題などです。他にも【課題】という表現があったり、問題と原因(真因)と表現したり、表現方法はさまざまです。
いずれにせよ、業績が悪い会社は、言葉の定義が曖昧で同一化しているケースが多いものです。頻繁に見られるケースが、コミュニケーションの問題をホウレンソウ(報告・連絡・相談)しろよ!というスローガンで片付けるケースです。報告と連絡と相談の区別がついていません。そもそも職場におけるコミュニケーションの目的も示していません。
お互いの認識にズレが生じ、誤解が発展し感情的な対立になっています。逆に、業績の良い会社は、言葉の定義が明確で区別しているケースが多いものです。お互いに共通認識できるため、相互協力する関係性を築きやすくなります。
この違いをM社長にお伝えしました。すると「小島先生。確かに不具合=問題と考えていました。だからイライラを抑えられなかったんだと思います。単純に区別するだけで、冷静に向き合えますね」とおっしゃいました。その表情からも、肩の力が抜けて、頭の中がクリアになった様子が伺えました。
御社は、不具合と問題をどのようにとらえていますか。もし、同じように取り扱っているとしたら、明確に区別してください。そして、他にも何をどのように定義しますか。御社が、さらに強く魅力ある企業になるために、前もって手を打つ文化、全社員が進化成長しながら稼ぐ文化をつくる必要があります。
こういった文化は、ポイントを押さえた言葉の定義が必要です。ぜひ、ちょっとしたコツを知ったうえで、先行経営に必要な着眼を定義してください。次にヒトや組織の “まだ見ぬポテンシャル” を最大限引き出すのは、御社の番です。
※追伸:当社は、先行経営に必要な着眼を定義し活用することで「社長も社員も心から安心できる状態をつくる 【3年分 受注残をつくる経営】(業績3年 先行管理のすすめ方)」を公開しております。この弊社セミナーでは、コラムではお伝えしきれない具体的な事例も、多数紹介します。興味のある社長様は、ぜひご参加ください。