ノートとペン 今週の「コジマ式 変革経営の視点」 代表 小島 主の経営者様向け専門コラム

第45話信頼しているあの役員がガン細胞になる前に

良薬が苦いように、本質的な気づきも 苦いものだ どちらに耳を傾けるべきか
第45話:「信頼しているあの役員がガン細胞になる前に」(良薬が苦いように、本質的な気づきも 苦いものだ どちらに耳を傾けるべきか)

 

「我が社の社員は、そんなことはしっかりやっているはずだ…」
 

ある上場会社のS取締役が、目を三角にしておっしゃいました。若手・中堅社員向けの研修を実施した際の懇親会の出来事です。
 

この会社は、弊社のコンサルティング先ではなく、縁あって研修のみ実施した企業様です。
 

S取締役は、社員同士が再会を喜びながら酒を交わす姿を眺め、気分がよくなったのでしょう。愛しい社員だからこそ、嬉しくてご自身も飲みすぎてしまったのかもしれません。
 

この数秒前にこんな会話をしていました。
 

「先生。我が社の社員はどうですか?」
 

「そうですね。沢山魅力があります。ただ、やはり課題はこういった点にありますね」
 

外部の人間だから伝えられることがあります。小島は役割に徹し、ストレートに課題を伝えました。
 
 

すると冒頭の言葉になったのです。
 

「我が社の社員は、そんなことはしっかりやっているはずだ。そんなことより私はあなたに不満がある…」
 

どうやらアドバイスを求められていたのではなく、小島に対する不満を伝えたかったようです。
 
 

2010年代に入り現在の経営環境を象徴する言葉として、VUCA(ブーカ:変動性Volatility、不確実性Uncertainty、複雑性Complexity、曖昧性Ambiguity)の時代が到来したと言われています。一言で言えば、複雑かつ不透明な経営環境です。
 

どの企業も、今までと同じ戦い方を続けているだけでは、この難局を乗り越えることはできません。
 

そこで、人事部門は「社員の指示待ちのスタンスを脱却しなければならない」と考えました。そして、若手・中堅社員に「自立型社員として自ら考え行動できるようになってほしい」「それぞれの立場でリーダーシップを発揮し、周りを巻き込んでほしい」という思いがあり、今回の研修が企画されました。
 

研修1日目、体験と知識のインプットを通じて、土台となる部分のレクチャーは終わりました。そして、その夜の懇親会です。単に親睦を深めるだけでなく、2日目の学びにつなげる貴重な機会です。
 

また、リーダー(導く人)とフォロワー(支え導かれる人)は役割です。権限に関わらず、強烈にリーダーシップを発揮する方がいると、周りは自然とフォロワーになります。当然のことです。
 

今回の研修の意図もあり、懇親会では受講生の主体性を引き出そうと考え、小島は大人しくしていました。周囲の方と軽くお話をする程度です。講師がグイグイ前に出て場を仕切ると、皆さんは聞き手になってしまいますし、受講生同士が関わる機会も減ってしまう。このデメリットを懸念したため、控えめにしていました。
 

ところがS取締役は、全く異なる視点で小島を眺めていました。そして、全く異なる判断基準のもと不満を感じ、腹を立てていたようです。
 

「うちの社員には、自ら考え周りを巻き込む人間力を高めてほしい。だから人事に研修を許可した。にも関わらず、講師であるあなたが親睦会で周りを巻き込んでいない。そんなヤツに教えられるのか。宴会の場をグイグイしきり、盛り上げるぐらいの人間じゃないと教えられないはずだ。あなたが講師で残念だ」
 

と続けました。確かに見方によっては、そういった解釈もできます。
 

しかし、そのスタンスでは講師自身の魅力を伝えることはできても、受講生の自立性や、権限にとらわれないリーダーシップを引き出すことはできません。有名人とその追っかけ(ファン)の関係のように、主従関係がはっきりしてしまうからです。
 

残念な気持ちにさせたことは事実です。この点はお詫びをしたうえで、小島の意図をお伝えしました。すると、
 

「言い訳するなよ。本当につまらないやつだな。1曲ぐらい歌ってこの場を盛り上げてみろよ」
 

という返答。その後も、声を荒げ言いたい放題です。驚くべきことに、人事部長や受講生がいる前で、講師に対してこの振る舞いです。平成も最後の年に、どこまで昭和スタイルなのでしょうか。
 

本当に受講生と会社の将来を考えたら、今回のような言動はありえないはずです。普段もそういった振る舞いを社内でしていると思うと、社員の皆さんがかわいそうです。パワハラと指導の区別を誤って認識している典型例です。
 

実は、このS取締役。研修冒頭の挨拶と懇親会にのみ参加したのですが、そのわずかな時間に、人事部長や受講生の上司、そして受講生からものすごく忖度されている様子が伺えました。そして、この言動です。
 

これまでどれだけ立派な実績を上げてこられたかは分かりません。しかし、現在の裸の王様のような関係性では、現場社員の本音や提言がS取締役の耳に届くことはないでしょう。
 

小島は、おそらくS取締役がグイグイと引っ張るような変革型リーダーシップ(1980年代ごろから見られるもの)のみが正しいリーダーの姿だと信じて止まないのだろう。VUCA時代における普通の人々による権限によらないリーダーシップの存在とその育み方を認識していないのだろうと推察しました。
 

そして小島は役割に徹し、S取締役の耳元で静かに伝えました。
 

「あなたのそういった振る舞いが、大切な社員の皆さんの自ら考える力、行動する力、周りを巻き込む力の芽を摘んでいるのではないでしょうか」
 

正直、言い過ぎました。伝え方の配慮が不足していた点も否めません。失敗しました。受講生に聞こえないように配慮をしたつもりが、逆に腸が煮えくり返ってしまったようです。
 

しばらく口論が続きましたが、話は平行線のまま。やがてS取締役は席を蹴って親睦会の会場を出て行きました。
 

研修の主役は、受講なされた社員の皆さんです。お見送りをした後、人事部長とお話し、研修の目的を達成することを改めて約束しました。
 

そして、研修二日目の朝はこの出来事を題材に、自己責任の意識や自立、コミュニケーションに関する学びにつなげました。小島とS取締役、お互いの意図と至らぬ点を確認し、どうしたら良かったのかと最善のオプションを考える機会にしました。
 

もちろん、小島も完璧ではありませんし、出来ていない部分も非常に多くあります。しかし、客観的な立場だからこそ伝えられることがあります。
 
 

それをどのように受け止めるのか。

 

良薬が苦いように、本質的な気づきも苦いものです。
 

この気づきは内部の人間だけではなかなか見つけられません。外部からの問いかけが、気づきをうながすヒントになります。
 

今、心地よいことは全て毒になると思え。今、嫌なことは全て薬になると思え。
 耳を傾けるべきヒントは、どちらに隠れているのか。
 

これぐらい極端に考えたほうが良いでしょう。
 
 

御社の役員はいかがでしょうか。あなたが信頼しているあの役員。会社を愛し、精力的に活動しているからといって安心してはいけません。
 

過去にどれだけ貢献したとしても、過剰に忖度されている様子が感じられたら、注意してください。ひょっとしたら、今回のケースのように組織のガン細胞に変異しかけているかもしれません。
 
 
 少し補足しましょう。どこの会社にも課題があります。自社だけでは難しい。外部機関の活用を考えるケースもあるでしょう。このとき、経営コンサルタントや研修講師にも大きく2種類いるので注意してください。
 
(1)耳障りの良いことを言う太鼓叩き系コンサルタント
(2)適切に課題を伝え、気づき・変革をうながすコンサルタント
 

御社を次のステージに導くのは、どちらのスタンスのコンサルタントでしょうか。何のために外部機関を活用するのか。この目的を踏まえ、判断すると良いでしょう。
 

小島は、後者を心がけておりますが、今回は配慮が足りませんでした。どのような提言をしても、相手が受け入れられなければ意味がありません。この出来事を改めて振り返りながら、学びの機会になったなぁと反省しました。S取締役ありがとうございました。
 
 

 御社は、自社の課題にどのように向き合いますか。そして、その課題をどのように乗り越えますか。

 
 

追伸>
 今回の出来事を恩師に伝えると一言。
 
「人のふり見て、我がふり直せ(笑)」
 
 的を射たお言葉に思わず笑ってしまいました。こんなアドバイスをサラッと言える方についていきたくなりますね。外に耳を傾けて、何かに反応したら内(自分)に向きあい、自分をちょとだけ正していく。そんな時間を大切にしようと思います。

 

 

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