第90話実践主義の社長と、実現・具現主義の社長の違い
「ちゃんとやったのか。やってみなけりゃ分からないだろ」
計画通りものごとが進んだら…。これほどありがたいことはありません。実際には、前提条件が変わったり、想定外のトラブルに見舞われたり…、物事を思い通りに進めることは容易ではありません。
ですから、「何事もやってみなければ分からない」ものです。特に、新規事業の立ち上げや、新製品の開発、新規得意先の開拓など、試行錯誤が当たり前の取り組みは、実際に行動に移すことで形が見えてきます。
< 頭の中で思考したことが正しいかどうかは、実際に行動してみてわかってくる >
こう信じている社長は多いものです。実践主義の社長です。このタイプの社長の会社は、管理サイクルを回すことを重視しています。いわゆるPDCAサイクルです。
しかし、この発想には、大きな落とし穴があります。なぜなら、多くの組織では、< 実際に行動してばかりだから、分からない。だから実現しない。 >という状況になっているからです。
早い話、行動すること(Do)にこだわりすぎて、十分に吟味されていない。原因の追究や、上手くいく要因・条件を理解せずに、ただ繰り返しているだけ。これまで経験したことが次に活かされてない。教訓が活かされていない。こんなケースが非常に多いものです。
社員は、社長の前では“それなりに吟味している顔(Check→Action→Plan)”を見せています。しかし、実際にはどう考えてよいのか迷っているものです。視野が限られているため、従来の常識にとらわれてしまうからです。
この背景には、これまで社長の指示に何年も従ってきたこと、が影響しています。社員は社長の期待に忠実に応える続けることで貢献してきました。そのため、自ら考える機会を失っていたのです。これは、致し方ないことです。
このタイプの社員達は、どのように考えたら良いのか分かりません。でも、何か行動に移していないと社長に指摘されてしまいます。ところが、何をやったら良いのか分からず…。この板ばさみで行動が中途半端になります。
そのうち、社長は具体的な指示をして「まずはやってみろよ」と催促します。十分に行動に移せていないことに苛立ちを感じるため、それとなく指摘するのです。
多くの組織の中で、この無限ループが回り続けています。結局、十分に吟味されていません。
表面的な思考では、どこまでいっても労働集約的な働き方しかできません。つまり、作業賃でしか売上をあげられません。
「いいからやれよ!」「とにかく訪問してこい!」「足で稼げ!」
こういった言葉が、社長や幹部社員の口癖になっている会社、作業を仕事だと思っている会社は、結局稼ぐことができません。
「そんなことはない。我が社の社員は、十分に考えつくしている」
とお話しする社長もいます。
しかし、本当に考えつくしている会社は稀です。ほとんどの会社は、単なる研修会を開催しているだけです。
幹部社員を集めクロスSWOT分析をして…。マーケティング4Pや3Cに当てはめて…。とよくあるフレームワークで既存の情報を整理しているだけです。
本来、「考える」とは、どうやって我が社が生き残るのか、どうやって他社を出し抜くのか、を探求するものです。ですから新たな視点で発想しなければなりません。にも関わらず、既存のフレームワークで考えようとしているのです。
既存のフレームワークには、それを超えた新たな視点が含まれません。だから、業界や他社と同質の戦い方しかできなくなります。
教育はできても、考えつくせないのです。我が社ならではの価値を生み出すという観点からズレてしまうのです。それでいて、考えているつもりになってしまいます。
「考えているつもり」でも、実際には考えるような動作を「やっているだけ」です。
このように、「やってみろ」と行動を重視する会社も、「考えているつもり」になっている会社も、どちらも同じです。
サボっているつもりはありません。良かれと思って、努力をしています。しかし、効果や成果で考えると、いずれも「時間」と「お金」を浪費しているのです。
< やるしかない。この発想が、時間とお金を浪費する >
しいて言えば、「お金」は後から取り返すことができます。でも、「時間」は取り返すことができません。経営において「時間」の価値は計り知れないものです。この貴重な時間を、ついつい浪費してしまう…。こうならないように注意してください。
ですから、次のように考えてください。
< 「やるしかない」 ではなく 「考えるしかない」 >
行動重視で考える実践主義の社長は「早い者勝ちだ!」といいます。その通りです。しかし、世の中をみると、実際にはスピードよりも「アイデア勝ち」の世界です。アイデアで勝った上で、スピードが大切なだけです。
< 早い者勝ちは変わらないが、アイデア勝ちには叶わない >
商店街の書店はAmazonのアイデアに淘汰されました。固定電話や携帯電話はスマートフォンのアイデアに淘汰されました。税理士など作業を代行していたサービス業は、クラウドサービスや自動化の波が打ち寄せています。自動車をはじめとした所有前提の製造業は、シェアの波が打ち寄せています。
< アイデアは、スピードに先立つ >
誰かがつくった土俵でスピード勝負に挑むよりも、自らのアイデアで新しい土俵をつくって勝負する。これが本当の挑戦です。
何らかの催しに参加するのではなく、自ら企画運営側になる。アイデアを考えつくし、時代にマッチしたものを提供すれば、既存のパイを取り合う戦いではなく、新たな市場を生み出すことができます。
ですから、新たなアイデアを生み出さない実践主義は、悲しい結果を招きます。
< やるしかない。この発想は、死ぬしかない >
だからこそ、これまでの経験を次に活かすために、とことん考え抜くこと。限られた時間で考えつくすことが大切です。これが、しっかり稼いでいる実現・具現化している社長の共通点です。
考えつくすプロセスでは、必ず自社に向き合うこと、自分に向き合うことになります。これは分かっていても、難しいものです。気合いと根性ではできません。必ず痛みをともなうからです。
人間の本能は、痛みを避けようとします。だから、考えつくす場を設けましょう。仕組みで、人間の快・痛みを逆手にとり、考えつくすほうが快だという状況をつくるのです。
そして、会社全体の稼ぐ仕組みの骨子は、社長が考えつくすこと。これは社長の仕事です。社員に任せるものではありません。そして、この稼ぐ仕組みを形にしたり、仕組みを使って実際に稼いだりするのは、社員の仕事です。社員は、実行レベルで考えつくすのです。
このヒントは「場」です。「場」が社員を動かします。考えつくす「場」を設けて、とことん考えつくしましょう。人は考えつくすと「本当にこの考えで良かったのか」と検証したくなります。だから、思わず自ら行動に移すようになるのです。
さぁ、考えつくす場を設けましょう。この場は、適切な危機感を共通認識するための場にもなります。
「結局、何とかなるでしょ」と思っている社長は、現実的に将来の業績を試算してください。受注残を確認するとよいでしょう。社員も同様です。試算プロセスと試算結果を社員に共有しましょう。すると、適切な危機感をもつことができます。
過去と現在と未来をつなぎ、とことん考えつくす。御社ならではの考えつくす場を設けましょう。私どもは、考えつくす社長を応援しております。
※追伸:当社は、社長も社員もお互いに考えつくす仕組みとして 【3年分 受注残をつくる経営】(業績3年 先行管理のすすめ方)を公開しております。毎月とことん考えつくし、将来の業績を試算しなおす経営手法です。弊社セミナーだけでお伝えする具体事例やその留意点があります。興味のある社長様は、ぜひセミナーにご参加ください。