第102話御社はどちら?大器晩成型か、大器早成型か
「受注が不安定で、いろいろ策を打っているのですが…」
先日、ご相談に来られたM社長のお言葉です。高額製品の製造・販売をしているものの、競合との差別化が難しく、受注に波があるようです。受注の平準化に頭を痛めていました。
「ひょっとしたら、コタツに入って食べるみかん状態かもしれませんよ。注意してください」
一通りお話を聞いた後、小島がお伝えした冒頭の一言です。いったいどういうことでしょうか。
M社長の会社は、コツコツと策を打ち続け努力していました。この努力はとても素晴らしいものです。しかし、その方向性に問題があると感じたのです。
M社のような大器晩成型の会社は、市場の入り口(常識・前提)が正面だと思っています。つまり、業界の常識や前提に忠実で、従来のパターンの中で努力をしているのです。
例えば、小売業であれば52週販促カレンダーをつくり、同業他社と同じように月ごとの行事や記念日に合わせてプロモーションをします。もちろん会社によって優劣はありますが、結局は競合と消耗戦を続けているのです。
業界のブームが来れば業績は上がりますが、競合も増えていきます。そして、ブームの終焉とともに厳しい戦いを迫られます。
もちろん、これが不要と言うわけではありません。現場のオペレーションとしては、とても重要です。しかし、経営者がこの視点に囚われている場合は大きな問題です。
なぜならあくまで市場の入り口(常識・前提)は、顧客から見た視点だからです。
東京ディズニーランドやディズニーシー、ユニーバーサル・スタジオ・ジャパンといったテーマパークを思い出してください。入場前から正面入口で並びます。ようやく入場できたと思ったら各アトラクションで並びます。顧客はこれを楽しんでいます。正面の入り口は、あくまで顧客からみたエンターテイメントだからです。
ところが、事業の立場で見れば、あまりにも旨みがありません。なぜならテーマパークを運営する会社が、事業の全体を牛耳っているように、業界を支配している特定の会社に牛耳られているからです。
だから、入り口でまじめに並び、じっくりと待機したとしても、成就することはありません。大器晩成のつもりで、どれだけ努力を重ねたとしても、期待するほど成果は得られないのです。
入り口が正面だと思っていると、冬にコタツに入りながら、みかんを食べてじっくりと待機をしているようなものです。業界の常識や前提に囚われてしまい、結局は未完の大器になってしまうのです。M社はこの罠にはまっていました。
< “未完の大器”型の会社は、入り口から並び、みかんを食べて、じっくりと待機し続ける。 >
一方で、大器早成型の会社は、市場の裏口が正面だと思っています。この業界の常識や前提はどのようなものなのか、我が社にとって最適なのか、常に疑っています。市場を裏側から眺め、どのような構造になっているのか常に観察し続けているのです。
さらに、既存の競合他社だけでなく、業界を超えて参入してくる新たな競合にも敏感です。他業界で儲かっている会社、社員がイキイキと働いている会社も分析にします。そして、正面ではなく裏側にある構造を盗み取ろうとします。
業績の良いテーマパークは、この裏と表を明確に区別しています。顧客に表のみを徹底して見せるディズニーリゾートは、裏を決して見せぬよう物理的に建築物が設計されています。作業的にも夜中に活躍する何百人もの清掃部隊や独自のメンテナンスの方法が仕組み化されています。そして、徹底したライセンス管理のもと、夢の国というブランドイメージを確立しています。他にも、あえて裏側も見せることで集客に成功している動物園もあります。
いずれも、裏と表の境界が明確です。境界が曖昧な、売れないテーマパークとは異なります。安易に表面的な部分のみを真似するような愚策はしません。
もちろん、前例がないことに挑むわけですから試行錯誤が前提です。試行錯誤が前提なので、失敗を恐れません。どうすれば上手くいくのか観察し、創意工夫を重ねます。
たとえ失敗したとしても、確率論で考えています。他にも種を蒔くことでリスクを減らし、早い段階でテスト販売をして、軌道修正をして、精度を上げていきます。全盛期のセブンイレブンのように、業界の常識や前提の限界を嗅ぎわけ、前提を変えた戦い方を仕込んでいくのです。
< “未完の大器”型は、入り口が正面。“大器早成”型は、裏口が正面。 >
つまり、未完の大器は、入り口が正面のまま変われないのです。大器晩成型のつもりが、まじめに並び続け、みかんを食べてじっくり待機しているようなものです。安定受注を求めれば求めるほど、環境変化の波に飲み込まれます。やがて、市場が縮小し、業績がますます不安定になります。
大器早成型の会社は、180度違います。早成の大器は、裏口が正面だとはじめから分かっています。そして、常に変化を起こせるよう準備をしているのです。業界の常識や前提を疑い、市場に対して常に変化を仕掛けていくのです。あえてバランスを崩すように見せて、新たな市場を創造し業績を安定させるのです。
しかし、ここで問題があります。常識や前提を疑うべき社長や社員も、ともに人間だということです。人間は動物の一種です。根底に安全安心欲求があり、変化することを極端に恐れてしまいます。
だから、心構えだけでは、意図的に変化を起こすことは不可能です。何度も「自己責任の意識を持て!」と言ったり、「なぜなぜ5回で、原因を追究せよ!」と言っても、上手くいかないのです。2万回も繰り返しても変わりません。
詳しくは、セミナー等でお伝えしていますが、論理的に正しいことは、本能的に正しくないのです。結論のみお伝えすると、人は本能的に変化=危険だと感じ、自ら変化できないからです。
したがって、小さな変化を繰り返し起こす変革の仕組みを今すぐ構築しましょう。 ”変革し続けるパターンが変わらない” という構造をつくると、人は常に挑戦し続けます。なぜなら、社員は仕組みを活用する方が安全安心だと感じるからです。
この全体像を図解しながら説明すると、M社長も納得した様子で頷きました。「我が社は、既存市場で戦う方法は確立されている。しかし、常識や前提を変える方法が仕組みとして存在しない。だから、業績が不安定だったんですね」とおっしゃいました。
アルバート・アインシュタインが 「いかなる問題も、それをつくりだしたときと同じ意識によって解決することはできない」 と表現しているように、現状を突破するヒントは、いつだってあなたの常識や前提の裏側にあります。ぜひ、裏側が正面だととらえる仕組みを構築してください。
大器晩成型の経営をつづけていると、社長も社員も「そもそも我が社には可能性がない」と諦めてしまうものです。彼らは、能力や可能性の有無を前提に考えています。
これは間違いです。本来の前提は「どの会社にも “まだ見ぬポテンシャル” が眠っている。この可能性は、条件を適切に整えればどの会社でも発揮できる」というものです。これは、代表の小島が多くの同族会社を支援するなかで確信している前提です。
大器晩成型から大器早成型の経営に切り替えるか否かは、経営者の決断次第です。ぜひ、大器早成型の経営の仕組みを構築し、安定受注を手に入れましょう。
※追伸:当社は、大器早成型の変革の仕組みとして 【3年分 受注残をつくる変革経営】(3年先行経営の仕組みづくり)を公開しております。弊社セミナーだけでお伝えする具体事例やその留意点があります。「変革の方程式」の構成要素や具体事例など、一つひとつ順を追ってお伝えします。興味のある社長様は、ぜひセミナーにご参加ください。