第68話成果をだす○○社長と波にのまれる○○社長
「何とかしましたよ~。やっぱり社長次第ですね」
十数年前にお聞きした、N社長のお言葉です。
経営環境は目まぐるしく変わってきました。近年は、その速度がさらに加速し、振れ幅も大きくなっています。日々、荒波がやってきているのです。この環境に身をおきながらも、成果をだす社長もいれば、波にのまれ溺れてしまう社長もいます。結果は、全く異なります。この違いは、いったいどこにあるのでしょうか。
今週は、両者に注目しながら、成果をだす社長の特徴を見ていきましょう。
■1.何とかしちゃう 名物社長 の将来
<2009年までに国内工場を統廃合>
2007年秋。ある大手企業に関する衝撃的なニュースが流れました。小島がコンサルタントとして駆け出しのころの出来事です。
そのころ、N社長は焦っていました。売上の約半数が、この大手企業の閉鎖予定になっている工場向け案件だったからです。
半年後。N社長は、満面の笑みで近況を教えてくれました。
「何とかしましたよ~。統合先の案件を発注してもらえることが決まりました。やっぱり社長次第ですね」
創業から30年。数々の荒波を乗り越えてきたN社長。営業手腕にも長けていて、新たな受注を決めてきたそうです。
企業間取引(BtoB)を中心に商いをしている中小企業は、大手得意先の動向に影響を受けやすいものです。N社長の会社も例に漏れず、その1社でした。
N社長の会社は、業績が大きく上下していました。しかし、中長期的には成長を続けていました。実際に数々の危機がやってきましたが、その度にN社長の力で切り抜けてきた歴史があったからです。
豪快に舵を切るN社長は、社員のみならず得意先や地元経済界でちょっとした名物社長になっていました。
「いざとなったら、俺の力で何とかできる。だから大丈夫」
N社長は自信たっぷりでした。まだまだ駆け出しコンサルタントだった小島は、もしN社長が倒れたりでもしたら…と心配しつつも、すごい社長だなぁと関心していました。
2019年1月。早いもので干支が一周しました。
小島がスタッフから受け取った郵便物を見ると、N社長宛に送った年賀状が挟まっていました。
“あて所に尋ねあたりません(配達不能)”
郵便局で押された印が確認できます。
急いでインターネットで検索すると、数ヶ月前の倒産情報がヒット。負債総額○億円と表示されました。気になってかつての同僚に電話をすると、70歳近くになったN社長が最後まで走り回っていたとのこと。業績がジリ貧になり倒産してしまったようです。
どれだけ手腕に長けていても、過去にどれだけ危機を切り抜けてこれたとしても、新たに押し寄せる波を確実に乗り越えられるとは限りません。なぜなら、これまでとは異なる波が次から次にやってきているからです。
<波にのまれる名物社長。社長の手腕だけでは、いずれ会社は倒産してしまう>
沢山の成功事例がある会社。腕に自信のある社長様は、改めて注意が必要です。危機を乗り越えてきた歴史があるからこそ、社長に自覚が無いだけで、油断をしている可能性が高いものです。
■2.いたって地味な 平凡社長 の将来
2007年秋。冒頭のN社長に出会った頃と同じ時期の出来事です。
小島は上司からもらった企業リストを手元に置き、地元の中小企業の社長様にアポイントをとっていました。社長の気持ちを理解するために、多くの社長様の話を聞こうとしていたのです。
「こんな儲かっていない会社に電話をかけてくるなんて珍しいですね。それでも良かったら、話を聞きますよ」
そう答えてくれたのは、娘婿として、経営を引き継いだY社長でした。
話を聞くと、潰れかけの会社を何とか立て直そうと、基本を大切にしていました。
「当たり前のことをやるだけですよ。でも、この当たり前が一番難しい」
目的に向かい、必要なことをコツコツ積み上げていく。落ち着いた眼差しで「当たり前のことが大切なんです」という言葉にブレがありませんでした。小島は、自然と信用できる方だと感じました。
「まずは、社員同士挨拶をしっかりしよう」
「決めたことを、しっかりやりきろう」
「整理・整頓、、、5S活動をして、仕事がしやすい環境をつくろう」
「儲かる事業にシフトしよう」
…
先代経営者のやり方にこだわる古参社員を相手に、当たり前の大切さを伝えていました。
また、社長自身、得意先に取引条件の見直しを相談したり、金融機関に返済のリスケジュールをお願いしたりしていました。この再建に向けて走り回る社長の車は、8万円で購入した古い白色の軽自動車でした。
全く派手さはありません。はたから見れば、とても平凡なことをやっていました。
ただ、そういった社長の姿を見て、社員一人ひとりの心が動きました。進んで協力するようになり、関係会社や得意先との関係性も変わりつつありました。
その後、小島は2~3年毎にY社長と近況を報告しあう間柄になっています。今、何を考えて、何をしているのか、淡々と話しながらも、毎回良い刺激をもらっています。
現在、Y社長の会社は、収益構造が大きく変わっています。売上は、当時の約半分です。なぜなら、数年前にある大手得意先向けの案件を、すべて断ったからです。「あまりにも利益率が低く、自社ならではの価値が提供できない」と判断し取引終了を決断しました。その一方で、利益額は、5倍になりました。率でいえば、10倍になったのです。付加価値の高い新たなサービスが複数軌道にのり、収益性が大幅に改善されたからです。
Y社長は、時代の変化を先読みし、女性や外国人、LGBTなど多様な人材が働きやすい環境(ダイバーシティ)を整備してきました。また、地域社会の課題を解決するサービスも立ち上げ、地域社会と自社に役立つような取り組みに着手してきました。共通価値を創造する経営を実現していきました。
「時代は常に変わっていく。だから、会社も変えていく。急には変われないので、前もって着手しておく。これも、当たり前のことですよね。当たり前にやってきただけですよ」
Y社長は、静かに微笑みました。今では先進的な取り組みが評価され、年商10数億という規模ながらも、企業見学やメディアからの取材がくるような企業になっています。
<成果をだす平凡社長。先を見て、社員とともに手を打つことで、いずれ会社は成長し続ける生命体になる>
当たり前を大切にしている社長が、実施していることです。
■3.永続企業の前提は、○○です
ゴーイングコンサーン。継続企業の前提のことです。顧客、社員(従業員)、株主、債権者、仕入先、得意先、地域社会など、企業には、多くの利害関係者がいます。倒産し、突然消滅してしまうと、多方面に迷惑がかかります。だから、永続発展し続けるという前提を持っています。
小島は、経営コンサルティング業界で12年間過ごし、170社ほどの企業を支援してきました。情報交換をしてきた企業は、この何倍にもなります。この経験から、中長期的に成果を出し続ける社長と、派手に稼いだとしても結局波にのまれる社長の傾向が分かりました。
名物社長のN社長は、トラブルが起きる度に、腕力で何とかしてきました。仕組みが整っておらず、自ら火事を起こし、自ら火消しをしていました。厳しい見方をすれば、マッチポンプです。自分劇場で、喜怒哀楽を楽しみ、感情の起伏とともに、業績を乱高下させ、結果として会社を潰してしまいました。経営者というよりも、ギャンブラーだったのでしょう。
平凡社長のY社長は、基本を大切にしてきました。そして、トラブルが起きる前に、先を見て、荒波を乗り越える仕組みをコツコツつくってきました。派手さはありません。いたって地味な方です。世の中の感情の変化を冷静に見極め、理性的に投資を続けてきました。コツコツと定期預金を貯めるがごとく。それでも、実は堅実に勝負をし続けていたのです。平凡社長というよりも真の経営者です。
「企業経営において いちばん痛くないのが、予防です。当たり前ですよね」
Y社長が最後にいった言葉がとても印象的でした。
例えば、ガン細胞があなたの身体を蝕み、もしステージ4になったとしたら…。よほどの奇跡が起きない限り、復活することはできません。
地味で平凡だけど、日々の食事を気をつけたり、日々生活に運動を取り入れたり、先見て予め策を打つこと、予防をするほうが安全で簡単で確実です。そして、年を重ねると共に働き方を変えたり、後継者にバトンを渡しながら社長業をじっくり継承したり、健康であればより良い選択肢を選ぶことができます。
<企業経営において いちばん痛くないのが、予防です>
当たり前のことです。でも、この当たり前が一番難しいのではないでしょうか。
何をどうやって予防するしたらよいのか。見極めが必要です。今、決断しなければズルズルと時間を浪費してしまいます。御社は、新たにどのような予防をはじめますか。この機会に、ぜひ言語化してください。
※追伸:当社は、同属企業向けに予防する文化を育む仕組みとして「社長も社員も心から安心できる状態をつくる【3年分 受注残をつくる経営(業績3年 先行管理の仕組み)】」を公開しております。先を見て予め対策を打つ社風をつくりたい社長様は、ぜひ弊社セミナーご参加ください。