ノートとペン 今週の「コジマ式 先行経営の視点」 代表 小島 主の経営者様向け専門コラム

第12話社長が注意すべき、人材育成の考え方

研修が好きな経営者は、Off-JTのワナにおちいる。現場が好きな経営者は、OJTのワナにおちいる。
第12話:<社長が注意すべき、人材育成の考え方>(研修が好きな経営者は、Off-JTのワナにおちいる。現場が好きな経営者は、OJTのワナにおちいる。)
 

「小島先生。我が社の取り組みはどうでしたか?」
 

発表の緊張から開放され、上機嫌に話しかけるK社長。
ある事例発表会にゲスト参加した後、懇親会の席で話しかけられました。
 

松下幸之助が「事業は人なり」といったように、企業経営に人はかかせません。K社長も例外ではなく、全力で自社の社員を育ててきました。10年前まではブラック企業と呼ばれてもおかしくない状態。その後、先輩経営者の事例をヒントに、健全な経営を模索してきました。本日はその集大成とも言える事例発表会でした。
 

「すばらしい取り組みですね。我が社も参考にさせて頂きます。」
 「あの何気ない声かけが、社員の心を掴むのですね。私も真似してみます。」
同じテーブルにいた別の経営者達は、K社長の取り組みを褒め称えていました。
  

「まだまだ過渡期ですから」
K社長は謙遜していましたが、賞賛の声に頬が緩んでいました。
 

しかし、小島はこの会社の限界を感じていました。
小島がK社長に伝えたい本音とは…(最後に)。 
 

 

■1.経営者はどこに注力しているのか

 
 経営者はどこに注力しているのか。
 

社長の力点は、大きく分けて二つ存在します。
 

一つは、「仕事そのもの」に注力する点です。仕事を優先する社長は、ビジネスモデルや仕組み作りを優先的に考えた結果、業績を上げる傾向がみられます。
 

もう一つは、「人そのもの」に注力する点です。人を優先する社長は、経営理念・ビジョンの浸透や人の育成を優先的に考えた結果、業績を上げる傾向が見られます。
 

もし、この二つ力点をバランスよく使い分けることができれば、名経営者に近づくことができます。しかし、実際はなかなか難しいものです。ほとんどのケースで、どちらか社長自身の得意な力点に偏ってしまいます。今回のK社長は、後者のタイプの社長だといえます。
 

かつては「人は勝手に育つもの。社長が稼げればそれでよい」という社長も目立ちました。しかし、最近は社員の高齢化とともに、技術継承問題や採用問題など、人を大切にしなければ事業を継続できない状況になっています。
 

このような背景のもと、K社長は人の育成に注力してきました。そして、自社の事例を経営者仲間に伝えていました。
 

 

■2.人に注力:研修が好きな経営者
 

経営資源が限られている中小企業。新たに階層別研修を導入するケースは増えています。しかし、継続的に人材育成に投資をし続けることは容易ではありません。K社長は、10年間続けてきました。とても素晴らしいことです。
 

また、小島がかつて支援したある会社では、定休日を返上し、毎月1回の店長研修・3ヶ月に1度の全社員研修を実施していました。何年も研修を続ける中で、経営者の思いに共鳴した社員達が、自ら考え行動していました。そして、圧倒的な業績を上げる文化が構築されました。この会社では研修と現場業務が連動し、善循環が生まれていました。
 

「休日を返上し、チラシのポスティングしたんですよ。給料なんかより、どうしても達成したい大切な目標だったので…」
 

成果発表会のあとにパートスタッフから聞いた言葉です。無給で働かせるのは問題だ!と考える別の側面もありますが、自らの意思でこっそりとやったと教えてくれました。
 

ここまで人が育てば、相当強い組織になっているはずです。しかし、このような会社は、とても珍しいのではないでしょうか。
 

貴社の研修は、あなたが想定していた投資対効果を感じていますか?
 

実際のところ、社長が効果を実感するには、資金も、時間も、工夫も、必要です。もどかしい思いをしている社長がほとんどなのではないでしょうか。
 

研修のメリットは、日常の仕事や職場から離れて、新たな考え方や手法を体系的に学べることです。一方、デメリットは、学びが現場業務で生かされにくことや、投資対効果が測定し難いことです。
 

研修が好きな経営者は、人を大切にしていることに酔いしれて、精神論に終始したり、現場で使えない研修を繰り返していたり…。Off-JT(※1)のワナに注意しましょう。
 
※1:Off-JT(Off The Job Training)
職場外訓練。通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練のこと
 

 

■3.人に注力:現場が好きな経営者
 

中小企業の経営資源、ヒト・モノ・カネは、本当に限られています。業務に直結しない研修を実施する余裕はありません。だから、日常業務を通じて人を育てるしかない。実際にはこちらの会社の方が多いかも知れません。
 

このため中小企業の教育は、OJT(※2)が中心です。具体的な手順や注意点を伝え、実際に業務をやらせてながら指導していく。業務に直結するため、Off-JTと比較して短期間のうちに現場で仕事をする能力が身につきます。
 

業務のアウトプットを見れば、育ったかどうかは一目瞭然。経営者はこの分かりやすさと短期的な投資額を抑制できることから、OJTを優先します。
 

しかし、指導の仕組みが無く指導者にお任せにしているケースが多いものです。そのため、体系的ではなく、指導方法にバラつきが生じます。目的や考え方を伝えることなく、作業のみ伝えているケースも散見されます。人を育てる文化が希薄な企業では、OJTという名の放置プレイが横行します。
 

現場が好きな経営者は、現場に人材育成を丸投げし放置プレイにしていませんか。他の業務への応用ができない、作業を覚えた後の成長が止まる(育ちきらない)という傾向は見られませんか。OJTのワナに注意しましょう。
 
※2:OJT(On The Job Training)
職場内訓練。日常の業務につきながら行う教育訓練のこと
 

 

■4.いいところ取りをする経営者
 

人の育成に熱心な企業は、研修と現場の両方を活用しています。
 

それぞれのメリット・デメリットを踏まえ、基本はOJTで育成。補完的にOff-JTを活用し、社長の考えを伝えや新たな視点を持たせます。アウトプットは現場業務で、インプットは体系的に学ぶ、これを組み合わせるスタイルです。
 

すべての階層に研修を実施するのは難しいものです。それでも投資をして、複数の職位に階層別研修を導入したり、業界特有の技術研修だけでなくビジネスパーソンに必要なテーマ別の研修を導入したりしています。
 

OJTとOff-JT。どちらもやらないよりは、やったほうが良いでしょう。人に注力しない会社と比べれば何倍もすばらしいことです。
 

しかし、同規模・同レベルの企業で比較した場合「いいところ取りをしている会社」が、そこら中に存在しています。問題は、ここに気がつかず、十分だと思っていることです。同業他社と同じことをやっていては、所詮同じレベルの人材しか育ちません。ビジネスモデルに大差がない場合、同レベルの人材では、他社と同等の結果しか期待できないのではないでしょうか。
 

いいところ取りをする経営者は、このワナにはまっていることを認識してみてはいかがでしょうか。
 

現状のまま停滞するか、覚悟を決めて圧倒的に強い会社をつくるのか、どちらかを選択しなければなりません。後者であれば、徹底度を極限にまで高めるのか、まったく異なる育成の仕方を模索するか、決断が必要です。
 

 

■5.新たな発想をする経営者
 

中小企業において、人材育成の重要度は日々高まっています。
 
できる経営者は、どのように人の育成を考えているのでしょうか。
 

いいところ取りをしようとする経営者は、本人が気づかぬまま前提にとらわれた発想をしています。
 

例えば、「長期雇用」を前提に考えていたり、「経験と能力は比例するもの」と考えていたりしています。他にも、「副業はありえない」と考えているケースが多いでしょう。そして、人材育成の最大の前提は、「企業が社員を育てる責任を負う」と考えていることです。
 

いずれも、かつての経営環境においては必要だった考え方です。しかし、昨今の経営環境を考慮すると、変えても良い前提がでているのではないでしょうか。
 

前提を変えずにどれだけ悩んだとしても、いいところ取りのアイデアが限界です。圧倒的に強い会社を作るには、前提を変えた新たな発想が必要です。
 

 

■6.新たな発想に挑戦する経営者
 

例えば、「企業が社員を育てる責任を負う」という前提をはずしてみましょう。
 

「会社が社員教育の場を与えなければならない」という制約を外すのです。この発想に驚く方も多いかも知れません。
 

「30歳以上は、会社が社員を育てません。」と宣言し、その仕組みを構築してみてはどうでしょうか。
 

もちろん、会社が育てない変わりに社員の自己啓発を支援する必要が出てきます。自ら目標を立て、自ら必要な学びの場を見つけ、自らの意思で学び始める。このような社員には、年間いくらまで・何割まで自己啓発の費用を会社が支援するとしたり、有給の追加を認めたりしますよ。逆に自己成長を目指さない社員は、役職も処遇もオペレーションレベルで止まりますよ…。というルールが発想できるようになります。
 

ただし、最低限の業務は実行できないといけません。また、学生時代に与えられた勉強しかしていない若手には、自ら学ぶ重要性を認識させる場も必要です。だから「新卒から30歳までは、会社がしっかりと社員を育てます」という前提を新たに設けみるのです。
 

社員一人ひとりが自ら必要な能力見極め、自らの意思で学んだ方が、活用できる機会が増えるかもしれません。社員の学習効果も企業の投資対効果も高くなる可能性が生まれてきます。
 

当然、規定や運用ルールを変更するリスクがあります。脱落する社員も出てくるでしょう。しかし、「絶対に会社が人を育てなければならない」というわけではありません。経営者の意思で、前提を変更したほうが良い結果を導くかもしれません。視野を広げれてとらえてみれば、現在の非常識が将来の常識になるかもしれませんよ。
 

 

■7.K社長に伝えたい本音
 

K社長は、経営に対する真摯さや人に対する優しさなど、とても素敵な経営者です。そして、かつて学んだ先輩経営者の事例をヒントに10年間実践してきました。この姿勢はとてもすばらしいく、人柄もとても魅力的な方です。
 

しかし、現在のK社長にとっては学ぶ場を変えるタイミングなのかも知れません。さまざまな業種・業界の経営者が集まって事例を紹介し合っていましたが、同じような規模・思想レベルの経営者が多かったからです。
 

同じような考えを持った社長が集まり、どれだけ勉強会をしても、新たな発想は生まれません。従来の価値観がより強固なものになるだけです。小さな改善は重ねられても、根本的な改革が遠のくばかりです。この場にとどまっていると、K社長の会社は、今以上に飛躍する可能性は低いでしょう。
 

もし、K社長が社員の立場だったとしたら、現場改善のヒントを掴むよい学びの場になります。
 

しかし、経営者は自らの発想で新しい価値を生み出さなければなりません。厳しい指摘をするならば、自身の前提や発想が変わらない学びの場は、経営者ごっこ、マスターベーションに過ぎません。経営者の貴重な時間を浪費しているだけではないでしょうか。
 

経営者は、自身の前提を変え、それを社内に展開しなければなりません。
 

例えば、御社における人材育成の考え方。現在の前提はどのようなものでしょうか。変えられる前提は何でしょうか。経営者として、勝負ポイントを見極めてください。そして、できる経営者として、新たな挑戦をしてみませんか。今、先を見て自社の前提を変えるタイミングですよ。
 


※追伸

経営者が自身の前提を見つけるのは容易ではありません。この場合、社内に眠った気づかぬ前提をあぶりだすと、変えるべき前提が見えてきます。弊社は、見えない前提を浮き彫りにする仕組みを活用した【業績3年先行管理の仕組みづくり】を公開しております。興味がある経営者様は、ぜひセミナーにご参加ください。

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