ノートとペン 今週の「コジマ式 変革経営の視点」 代表 小島 主の経営者様向け専門コラム

第72話見えていない同族会社の予定調和

業績の底抜けに怯える よりも 業績の上振れに驚こう
第72話:「見えていない同族会社の予定調和」(業績の底抜けに怯える よりも 業績の上振れに驚こう)
 

「創業50周年を無事に迎えることができました。これも社員の皆さんのおかげです」
 

就任3年目のE社長。記念式典で力強く挨拶をしています。この会社は、当社の支援を経て、2年前から自社のみで活動をしています。小島は式典に呼ばれ、久しぶりの再開を喜んでいました。
 

初めて訪問したのは、5年程前のことです。今は亡き創業会長(当時、社長)から問合せがあり、訪問後に夕食をご馳走になりました。豪快に料理を注文し、お皿がテーブルを埋め尽くします。70代とは思えぬほどの大食漢。「小島先生も沢山食べてくださいね」と微笑みながら食事を勧めてきます。
 

そして、創業時の苦労話や、途中で事業転換した話、フランチャイズに加盟し会社を急成長させた話など、これまでの経緯に加え、現在の課題をお聞きしました。
 

その横で、当時専務だったE社長は、黙々と箸を動かしていました。恰幅は良いものの遠慮がちで、話しかけても一言二言で会話が終わってしまいます。創業者である父親の武勇伝を何度も聞いていたのかもしれません。とにかく物静かで、対照的なお二人の様子が印象的でした。
 

創業経営者は、会社に対する思いが強く、文字通り命をかけています。そして、リスクを承知で果敢に挑み、それに見合ったリターンを掴みとってきました。いわゆるリスクテイカーです。そもそもリスクを恐れているのであれば、サラリーマンをしていた方が安全で確実です。その枠に収まらず、リスクを取れる人間だったから、自ら仕掛ける選択をしてきたのです。そして、自社に荒波がやってくるたびに、強靭な体力と精神力でそれを乗り越えてきました。
 

そして、企業が成長すると、やがて業績が安定しはじめます。仕組みが確立されていくからです。もちろん創業経営者の気力や体力がある限り、さらなる挑戦を続けていくことでしょう。その一方で、ある段階になると事業の継承を考えはじめます。ご子息にどう譲るのか、安定経営を重視するようになります。
 

徐々に攻撃の手が緩まります。守りに入ったときは、特に注意が必要です。経営環境の変化に先手を打って適応することよりも、社内の統治が優先されるようになるからです。そして、自社の問題の本質が見え難くなります。
 

創業経営者の周りにはYESマンしかいません。社員はカリスマ創業者を前に、素直に意見を言えません。もしくは、側近が耳障りのよい情報に変換し、報告するようになります。ベテランの秘書がいる場合は特に実態が見えなくなります。社内でも一目置かれ、秘書の好みで味付けされた偏った情報しか入らなくなります。すると、組織の運営が、予定調和で進められるようになります。
 

もちろん程度の差はあります。ただ、同族会社では、間違いなくこういった予定調和が起きるようになります。ところが社長自信は、我が社は大丈夫だと信じたいものです。ここにもワナがあります。大丈夫だと信じた瞬間に、社長のアンテナは感度が鈍くなるのです。
 

やがて、時代は変化していきます。E社が関わっている自動車業界で例えるなら、 ガソリンエンジンから電気モーターへのシフト。自動運転技術の普及。所有からシェアへ。社会における自動車業界の価値観は、さらに変わっていきます。ですから戦い方も確実に変わるはずです。
 

このとき、社内の統治が優先されるとどうなるのか。従来の戦い方を続けてしまい、新たにやってくる荒波を乗り越えられません。そして、既存事業を根底から揺るがす変化が起き、業績の底が抜けてしまうでしょう。すべてのビジネスモデルは、陳腐化していくからです。急激な変化に、あとから怯えたとしても何ともなりません。
 

創業経営者は分かっています。社員も分かっています。このままではまずいと。ところが、戦い方を変えたくても、自社に貢献してきた創業者がいるほど、変化は難しいのです。過去の成功体験があり、遠からずそれを否定せざるを得なくなるからです。致し方ありません。
 

また、第2創業に挑戦し無事に成功させた経営者を除き、多くの後継経営者は、創業社長のように大胆にリスクをとったことがありません。経験する機会も無ければ、守るべきものが多くありすぎて躊躇するからです。だから、どうしても予定調和が優先されてしまいます。
 

ですから、同族会社の予定調和を崩すためには、仕組みで破壊する必要があります。 
 

世の中の原理原則の一つに、【創造】→【安定】→【破壊】→【創造】… のサイクルが上げられます。社会に価値を創造した後、安定していったものは、いずれ破壊しなければなりません。新たな価値が創造するために、破壊は必ず訪れるプロセスだからです。このとき、自ら破壊しなければ、どうなるのか。答えは簡単です。社会から破壊されるだけです。
 

社会から破壊され、業績基盤の底が抜けてしまうと、にっちもさっちもいかなくなります。床が腐らないよう予防保全をしたり、床が抜けぬように補強をしたりします。それでも、やがて床は腐ります。ですから、前もって古くなったものを自ら破壊し、建て替えをする仕組みが必要です。実は、100年続く企業は、こういった仕組みが社内に備わっているのです。
 

E社には、この仕組みを導入しました。そしてこの仕組みが組織に機能し始めた頃、創業会長が体調を崩し、急遽E社長にバトンが渡りました。急な社長交代だったこともあり、正直不安もありました。そんな中、もの静かなE社長は、この仕組みを使って、【創造】→【安定】→【破壊】→ … のサイクルを淡々と回し続けました。
 

そして、先日の50周年記念式典です。2年ぶりにお会いしたE社長は、創業会長のように力強く語っていました。自動車業界の変化に対し、我が社がどのように先手を打つのか。初めてお会いした頃と比べると、まるで別人のようです。さらに、新たな取り組みが、少しずつ形になっていることを社員に共有していました。
 

「正直、私には先代のようなカリスマ性がありません。どうやって事業を変革させるのか。どうやって社員を導くのか。当時は、自信がありませんでした。それでも仕組みがあったので無事にやってこれました」テーブルに戻ったE社長は、小島に微笑みました。
 

「E社長と皆さんの頑張りですよ。近い将来、計画よりも業績が上振れするときがきます。“えっ!”と驚くような上振れが起きたらとても嬉しいですね」小島は他社の事例を重ねながら返事をしました。 
 

人は、良くも悪くも前提に囚われてしまいます。特に同族会社は予定調和になりやすく、社長が裸の王様になりがちです。新たな戦い方を模索していたとしても、どうしても予定調和の中でおさまってしまいます。本当は、この限界を超えたいのではないでしょうか。
 

前提を変えるには、予定調和を破壊する仕組みが必要です。ルール通り仕事を進めるための仕組みだけでなく、仕組みを変えていく仕組みが必要なのです。組織の前提を見える化し、どう変えるのか、意図的に設定していきます。既存のシステムを破壊し、新たに創造する仕組み。これがあれば、御社は永続発展していくことができるでしょう。
 

御社は、既に発生している同族会社の予定調和にどれだけ気がついていますか。もし、十分に気がついていなければ、これほど危険な状態はありません。
 

社内の統治が優先され、業績の底抜けに怯えることになるのか、新たな仕組みを取り入れて、業績の上振れに驚くことになるのか。新たな仕組みで予定調和を破壊しましょう。さぁ御社は、どのような仕組みを構築していきますか。
 

 

※追伸:当社は、同族会社の予定調和を破壊する仕組みとして「【3年分 受注残をつくる経営】(業績3年 先行管理のすすめ方)」を公開しております。これは、組織のなかに【創造】→【安定】→【破壊】→【創造】→ … の循環を回す仕組みです。興味のある社長様は、ぜひ弊社セミナーご参加ください。

 

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