第40話DoingよりもBeing。この発想が、視界を曇らせる
「社員の声が少しずつ届くようになったと思います。しかし…」
先日、ご相談にこられたH社長。6年ほど前に「全く現場が見えていなかった…」と反省し、トップダウン型からボトムアップ型へ、経営スタイルを大きく変えました。
H社長いわく。はじめはファシリテーションを学んだそうです。当初は、すぐに指示命令をしてしまう癖が抜けきれず、自分を抑えることで精一杯。その後、コーチングも学び、徐々に社員に耳を傾けられるようになりました。さらに、役員や幹部社員も同じ外部研修に参加させました。組織的に経営スタイルを変えようと、時間をかけて投資をしてきたのです。
現在は、自身が思いつかないアイデアも社員から出るようになりました。さらに、社員自ら決定することで、前向きに取り組んでくれるようになったそうです。
「しかし…」
H社長は、もどかしい思いをしていました。社員との関係性は、かなり良くなりましたが、肝心の業績が伸び悩んでいたからです。
「社員との関係性が変われば、後は時間が解決してくれる」と思っていたものの、どれだけ待てば良いのか、何かが不足しているのでは、と悩み弊社にご相談にこられました。
いったいどうしたらよいのでしょうか。
■1.仕事優先なのか、ヒト優先なのか
仕事もヒトもどちらも大切ですが、経営資源は限られています。優先する経営スタイルは、社長が何を重視しているかによって変わります。
業績が厳しければ、成果を出すことに注力します。すると仕事優先となり、どうしてもトップダウン型になります。そして、足元の業績がつくれるようになると、ヒトの壁にぶつかります。すると、ヒトを優先にしはじめ、ボトムアップ型を採用するようになります。
逆に、もともと安定した業績基盤があれば、ヒト優先からはじまります。そして、次のステージに進むために仕事優先に切り替わるケースもあります。
H社長のように、同じ社長が社長業を続ける中で徐々に切り変わるケースもあります。他には、カリスマ創業者から二代目、三代目後継者へと、事業継承をきっかけに切り変わるケースもあります。
多くの社長は、どちらか片方からスタートし、やがて左右に揺れながら、悩み切り替えています。
仕事とヒト、いったいどちらを優先したら良いのでしょうか?
■2.Doing と Being
仕事とヒトという観点を、コーチングを実践中のH社長のために、Doing、Beingという言葉に置き換えて説明してみます。
(1)Doingとは、どうやるのか、何をするのか、といった【手段】を表します。具体的な行動や方法のことです。つまり、仕事を推進する上で明確にしていくこと。具体的な指示命令やToDoリストで表現できるものです。
(2)Beingとは、どう在るか、といった【あり方・目的】を表します。あり方ですから、心構えや姿勢に表れます。しかも、共通目的や協働意識といった抽象的なものです。
<Doingを優先し“する”だけの会社で終わるのか、Beingを土台に成し遂げる会社になるのか。>
いったい、どちらを優先したら良いのでしょうか?
■3.本当に Doing よりも Being ?
「いうまでもない。Beingを土台に成し遂げる会社を目指している」とH社長。
資本主義社会では、経済的な観点が優先され、業績を上げることに注力します。すると、Doingが優先され、「決めたことをやり切ること」が正しいと解釈されます。結果として、業績は上がるのですが、社員は疲弊していきます。長期的には…。
社員の悲鳴に気づかない社長は、Doing! Doing!と、さらにアクセルを踏みます。しかし、H社長のように社員の悲鳴に気づくことでBeingに切り替える社長もいます。
Doingで優先される「やり方」(スキルやテクニックなど)よりも、Beingで優先される「あり方」(どのような気持ちで関わるか)が、本質的に大切だと感じるからです。
そして、理念を見つめなおしたり、理念を実現するために何をなすべきかを考えるようになります。三方良しの経営を本気で目指し、社員にそして自分自身に向き合うようになります。
<Doingを優先し“する”だけの会社で終わるのは間違いだ。Beingを土台に成し遂げる会社になる道を目指すべきだ。>
と感じ、優先順位が明確になるからです。小島もそう感じた一人です。
ところが、社長の思いが組織に浸透しビジョナリーカンパニーのように大きく変わる会社もあれば、H社長の会社のようにあと一歩というところで足踏みをする会社もあります。
この違いはいったいどこにあるのでしょうか?
■4.どちら<か>でも、どちら<も>でもなく…
Doing を重視しすぎると、社員は機械のように扱われ殺伐としてしまいます。盲目的に作業をしている場合は良いのでが、ふと我に返ると疑問を感じ離れていきます。
<Doing だけでは、ヒトの問題を克服できない>
しかし、Being を重視しすぎても、社員は充実するものの業績を上げる点で不足が生じます。何年もかかったり、数字にならなかったり、、、。多くの社長は、これに痺れを切らしてしまいます。理由は抽象的な表現になるため、視界を曇らせ、具体性にかけるからです。
<Doing よりも Being。この発想が、視界を曇らせる>
つまり、どちらかを重視しすぎるとなかなか上手くいきません。
「いやいやそんなことはない。どちらも大切だと分かっている。」
そう思う方も多いでしょう。
H社長も、その一人です。どちらも大切にしているつもりでした。ところが、実際は「どちらかを優先しなければならない」という前提でみていたのです。
社長就任時は、トップダウンで Doing! Doing! と指示をしていました。その後、ボトムアップに切り替え Being! Being! と啓蒙していたのです。
そして、小島は、H社長の課題に気がつきました。それは、自社の全責任を担う経営者という役割になりきれていない。当事者になりきれていないというものです。
それはどういうことでしょうか。
H社長は、自分が絶対的に正しいと思いトップダウンでやっていた時代から、謙虚になりボトムアップに切り替えました。とても素晴らしいことです。ただ、ここで足踏みをしてしまっているのです。
ボトムアップスタイルは、「社員の本音の声が社長に届くようになる」「社員の主体性を引き出すことができる」というプラスの側面があります。しかし、「経営者が、重要な判断を社員に委ね、責任逃れをしてしまう」というマイナスの側面もあります。
「そこは認識している」と思うかも知れません。H社長もその一人でした。しかし、≪覚悟を持って決断する≫という最も重要な社長の仕事を、可能性を秘めた本来の自分自身と比較して、どれだけ実施できているといえるのでしょうか。
例えば、社員から何らかの相談を受けたときを想像してください。「本人が望むのであれば…」という便利な言葉に逃げて、相手に委ねすぎている部分はないでしょうか。もしくは、相手の話を十分に聞かず、自身の考えを押し付けている部分はないでしょうか。つまり、自社の経営に向き合う覚悟と決意が不足している部分はないでしょうか。
どちらかでも、どちらもでもなく、覚悟。
これが、次のステージに進む必要条件です。
■5.覚悟を持つとどうなるのか
覚悟を持つと、同時に複数の側面を重視できるようになります。
・Doing : どうやるのか、何をするのか。具体的な指示やToDoを共有し実行すること。
・Being : どう在るか。共有目的や協働意識を土台に心構えや姿勢を理解しあうこと。
そして
・Having : もっているもの。Beingの実現を支援するため、Doingを実行しやすくするために、どのような仕組み・環境をもっているのか。
「DoingとBeingは両輪である」という表現もありますが、小島は「地層のように何層も何層も重ねながら土台にしていくものだ」と考えています。そして、Beingの方向性を見据えてさえいれば、鶏が先か卵が先かのように、スタートはどこからでも良いとも思っています。
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Doing
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Being
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Having
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Doing
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Being
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Having
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Doing
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Being
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と何層も重ねたときに、気がつけば磐石な土台となっており、自社を次のステージに引き上げてくれるようになります。
社員からすれば、社長がコロコロと変わっているように見えるかもしれません。ただ、このときBeingの方向性を見据えてさえいれば一貫性を保つことができます。
複数の側面を同時に重視しつつ、目の前の意思決定は覚悟をもって判断していく。
H社長の先にあるものとは…。トップダウン → ボトムアップ → の次にある姿勢とは…。お客さま・社員の声をしっかりと聞いた上で、全責任を背負い社長として決断することです。つまり、どれだけ ≪ 衆知独裁 ≫ ができるのかが、重要です。
するだけの会社で終わるのか、成し遂げる会社になるのか。
御社が、成し遂げる会社になるためには、≪ 衆知独裁 ≫ という選択肢があります。経営スタイルに切り替えてみてはいかがでしょうか。
※当社は、トップダウン、ボトムアップに続く次の経営スタイルとして≪衆知独裁≫を推奨しています。これを支援するために「社長も社員も心から安心できる状態をつくる【3年分 受注残をつくる経営(業績3年 先行管理の仕組み)】」を公開しております。興味がある方は、ぜひ弊社セミナーご参加ください。