ノートとペン 今週の「コジマ式 変革経営の視点」 代表 小島 主の経営者様向け専門コラム

第17話できる社長は知っている。指示命令が実行されない理由

社長の指示命令は 現場で実行されない。真の原因は、やる気、モチベーションにあらず。
第17話:<できる社長は知っている。指示命令が実行されない理由>(社長の指示命令は 現場で実行されない。真の原因は、やる気、モチベーションにあらず。)

 

「ピンボケというか…。なぜかズレてばかり。本当に困ったものです。」
 

先代から経営を引き継ぎ3年。K社長は、新たな事業展開に向けて精力的に活動を続けています。
 

この会社は、創業時から理念教育を徹底していました。社員は、熱心で協力的な方が多く、新たな活動にも積極的です。一見すると順調に進んでいそうなものです。
 

しかし、K社長は途方に暮れていました。
 

「指示したことが、正しく実行されない。成果につながらないのです。」
 

後継者として英才教育を受けてきたK社長。尊大な態度で接することなく下積みもこなしてきました。現場に謙虚に耳を傾け、社員との信頼関係も構築しています。
 

社員は、いたって真面目です。K社長に応えようとしています。にも関わらず、なぜかピントがずれた行動をとってしまいます。
 

いったい、何が問題なのでしょうか? 何故、指示命令した内容が正しく実行されないのでしょうか?
 

小島は、同じような問題を抱えている企業を何社も支援してきました。この観点から「指示命令が正しく実行されない理由」を紐解きます。

 

 

■1.指示命令が実行されない本当の理由
 

多くの経営者は、「より深いところに原因があるのでは?」と複雑に考えています。そして、“なぜなぜ” と質問を繰り返し、真の原因を探します。ところが、歪曲した理由を絞り出してしまいます。そして、誤って認識した原因を要素分解し、対策を打ち始めます。ところが、原因を誤って認識しているため効果は上がりません。何度もこのようなミスを繰り返すと、やがて大雑把に原因を捉えるようになります。
 

例えば、心・技・体という、切り口でざっくり捉えます。
 

(1)心の問題 (例えば、やる気やモチベーション不足といった解釈です)
 (2)技の問題 (例えば、専門知識や専門スキル不足といった解釈です)
 (3)体の問題 (例えば、行動力不足や業務時間不足といった解釈です)
 

御社で指示命令が正しく実行されない原因を考えてみてください。おおむね共通する切り口が含まれていると感じるのではないでしょうか。
 

しかし、真の原因はココにはありません。たとえ、やる気があったとしても、専門知識や専門スキルがあったとしても、行動力があり業務時間を確保できたとしても、指示命令は思ったほど実行されないでしょう。残念ながら、それほど状況は変わりません。
 

なぜなら、真の原因は、もっと単純なところにあるからです。それは、そもそもの基礎的な力が不足していることです。人としての「読み・書き・そろばん」の力、「基礎的読解力」「基礎的伝達力」「基礎的計算力」のことです。
 

あなたが、幹部社員に指示命令した場面を想像してください。これまでの出来事を思い出すのです。あなたの指示を正しく理解し、正しく部下に伝達できる幹部がどれくらいいるのでしょうか。そして、業績につなげて数字で語れる幹部がどれくらいいるのでしょうか。
 

厳しい見方をすれば、社長の指示命令は、現場でほとんど実行されていません。指示命令の背景である「情報や感情」を正しく認識したり、正しく伝えたりできないからです。同時に、指示命令の内容である「目的や具体的な行動」も正しく認識したり、正しく伝えたりできません。
 

「その通り!」という経営者も、「我が社は違う!」という経営者も、次の調査に驚くことでしょう。

 

 

 

 

■2.「基礎的読解力」不足! 指示命令が理解できない社員たち
 

興味深い調査結果をご紹介します。ぜひ次の問いに答えてみてください。あなたが実際に体験することで、事態の深刻さが理解しやすくなります。
 
 
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全国の中高生に実施した問題です。
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【問い】次の文を読みなさい。
 
Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。
 
この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
 
Alexandraの愛称は(    )である。
 
①Alex ②Alexander ③男性 ④女性
 
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※書籍:「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」東洋経済 新井紀子著 P200より
 

いかがでしょうか。①~④のどの選択肢があてはまるでしょうか。
 

これは、国立情報学研究所の所長、新井紀子氏が2011年から実施している<全国基礎的読解力調査>の結果および分析の抜粋です。
 

正解は①のAlexです。当然ですね。易しい問題だったのではないでしょうか。
 

しかし、驚くべき事実は、この正答率です。
 

全国の中学生(サンプル数235名)
①38%:○ ②11%:× ③12%:× ④39%:×
 

全国の高校生(サンプル数432名)※進学校
①65%:○ ②04%:× ③05%:× ④26%:×
 

4択ですから、ランダムに選んでも正答率は25%です。にもかかわらず、④を選択「Alexandraの愛称は女性である。」と誤った回答をした学生が、中学生で39%、高校生で26%もいるのです。
 

なぜ誤って解釈したのでしょうか。
 
・おそらく「愛称」という言葉を知らない
・知らない言葉は、それを読み飛ばして解釈する傾向がある
 
 という分析がなされていました。
 

つまり④を選択した学生は「Alexandraは女性である。」と解釈しているのです。そして、さまざまな問題で調査した結果、中高生だけでなく、大学生の3人に1人も、簡単な文章が読めていないことが判明しました。勉強が仕事、受験もこなしている現役の学生がこの程度の理解度なのです。
 

「うちの社員は、ここまでひどくないでしょう。そもそも社会人ですし…」
 

とお考えの社長。おそらく、現実が見えていません。
 

小島の恩師が、2015-17年に<戦略論を学ぶ社会人向けの講座>で実施した調査もご紹介します。
 

先に結論をお伝えすると、大手上場企業の課長職(選抜メンバー約120名)でも、同様に一定の割合で誤った解答を選択していました。あくまで戦略論に関する問題という点は異なりますが、不正解の原因は簡単な文章が正しく理解されていないものでした(正しく文章を読むだけで、選択肢から削除される項目でした)。誰もが知る複数の大手上場企業の課長職社員です。名誉毀損にならぬよう社名を伏せておきます。
 

調査では、講座の事前課題(Eラーニング)を実施後、理解度チェックの問題を2問出題しました。いずれも正しく文章を読めば、簡単な問題です。しかも、<正解しなければ、講座に参加できない> というペナルティも課しています。本人の出世にも影響するため、<わざと間違えている> とは考えにくい条件です。結果は <組織における2:6:2の法則> の割合で分布していました。
 

全問正解の人材は約2割、正解と不正解は約6割、全問不正解は約2割というものです。
 

このことから、基礎的読解力は、年齢を重ねれば勝手に向上するものではないこと。意図的にトレーニングしなければ、中学生、高校生、大学生、社会人(例:大手上場企業の課長職の選抜メンバー)と、ほぼ変わらないことが分かりました。まずはこの事実を受け止める必要があるのではないでしょうか。
 

そもそも、ものごとを文章・文脈で理解できない。分からない単語は、読み飛ばしキーワードで理解したつもりになる(誤解する)。どのような組織にも、このような人物一定割合いるのです。御社にも、このような人材が一定割合いると考えた方が賢明でしょう。新人/若手/中堅/幹部/(下手をすると)役員まで、全階層にいる可能性があります。今一度、社内を思い返してみると、御社の社員はそんなことはないと言い切れるのでしょうか。
 

小島の経験側からすれば、中小企業の社員の基礎的読解力不足は、危機的な状況です。限られた人材しかいないし、これまで十分にトレーニングする機会もなかった。やむない事情があったのでしょう。しかし、このままでは大問題です。
 

社員には、指示命令を正しく理解する力を身につけてほしいものです。特に、新たな取り組みは、社員に経験値がない分、お互いの意思疎通が大切です。ところが、全階層において、社員の理解力に大差はなく、一定割合で理解していない社員がいます。
 

そんなことはない。ベテラン社員はそれなりに仕事をこなしているはずだ。こうお考えかも知れません。しかし、それは従来のやり方が通用する場合のみの話です。単なる経験の差で通用することは、環境が変われば通用するとは限りません。決して理解力が高いわけではないのです。また、既存事業でも理解が不足し、コツをつかめていない社員もいます。繰り返しますが、そもそもの理解力が不足したままでは、大問題なのです。

 

 

■3.悪循環の元凶は、「読み・書き・そろばん」の力不足
 

「基礎的読解力」がなければ、全てが滞ります。
 

既にご紹介した心・技・体の切り口も、それぞれの切り口でさまざまな問題を発生させます。一例をあげるだけでも、次のような不利益が起きているのです。
 

(1)心の問題:社長の思いや組織の目的を理解することができません
→ 目的を認識できなければ、仕事への取り組み姿勢は、受け身になります。やる気がわくことはないでしょう。
 

(2)技の問題:専門知識やスキルも正しく理解することができません
→ 専門業務のノウハウを体系的に理解できず、単に経験則に身をゆだねます。新たな能力の習得速度は遅く、途中であきらめがちです。効率的に専門スキルが身につきません。
 

(3)体の問題:すべき行動を正しく理解することができません。
→ 何を実行すればよいのか分からず、惰性で流されます。過去の行動パターンを繰り返すだけです。
 

さらに「基礎的伝達力」がなければ、社内のあらゆる方向に、正しく伝えることも、導くこともできません。上司・同僚・部下と全方向においてです。さらに、社外の利害関係者へも同様です。意思疎通に支障がでます。
 
加えて「基礎的計算力」がなければ、業績をどのようにつくるのか、アイデアを試算することもできません。
 

冷静に考えてください。指示命令は、経営者から現場社員まで、壮大な伝言ゲームをしているようなものです。一人の社員が、理解し伝達するだけでも、情報が歪曲・省略されてしまいます。これは、明らかなのです。組織には、階層がある分、これが何層にも繰り返されます。さらに、実際には理解する力だけでなく、行動に移す力も関係しています。
 

社長の指示命令は、現場で実行されない。これが、実態です。
 

真の原因は、やる気、モチベーションではありません。社員の「読み・書き・そろばん」の力不足、基礎的な力が根本的に不足しているからです。主体性や当事者意識を疑う前に、まずはこの点を確認してみてはいかがでしょうか。

 

 

■4.『働き方改革』の土台も「読み・書き・そろばん」
 

『働き方改革』というキーワード。御社はどのようにとらえていますか?
 
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『働き方改革』の本当の意味は「生産性の向上」です。
この生産性は、
<生産性=算出(アウトプット)/投入(インプット)>
という公式で表すことができます。
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※コラム第2話より抜粋 (第2話へのリンク) 
 

成功する経営者は、全体を見ています。

 

そして、これだけではありません。現場という観点では、社員一人ひとりの「読み・書き・そろばん力」も高めているのです。投入(インプット)を正しく行うにも、算出(アウトプット)を正しく行うにも、最低限必要な能力だからです。この基礎的な力は、副次効果として「実行力」も高めることになります。納得できるからやろうという動機になるからです。
 

御社は、どうやってこの基礎的な力を高めていきますか?
 

大手企業では、この基礎的な力(読み・書き・そろばん)を鍛えることに集中投資ができません。社員の母数が多すぎることに加え、人事・教育部門はさまざまなテーマを実施することを優先しているからです。一部を除き、多くの人事・教育部門の担当者は、経営陣から何を指摘されても「そのテーマは実施しています」と弁解できるように、潜在的に保身に走ってしまいます。人事系のフォーラムに顔を出せば、研修のネタ集めに尽力している担当者でにぎわっていることでしょう。
 

一方で、中小・中堅企業は、社長の意思一つです。例え、基礎的な力を持つ人材が限られていても、社長がどこに集中投資をするのか、決めてやるだけです。決断さえすれば「読み・書き・そろばん力の強化」に集中投資できます。どの企業も、基礎的な力を伸ばす余地があります。時間もかかるし、工夫もしなければなりません。しかし、続けることで確実に組織が底上げできます。これにより、かつて無駄に浪費していた非効率的な他の投資を減らすことができます。自社のありとあらゆる取り組みで、歩留まりが改善するからです。毎年、研修会社が提案する流行のテーマを広く浅く実施し、結局何も定着しないような愚策をしていませんか。今すぐやめましょう。

 

できる経営者は、「社員の読み・書き・そろばん力の強化」を徹底しています。この重要性を、身をもって理解しているからです。社員が正しく理解し、正しく伝える力を持たなければ、社長の考えが組織で実行されません。
 

「読み・書き・そろばん力」をどのように強化し、どのように業績につなげるのか。一つのヒントが、仕組みづくりです。研修で直接的に強化することもできますが、日常業務の仕組みづくりで間接的に強化することもできます。そして、各職場の「チームビルディング」に連動させていくとよいでしょう。中小・中堅規模のオーナー企業だからこそ、いま本質的な取り組みに集中投資をしてください。御社の「読み・書き・そろばん力」の強化に挑戦してみてください。どこに集中するのか、見極めるのは、経営者の仕事です。
 

 

※追伸
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