ノートとペン 今週の「コジマ式 変革経営の視点」 代表 小島 主の経営者様向け専門コラム

第76話なぜ、あなたの会社は権限委譲が失敗するのか

没落する同族会社は、権限異常に気づかない。躍進する同族会社は、権限委譲で強くなる。
第76話:「なぜ、あなたの会社は権限委譲が失敗するのか」(没落する同族会社は、権限異常に気づかない。躍進する同族会社は、権限委譲で強くなる。)

 

「そろそろ権限委譲が必要だ。でも上手くいかない…」
 

事業が拡大し、社員も増えてきました。社長一人が動くにも限界があります。目の前の業務に追われ、本来の社長業に専念できない。早く権限を委譲しなければ…。これは、同族会社の社長が共通する悩みです。
 

しかし、どれだけ権限を委譲しようとしても、多くの組織が失敗します。いったいなぜでしょうか。
 
 
 

理由は簡単です。
 

権限委譲が上手くいかない…というものの、実は社長の本音は権限を委譲したくないからです。
 

社長は、創業から何年も経営判断をしてきました。先代から引き継ぎ、経営判断をしてきた方もいます。いずれにせよ、どの社長も自社の最高意思決定者として、経営判断をし続けてきました。
 

この積み重ねがあって、数々の荒波を乗り越えてきました。短期的に成功や失敗があったにせよ、長い目で見れば必要なプロセスでした。今があるのは、自身が覚悟を決めて判断してきたからです。
 

自身が株主であり、個人保証もしている。逃げたくても逃げられない。この立場が、社長の器をつくりだしました。そして、重要な経営判断をしてきました。
 

しかし、社員は違います。会社と自分自身を同一化せず、分離して考えることができます。だから、社員の選択一つで、別の船に乗り換えることもできます。
 

「そろそろ権限委譲が必要だけど、上手くいかない。誰にどう任せたら良いのか…。」
 

社長は、表面的には悩んでいるつもりです。しかし、前提として社長と社員で立場が違うことを、皮膚感覚で察知しています。
 

そして、もし任せたとしても、どの社員も自分(社長)のように判断できない。判断に時間もかかるだろうし、判断を間違うケースもある。貴重な経営資源を失うよりは、自ら判断した方が確実で間違いない。<実際には適任者なんていない> とと考えています。
 

それに、今まで自分で決めてきた心地よさもあります。これを手放したくありません。だから、何かと理由をつけて自分自身を納得させているのです。
 

つまり、社長の本音では権限を委譲したくないだけなのですが、もっともらしいできない理由をつけているのです。これは、社長が意識化しているか否かに関わらず、共通して発生している症状です。
 

この問題は、社長の潜在的な感情に原因があります。
 

客観的に考えれば、権限委譲は1(100%)か0(ゼロ)かというものではなく、部分的にステップバイステップで行うものです。しかし、社長の潜在的な感情は単純化してとらえています。すべての権限を委譲するのか、全くしないのか、という極論でとらえ、反射的に反応し <すべてを任せるのは怖い> と結論づけているのです。
 

この状態が続くと、組織がどうなるのでしょうか。
 

意思決定者は社長のみ。すると、社長の周りにはYESマンしか残らなくなります。社長がどれだけ気をつけたとしても、組織の自浄作用が働き難いからです。
 

ビジネスモデルが陳腐化するまで生き延びることができればよい。社員がオペレーションロボットとして機能すれば十分。こういった極端な考え方であれば別ですが、自浄作用を失った組織は、間違いなく “権限異常” です。
 
 
 

その一方で、思考的な社長は、論理的に考えて権限委譲を進めようとします。しかし、これもほとんどのケースで失敗します。なぜなら、ルールを明確にすれば大丈夫だと思っているからです。
 

職務分掌を整備したり、職務権限規程や権限表をつくったり…。一覧表レベルのものもあれば、緻密に文章化したものもあります。社労士の力を借りて作成するケースも多いものです。
 

書面上を作成し、社内に告知することだけ。浸透するまで時間がかかるだろうと思いつつ、これで委譲完了としてしまいます。ルールを明確にしたから…と油断をしてしまうからです。建前上は権限委譲をしたことになります。ところが、実際には全く進んでいません。それどころか状況を悪化させることにもなります。
 

どれだけ理屈が正しくとも、人は感情で動いてしまう生き物です。ですから決めただけでは機能しません。それどころか、ルールを決めて実態がともなわないと次のような症状を引き起こします。
 

権限を与えられた執行役員や部門長は、与えられた範囲で自分で決めれば良いのですが、つい “社長にお伺い” を立てるのです。自身の判断に不安だからです。
 

直ぐに任せるのは難しいと思っている社長は、ついアドバイスのつもりで意思決定をしてしまいます。お伺いを立てた側は、社長のお墨付きがあるので、責任を背負い込まなくて良かったと安心します。
 

1度このループにはまると、どうしても同じパターンを繰り返してしまいます。
 

つまり、社長は “権限委譲” したつもりですが、社員から “権限献上” されてしまうのです。ある意味 “権限謙譲” です。こういう組織では、上が下の仕事をするようになります。建前は権限委譲、実際は権限を謙譲し献上される。摩訶不思議な “権限異常” 状態になるのです。
 

そして、社長、執行役員、部長、課長…、それぞれの階層で、上が下を向いて仕事をするようになります。すると、事業が停滞します。社員の思考が内側を向いてしまうからです。独裁ならはっきりしていたものの、下手にベールに包まれてしまう分やっかいです。
 

事業のチャンスは外を見なければ見つかりません。内を向いて、忖度を優先している場合ではありません。社長は、社長業に専念するために、社員に任せる部分を明確にし、本当に任せなければならないのです。
 
 
 

経営環境は、本当に目まぐるしく変化しています。常に変動し、不確実で、複雑で、曖昧な状況です。現場の状況を理解している部門責任者が、現場で決めて、すぐに現場で実行したほうが、チャンスを掴みやすい時代です。だから、今の時代は、権限の委譲が必須なのです。
 

にも関わらず、任せるのが恐いからといって権限を委譲しない独裁経営も、建前と実態が乖離した権限委譲モドキも、どちらも “権限異常” です。
 

この状態を放置すると、自社が環境変化に適応できなくなり、没落してしまいます。適切に権限を委譲してください。適切に権限を委譲することができれば、外を見て、本来の社長業に専念することができるのです。
 
 
 

没落する同族会社は、権限異常に気づかない。躍進する同族会社は、権限委譲で強くなる。
 
 
 

それでは、どうしたら適切に権限を委譲することができるのでしょうか。最後に、重要な着眼をお伝えします。
 

テクニック的には、「無意識に丸投げしない」ことと「何をどこまで委譲するのか明確に示す」ことです。そして、何よりも大切なことは、「権限委譲」とウソをつくことです。
※詳しくは、コラム第6話をご覧ください
 

つまり、社長が「責任と権限を委譲する」といいつつ、全責任を社長自身が背負うと決めておくこと。これで社員の潜在的な不安を払拭します。同時に、社長が反対したとしても、最後は権限を与えた幹部社員が判断してよいと、実際に権限を委ねてみることです(ココが難しい)。
 

任せたい気持ちと任せたくない気持ち、相反する気持ちを同時に持ちながらになります。その上で、自社を次のステージに導くために、社長という役割に徹し「責任は社長、権限は社員」というスタンスを貫くことです。
 

この覚悟を持って挑んだときに、社員の責任感が芽生え、本当の権限委譲が進みます。社員から苦情がでる組織ではなく、自ら土壌を育てる組織になりましょう。社員に任せていけば、我が社が自立型組織に育っていくのです。
 
 
 

没落する同族会社は、権限異常に気づかない。躍進する同族会社は、権限委譲で強くなる。
 
 
 

任せることは、とても勇気がいります。短期的な失敗は何度もあるでしょう。しかし、中長期的にはそれに見合った価値があります。社長と社員が共に成長する会社は、気分が上々になる未来が待っているのです。
 

社長が示した方向性に、社員自ら考え行動する。自社をそんな会社にステージアップさせましょう。御社のさらなる成長を応援しております。
 
 
 

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