ノートとペン 今週の「コジマ式 変革経営の視点」 代表 小島 主の経営者様向け専門コラム

第23話社員研修を実施する前に、経営者がすべきこと

他社と一緒だと ちょっと安心。でも 同じだと致命的。
第23話:<社員研修を実施する前に、経営者がすべきこと>(他社と一緒だと ちょっと安心。でも 同じだと致命的。)

 

「自らPDCAサイクルを回してほしい…」
 「自発的に職場の問題を解決してほしい…」
 「なかなか社員が育たない。困ったものだ。」
 …など。
 

経営者が頭を悩ませている重要課題の一つに、社員の育成が上げられます。
 

S社長もその一人。課題意識が強く、人材育成に注力してきました。そして、新たな施策を求めて弊社にご相談に来られました。
 

「毎年実施している社員研修。最近、あまり効果を感じられなくて…。投資を続けるべきか否か。小島先生はどのようにお考えですか?」
 

お話を伺うと、S社長の勉強熱心さが伝わってきました。毎年、管理部門長とともに人事フォーラム(HR○○等の)に参加。最新のテーマや他社事例を収集。この着眼を自社の経営に活かしたり、実際に講師を招き社員研修を実施したりしてきたそうです。
 

積極的に社員研修を実施している。階層別やテーマ別など、定期的に投資をしています。特に、業績に直結する営業部門には重点を置いているとのこと。ここ数年では、定番の営業スキル研修だけでなく、問題解決、○○シンキング、プレゼン、コミュニケーション、ダイバーシティ、生産性向上…とさまざまなテーマを実施してきました。
 

しかし、なぜか社員の意識改革が思うように進まない。S社長は頭を抱えていました。
 

「一般的な社員研修は、映画鑑賞や打ち上げ花火のようなものですよ。」
 と小島が言うと、
 

「えっ。どういうことですか?」
 S社長は、瞬きを止め小島の目を凝視しました。
  

今週は、経営者が<社員研修の企画・実施判断をする前に把握すべき留意点>をお伝えします。もし、御社が教育体系を検討していたり、社員研修を企画・実施したりするのであれば、ぜひ参考にしてください。

 

 

■1.<社員研修を実施しても効果がでない会社>の共通点とは
 

社員研修を実施しても効果が出ない会社の共通点とは何か?
 

それは、自社の課題を
(1)意識改革(モチベーション向上)で解決しよう
(2)とりあえず外部に助けを求めよう(他力本願)
 としている会社です。
 

これに該当する会社は、社員研修を実施してもあまり効果が感じられないでしょう。一時的に意欲的になったとしても、長続きはしません。結果として、業績も良くなりません。
 

なぜなら、意識(モチベーション)は、原因ではなく結果だからです。また、真の原因は、内部の仕組みにあるからです。
 

S社長は、「意識(モチベーション)が原因だ」ととらえていました。しかし、意識は結果です。社員はそもそも人間であり、人間はそもそも動物です。本能的に生存欲求があるため、潜在意識は安全安心を確保しようとします。つまり、反射的に身体が、安心安全を判断しているのです。また、この身体は感情の影響を受けやすく、感情の支配化にあります。だから、短絡的に快を求めて痛みを避ける行動を選択するのです
 

人間の基本機能は、意識<<本能となっているのです。
 

例えば、自身が次のような行動をしたり、行動する人を見かけたりしないでしょうか? 特に御社の社員に多いかもしれません。
 

・わかっちゃいるけど、(なかなか)できない行動
 → 取引先・上司への悪い報告、先が見えない仕事、苦手な相手との対話、会議中の手厳しい意見具申など
 

・わかっちゃいるけど、(なかなか)やめられない行動
 → 前例のある業務を踏襲する、過剰な資料づくり、新規開拓よりも既存得意先に訪問してしまうなど
 

生存本能は、意思の高さよりも、感情に支配された身体感覚を優先させます。これが原理原則です。
 

この点を配慮しなければ、社員研修をどれだけ実施しても、意識向上は一時的なものしか得られません。映画をみてどれだけ興奮したとしても、日常に戻ればいつものパターン。打ち上げ花火をみてどれだけ感動しても、日常に戻ればいつものパターン。職場環境や業務を進める仕組みが変わらなければ、感情の反応も変わらず、いつものパターンに戻ります。
 

とりあえず外部に助けを求めようという会社も同様です。内部の仕組みに向き合っていません。手っ取り早く、流行のテーマを実施すれば何とかなると思っています。自社内に潜んでいる原因に向き合い、根本的にやり方を見直すつもりはありません。こういった会社は、自己責任の意識が無い社員の集まりになっています。自社責任の意識がとても弱いのです。
 

「今の時代は○○が重要らしい。だから○○の社員研修をしよう」
 

S社長は、良かれと思って人事フォーラムに参加し、研修実施の判断をしていました。しかし、自社に必要なものを見極めるよりも、社員研修のトレンドを追いかけてしまいました。他社と一緒だと、ちょっと安心だからです。
 

「今年は○○が流行るらしい。だから○○を着よう」
 

S社長のような振る舞いは、流行に敏感な学生が、ファッション誌をチェックして、流行を追いかけているようなものです。潜在的には、競合に遅れをとりたくない、仲間外れにされたくないといった感情から流行を追いかけています。パッと見たところ、センスが良く見えるかもしれません。
 

しかし、確立した個があるわけではありません。視野を広げ時間軸を長くみれば、ファッション業界に躍らされている様子が滑稽に見えます。
 

製品・サービスの価値は、需要と供給のバランスで決まります。差別化したものでなければ、単なる価格競争に巻き込まれます。いわゆるレッドオーシャンです。製品・サービスを生み出す人材の育成方法も同様です。つまり、人材育成も他社と同じだと致命的なのです。
 

さらに、本来自社に必要なものとは異なるテーマにも関わらず、良かれと思って実施してしまう…。実際には、こういったケースが散見されます。そもそも、第1ボタンを掛け間違えています。ピントがずれた投資モドキになっています。場合によっては、自社の病状を悪化させてしまうでしょう。第1ボタンをかける際、根本的に間違っていいないか、確認が必要です。
 

【教訓】 他社と一緒だと、ちょっと安心。でも、同じだと致命的。
 

人事フォーラム、特に参加費が無料のものは、主催者側に明確な目的があります。講演内容は、企画会社が集客のために呼んだゲストによるものか、自社の研修を売りたい研修会社が費用を払って宣伝しているものです。参加者のリストも商売のネタになります。
 

これを認識せずに参加すると、人事業界に踊らされてしまいます。セールストークを聞いているうちに、「我が社に足りないのはコレだったのか」と勘違いをしてしまいます。社員と共に苦労して生み出した利益を、簡単に差し出しても良いのでしょうか。自社に必要なものを見極めたうえで、ぜひ投資先を選定してください。
 

小島は、S社長にこのことをお伝えしました。すると、
 

「実は、違和感を感じていました。うすうす気づいていたのかもしれません。ただ、解決の糸口が見えず、トレンドを追いかけることに逃げていました。」
 

と言い、ゆっくりとうなづきました。合点が行ったようです。

 

 

 

■2.社員研修を実施する前に、経営者がすべきこと
 

まずは、意識改革で解決したり、目的が曖昧なまま外部の力を借りたりするアプローチをやめたほうが良いでしょう。次のような流れが、社員の内部で起きています。今すぐ止めることをおすすめします。
 
(NG1)<感情に支配された身体感覚の反応> : ★成果が出ない原因はココ★
※短絡的に安全安心の確保を優先してしまう
  ↓
(NG2)<安全安心を確保するための行動が増える>
※前例のある仕事を踏襲する、仕事をしている雰囲気を出すこと
  ↓
(NG3)<安全安心を確保するための考え方・意識が強化される>
※自身の行動を正当化するための理由づくりをする(理論武装)
 

人間の基本機能は、意識<<本能となっています。どれだけ、意識を変えようとしても、(NG3)は結果です。原因である(NG1)を何とかしなければなりません。しかし、(NG1)に直接アプローチしても意味がありません。潜在的な反応だからです。
 

「いかなる問題も、それをつくりだしたときと同じ意識によって解決することはできない」
 

相対性理論など、現代物理学の父と呼ばれているアルベルト・アインシュタインの言葉です。目の前の問題を解決したければ、視点を変える必要があります。つまり、直接的には難しい(1)に間接的にアプローチするのです。
 

具体的にどうするのか。意識<<本能であることを前提に、環境を整備します。デメリットが生じている<感情に支配された身体感覚の反応>を逆手に取るのです。つまり、仕事の優先順位を見極める仕組みづくりをすることで、本能を見方にするのです。
 
 
(0)<環境整備・組織の優先順位を見極められる仕組みづくり> : ☆間接的にスイッチを設ける☆
※組織の優先順位に基づき仕事をするほうが安全で安心できるという環境をつくる

  ↓
(1)<感情に支配された身体感覚の反応>
※短絡的に安全安心の確保ができると感じる
  ↓
(2)<成果につながる行動を優先し行動が増える>
※優先順位の高い行動を選択して安心する
  ↓
(3)<優先度の高い行動を実施する能力が身につく>
※経験値が増え、能力になる。成果も出やすい
  ↓
(4)<仕事の優先順位を見極める考え方が強化される>
※優先順位に応じた行動は価値があるという思考になる
  ↓
(5)<立場・役割に相応しい在り方を体言できるようになる>
※強化された思考が判断や行動を強化し、人格レベルに昇華する
 

人間は環境による影響を受けやすい生き物です。この根本原理を配慮しなければなりません。大切なことなので何度もお伝えします。意識を強化するには、まずは潜在意識を味方につけること。これが意識改革(モチベーション向上)に頼ってはいけない理由です。
 

また、自社の仕組みを見直すには痛みをともないます。なぜなら、既得権を得ている社員から反発が起きるからです。しかし、従来のやり方を手放さなければ、新しいやり方を構築することも、浸透させることもできません。この点も配慮しなければなりません。
 

S社長は、管理部門長と人事フォーラムに参加していました。管理部門長の潜在意識は、自社に必要なものを見極めることよりも、短絡的に研修を企画・実施することを優先させたかったのでしょう。(建前の)教育体系をつくり、(建前の)階層別・テーマ別研修を実施する。これが己の役割を果たすことだ、と自身の意識をだましていたのです。S社長も違和感を感じつつも、やらないよりはやったほうが良いと投資を続けてしまいました。
 

小島自身、経営コンサルティングだけでなく、多くの会社の社員研修に関わってきました。自社に必要なものを見極めることができる経営者もいれば、流行りものが好きな経営者もいらっしゃいます。これまでの経験から、<管理部門長 → 教育責任者 → 教育担当者>と、現場に近くなればなるほど、保身に走ったテーマを選定します。そして、さまざまなテーマを網羅しようとしてしまい、1テーマあたりの投資金額・時間が少なくなります。
 

社長や上司から「このテーマは社員研修で強化しているのか?」と聞かれたら、「はい。実施しております」と返事がしたいからです。結果として、当たり障りのない研修をサラッとやるだけになります。とりあえず“映画鑑賞”や“打ち上げ花火を見た”という程度です。短期的視点で鑑賞しただけですから、社員は当然実行できるようにはなりません。せっかく投資をしているのに、結局何も変わらない。とても残念な結果になってしまいます。
 

御社は、遠回りのように見えて確実な【仕組みづくり】に着手するのか、近道に見えて遠回りをする【社員研修】を続けるのか。経営者は、自社の勝負ポイントを見極める立場です。どちらを選択しますか。仕組みづくりに着手するのであれば、人間の基本機能を見方につけるコツをお伝えすることができます。社員研修を企画・実施する前に、今一度、何を優先させるべきか考えてみてください。
※仕組みづくりをした上で、自社に必要なテーマの社員研修を実施することはとても有効です

 
  
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