ノートとペン 今週の「コジマ式 変革経営の視点」 代表 小島 主の経営者様向け専門コラム

第60話組織の潜在能力。引き出す社長と気づかぬ社長の違い

緊急時の団結力も よいけれど 平常時の実行力を 強化せよ
第60話:「組織の潜在能力。引き出す社長と気づかぬ社長の違い」(緊急時の団結力も よいけれど 平常時の実行力を 強化せよ)

 
 

「あの日本電産が、業績予想を大幅に下方修正しましたね。世界同時不況がいつ起きるのか。先行きが心配です」
 

情報交換をしていたT社長がおっしゃいました。この前日、日本電産の永守会長が「これまでに経験したことのない落ち込み」と発言したことがニュースに流れていました。
 

<日本電産株式会社 2019年3月期 連結業績予想 2019/01/17時点>
 売上高  1兆4,500億円 (前回予測から△1,500億円)
 営業利益   1450億円 (前回予測から△500億円)
 

原因は、米中貿易摩擦の影響で中国を中心に世界的に需要が後退していること。想定よりも早く、急速に業績が失速していることです。この状態が続くと、2008年に起きたリーマン・ショック級の不景気になる、と強烈な危機感を表していました。他にもイギリスのEU離脱問題もあります。
 

ニュースを振り返りながら、T社長は11年前を思い出していました。リーマンショックのとき、T社長の会社は売上が7割ダウンしました。この状態が半年ほど続き、会社存続の危機に陥りました。資金繰りも厳しくなり、一時は廃業を覚悟したほどです。
 

このとき、全社一丸となって黒字化プロジェクトに取り組み、危機を乗り越えました。背水の陣に追い込まれ、火事場の馬鹿力を発揮したのです。聞くところによると、過去にも、数回会社存続の危機を乗り越えた歴史があるそうです。
 
 今週は、このT社を題材に <どのように組織の潜在能力を引き出していくのか> 潜在能力を引き出す社長と気づかぬ社長の違いに注目します。
 
 
 

■1.緊急時と団結力・実行力の関係
 

組織の潜在能力は、緊急時に引き出されやすいものです。組織は人が集まってできています。その人は動物の一種です。だから、動物の特性を考えるとヒントが見えてきます。動物の生存本能が存続の危機を感じると、無意識のスイッチが入り、普段では想像できないような力が発揮されます。
 

また、これを土台に、危機意識が共有されると一気に団結力・実行力が高まります。組織の目的と個人の目的が一致するからです。すると、社員同士が共通の目的を達成するための同志になります。T社長の会社は、驚くほどチームワークが良くなったそうです。だから、緊急プロジェクトを推進することができました。
 

< 緊急時は、団結力・実行力が高まりやすい >
 

緊急時に団結さえできない組織は、既に存続していません。なぜなら、対策が実行しきれず、危機を乗り越えられないからです。一方で、歴史が長い会社では、経験則から「なんとかなる」と油断しています。
 

「我が社は、いざというときの団結力が凄いんですよ。普段はバラバラなところもありますが、あまり心配していません」
 

T社長も、かつてそう思っていたそうです。しかし、忍び寄る世界同時不況に対し、焦りを感じるようになりました。5年後に後継者にバトンを渡すと約束していることや、危機感を持たず権利ばかり主張する社員を見ると、さらに危機感がつのります。
 

もし、打つ手が遅れたら、会社を潰すかもしれない。現状は何とかなっているが、とても安心できない。我が社の可能性はもっとあるはずだ。眠れる獅子ならまだしも、死せる豚にだけはしたくない。先が読めない時代だからこそ、平常時でも組織の潜在能力(火事場の馬鹿力)を引き出すことができれば…。答えを模索していました。
 
 
 

■2.平常時と団結力・実行力の関係
 

「なぜ、切迫した状況にならなければ、我が社は団結できないのだろう。平常時でも、もう少し本気になってくれれば…。もっと組織の力を発揮してほしいのに…」
 

幹部会議に参加しながら、T社長の危機感がさらに高まります。緊急事態が迫っているかもしれないのに、部門間の対立が起きていたからです。「おいおい。営業部門・製造部門・開発部門・管理部門、それぞれの立場を優先している場合ではないよ…」「年度方針で決めたことさえもやりきれていない。こんな状況が続いて良いはずがない」心の中で呟きました。
 

< 平常時は、団結力・実行力が低下しやすい >
 

T社長が不満を持っていても、客観的に見れば平常時に団結力・実行力が低下することは当然です。生存の危機に直結していない、緊急事態ではないからです。平常時が続くと、大きな目的よりも目の前のことが優先されるようになります。全体最適よりも、部分最適を選択してしまうようになるのです。
 

平常時にも、緊急時のような団結力や実行力があれば…。内向きにエネルギーを浪費するのではなく、外向きにエネルギーを活用してほしい。多くの社長の願いです。
 

< 緊急時の団結力も よいけれど 平常時の実行力を 強化せよ >
 

T社長も例に漏れず、突破口を探していました。
 
 
 

■3.平常時の団結力・実行力を強化するには
 

平常時の実行力を高める突破口は、いったいどこにあるのでしょうか。
 

秘策を求め、知識や事例を収集するノウハウコレクターがいます。しかし、ノウハウコレクターと実践者は、根本的に異なります。どれだけ収集し続けたとしていても、実践につながらなければ、突破できません。
 

実は、この突破口は外のノウハウにはなく、自社の内側にあるものだからです。社長であれば、ご自身の中にあるといえます。自社や自分自身の弱さに気づき、それを謙虚に受け入れて、一つずつ向き合って正していく。そうしなければ、変われません。心底変わろうと感じなければ、潜在意識がブレーキをかけ、従来のパターンを優先するからです。
 

つまり、平常時の実行力を高める突破口は、自社の内側を整えることです。自社が存在する目的を果たすために、当たり前のことを当たり前に優先できるように、自社に向き合う回数を増やしましょう。内側を整えると、やがて実行力に変わります。これが、自社の潜在能力を外向きに発揮していくための必要条件です。
 

このとき、気合いと根性で向き合うには、限界があります。そこで、動物としての人間と、意思を持った人間、この両方を配慮した仕組みを組織的につくり、自社の内側を整えましょう。
 

まずは、動物的な側面を配慮し「実行しなければ危険。実行したら安全」と感じる環境を整備することです。例えば、業績を前もって試算し社員と共有する仕組みをつくります。前もって自社が危機的状況になると感じることができれば、自然と社員の内側に危機意識が生まれます。その仕組みが、自社の将来を現実的に示すほど、危機意識が大きくなります。そうなれば、前もって何に集中すべきか、どう行動に移すべきか、具体的に意見交換をするようになり、前もって対策を実行するようになります。危機感を醸成する仕組みが、結果として内側を整えることになるのです。
 

そして、人間的な側面を配慮し「目的を共有する。次につながる教訓を抽出する」場を定期的に設けましょう。方向性を定め、自身を振り返り、客観的な事実から教訓を抽出する。この繰り返しが、個人の意思を強くし、組織の意思を強くします。
 

いずれも平常時の団結力・実行力を高めるには、内側を整えるための環境を整備することです。繰り返しになりますが、気合いと根性に頼った精神論頼りでは実現しません。人の意思の弱さをサポートする仕組みと、人の意思を育む仕組みの両方から環境を整備してください。
 

「そもそも、実行力が弱く、環境づくりが進まなんいですよ」といった意見もあります。たしかに、自前主義の会社はそうかもしれません。自社のみで環境を整備しようとしても、なかなか上手く進みません。平常時において、人の潜在意識はブレーキになります。どうしても同じパターンを繰り返します。T社長の会社は、ここで足踏みをしているようです。
 

だったら、やり方を変えてみたらどうでしょうか。一流のスポーツ選手や、一流のビジネスパーソンを思い出してください。自身で取り組むこと、他者の支援を受けて取り組むこと、明確に分けて自身の能力を引き出しています。コーチやトレーナー、優秀なアドバイザーが、そばにいるはずです。だから成果につなげることができるのです。
 

このとき、知識よりも実践につなげること。ノウハウコレクターになるためではなく、実践力を高めるために外部の力を活用することが大切です。
 

留意点は、特効薬に見える安易な手段を選ばないこと。上手くいかない会社は、ここで失敗しています。難しそうに見えること、つまり内側を整えるために外部の力を活用してください。
 

平常時の団結力・実行力を高める。組織の潜在能力を引き出す。これには、時間がかかります。たとえ時間がかかったとしても内部を整える仕組みづくりに着手すること。そうしなければ、何も変わりません。
 

甘い特効薬を求め、何度も繰り返し失敗してしまうのか、覚悟を決めて土壌改良に着手し徐々に強くなるのか。未来を自ら創る社長と、組織を衰退させる社長の違いは、ここにあります。組織の潜在能力を引き出し明るい未来を現実にするために、御社はどちらに着手しますか。
 

 

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