ノートとペン 今週の「コジマ式 変革経営の視点」 代表 小島 主の経営者様向け専門コラム

第65話経営判断を誤る社長の共通点

現場に蓋をする社長は、経営判断を誤る。現場に耳を傾ける社長も、経営判断を誤る。
第65話:「経営判断を誤る社長の共通点」(現場に蓋をする社長は、経営判断を誤る。現場に耳を傾ける社長も、経営判断を誤る。)

 

「来期は変革の年にしよう。我が社の将来を考え、来期方針を考えてほしい」
 

S社長は、幹部社員と選抜した社員をあつめ、合宿形式で方針検討会を実施しました。社長なりの狙いがあり、新たにはじめた取り組みです。
 

その数日後、小島ははじめてこの会社を訪問しました。駅までむかえに来てくれた幹部社員のTさん。車の中で合宿の話を伺っていると、こっそり小島に愚痴をこぼしました。
 

「方針を決めるのは、社長の仕事だと思うんですけど…」
 

ある会社に個別相談で訪問した際に起きた出来事です。
 

S社長は、会社を良くするために方針合宿を実施する判断をしました。近年、このように現場に耳を傾ける社長が増えています。働き方改革といった国策やSNSの普及により個人の発言力が高まっていることも影響しているのでしょう。この一方で、現場の声に蓋をして強制力で人を動かす社長もいます。
 

どちらも狙いがあっての判断です。しかし、このどちらも経営判断を見誤ります。なぜ、判断を見誤ってしまうのか、今週は経営判断を誤る社長の共通点をみてみましょう。
 
 
 

■1.社長の仕事とは…
 

社長の仕事は、判断すること。つまり社長業は、判断業です。全責任を背負う役割として当然の仕事です。この判断対象は、大きく2つあります。一つは、既存事業で業績を上げるための判断です。もう一つは、次の事業をつくりだすための判断です。
 

(1)既存事業で業績を上げるためには、改善が必要です。現状をベースに、続けること、やめることは何なのか。より効率よく業務が回るように判断します。できる経営者は、この仕事を幹部社員に権限委譲していきます。
 

(2)次の事業をつくりだすためには、改革が必要です。根本的に、圧倒的に良くなる事業モデルを考え、実現するように判断します。できる経営者は、当然の如くここに注力しています。
 

しかし、同族会社の社長の多くは、本来の社長業に専念できていません。既存事業の業績を維持するだけで精一杯だからです。主要得意先の受注減に焦って個別フォローに注力したり、クレーム対応に時間をとられたり、場合によっては欠員となった社員の穴埋めに翻弄されたり、社員の代打として貴重な時間を浪費しています。
 

いったいどうしたら本来の社長業に専念できるのでしょうか。
 
 
 

■2.現場の声に蓋をする社長 → NG
 

かつては「俺のいうとおりにやれば良い」というトップダウン型の社長が多くいました。情報コストが高い時代に通用したスタイルです。業界団体の会合や社長同士のネットワークなど、社長しか知りえない情報が多くありました。社員にとっては他社の情報はもちろん、他業界の情報も手に入りにくい時代の話です。
 

「現場は全体像が見えていない。偏った視点による不平不満に耳を傾けるよりも、全体像が見えている自分が判断したほうがよい」という考え方です。二十年前までは、これが正解だったかも知れません。
 

いまだにこのスタンスが通用している業界や会社もあります。しかし、これは準絶滅危惧種です。運よく競争の少ない恵まれた環境で経営をしているのでしょう。もしくは、家業として食べてよければよいという個人商店でしょう。
 

数年前にFREEという書籍がヒットしたように、近年では情報コストが非常に安くなりました。社長しか知りえない情報は少なくなりました。圧倒的に有益な情報が、ちょっと探すだけでゴロゴロと転がっています。情報の見極めは必要ですが、意識の高いビジネスパーソンであれば、誰でも簡単に情報が手に入ります。
 

また、伸びている会社を見ると、社内にもアンテナを張りめぐらせています。現場ならではの気づきを生かすことで、その会社を圧倒的に強くしています。現場の声は、既存事業の改善に役立つだけでなく、次の事業を生み出す貴重なヒントになることが多いからです。
 

現場の声は、社内に眠ったダイヤの原石。貴重なヒントです。この原石=素材を生かすことなく、現場の声に蓋をする。旧来型のタイプの社長は判断を誤り、会社をダメにします。
 

< 現場に蓋をする社長は、経営判断を誤る >
 

少し表現を変えれば、社長が個人的に外部から得た情報は、あくまで料理のレシピにすぎません。このレシピだけで、美味しい料理を作ろうとするから間違えるのです。
 

料理は、レシピと素材をセットで考えなければなりません。素材を生かすことで、美味しい料理ができます。できる経営者は、自社の素材とレシピをセットにして判断しています。
 

現場の声に蓋をすると、素材を見極めることができません。自社を取り巻く経営環境が変化し続ける時代だからこそ、素材の変化に注目しなければ重要な経営判断を誤ります。
 

さらにいえば、判断を誤るだけでなく、素材そのものを失います。現場の声に蓋をすると、社長に見切りをつける社員が増えます。そして、ポテンシャルを秘めた社員から順番に会社を辞めていきます。就職サイトの口コミ情報を見た就職希望者は、エントリーを避け、応募すらしません。
 

現場の人員が不足しているにも関わらず、採用がより難しくなる。ますます悪循環から抜けられなくなります。近い将来、既存事業を続けることも困難になるでしょう。
 

< 現場に蓋をする社長は、経営判断を誤る >
 

このように、自社のかつての成功体験にあぐらをかいていると、ジワリジワリとジリ貧になります。ふと振り返ると、背中の後ろは崖っぷちになっていることでしょう。ギリギリのところに座っていると気がついても、足がすくみ立ち上がることもできません。ここまでくると、社長業を放棄しているようなものです。厳しい表現をすれば、社長失格です。
 

念のため書きましたが、この古典的なスタイルを続けている会社は少なくなってきました。本コラムを読んでいる社長様であれば、問題ないでしょう。
 
 
 

■3.現場に耳を傾ける社長 → NG
 

冒頭のS社長は、かつて有益だった会長時代のスタイルを打破しようと考えていました。時代の変化とともに自社が取り残されていると感じていたからです。
 

そこで、社員の声に耳を傾ける姿勢を重視してきました。数年かけてさまざまな取り組みを導入。公式・非公式の懇親会を定期的に開いたり、読書会や勉強会を開いたり、ビジョン検討会を開いたりしました。
 

あえて弱みをさらけ出すことで、若手社員から冗談を言われるほどにまでなりました。少しずつ社員の意識が変わってきたことを喜んでいました。そして、いよいよ経営の根幹に関わること=来期方針検討会に社員を参画させようと判断したのです。
 

“全員が経営者になろう” “主体性を育み自ら考え行動しよう” “社員のやる気を引き出そう” 
 

「だから、来期方針を考えてほしい」と伝えました。しかし、社員はこの意図を十分に理解していません。
 

社員からすれば、今まで会社方針を考えたことがありません。どのように考えて良いのかさえわかりません。しかも、初心者があつまって議論することになります。社員の立場では責任がとれないため、誰も判断できません。すると、民主的に多数決をとって決めるようになります。
 

多数決では、現在の延長線上レベルの方針しかでないでしょう。現状のやり方で既存事業が効率よく回り、業績が上がっていれば、まだ猶予があります。しかし、既存事業の業績が厳しくなっているのであれば、ここに時間を使う余裕は無いはずです。
 

ましてや、次の事業を生み出すような方針は出てくるわけがありません。よかれと思って現場の声に耳を傾けたとしても、会社の方向性を定める判断までゆだねてしまうと失敗します。重要な経営判断を誤ってしまうからです。
 

< 現場に耳を傾ける社長も、経営判断を誤る >
 

このように、社員の自主性・主体性に甘えてしまうと、会社の方向性を決める社長の重要な決断が、社員の決断ごっこレベルに成り下がってしまいます。社員の判断を尊重すると宣言してしまった手前、誤った判断であったとしても、軌道修正がやり難くなります。
 

また、社員の立場からするとTさんのように、社長業を放棄しているようにも見えます。結果として、求心力が下がります。社員に、社長失格という烙印を押されてしまうでしょう。
 

モチベーション論を唱えたり、ビジネスコーチングに熱心な会社は、このワナにはまりやすいものです。よかれと思って取り入れている活動で、経営判断を誤っていないか、今一度確認してください。
 
 
 

■4.正しく経営判断をする社長
 

あれは、正しい経営判断だったのか。経営者はいつも自問自答しています。プロ野球の野村監督の名言に「負けに不思議な負けなし」という言葉ありますが、これは経営にもいえます。つまり、今思うような成果がでていなければ、それはあなたの過去の判断が間違っていたと言うことです。
 

当然、全責任をとるのは代表権をもった社長の役割です。社員では責任がとれません。だから、会社の方向性を定める重要な判断は、社長が決断しなければなりません。そもそも社員にゆだねることではないのです。
 

このとき、社長が外部から知りえたレシピだけでは上手くいくわけがありません。一方で、素材だけみても上手くいくわけがありません。レシピと素材、セットで判断してください。これまでどおり、社外の情報にアンテナを張り、魅力あるレシピを入手してください。そして社員のみぞ知る情報や感情といった素材を集めてください。ただし、判断は社長がすること。これが要諦です。
 

つまり、社長は現場の声に耳を傾けて素材を集め、既存事業を効率よく回すレシピだけでなく、次の事業を生み出すレシピを選択してください。この判断は、社長であるあなたの仕事です。
 

社内に眠ったダイヤの原石を見つけるのか、貴重な原石を単なる石ころと勘違いをしてゴミ箱に捨ててしまうのか。素材を見極め生かすも殺すも社長次第です。
 

そのために “衆知独裁” というスタイルをとりましょう。現場の声に耳を傾けて衆知をえる。最終的には社長が独断する。役割が違うことを社員に説明し、役割にそった仕事にお互いが注力しましょう。今こそ、社長業に専念するときです。
 
 
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