第108話なぜなぜ分析は、なぜ会社をダメにするのか
「なぜなぜ5回が基本だろ。早く真の原因を特定して対策をせよ! 」
U社長は苛立ちを抑えながら幹部社員に問いかけました。幹部社員は、目を白黒させながら状況を説明します。U社は、地方都市でサービス業を営んでいます。実はこの数ヶ月、あるトラブルが続いており、幹部はその対応と対策検討に追われていました。コンサルティングがスタートした直後の話です。
U社長は小島に言いました。
「我が社の本社は、ご認識の通り大手自動車メーカーT社の城下町にあります。地元の社長会では、T社の経営手法を学ぶ機会が多いんです。だから自社の問題解決に “なぜなぜ分析” を取り入れているんですよ…」と。
“なぜなぜ分析” とは、問題解決手法の一つです。問題が発生した要因を「なぜ?」「なぜ?」と深く掘り下げて分析し、真の原因(真因)を特定する。そして、真の原因に根本対策を打つことで、再発を防止するアプローチです。1978年に発刊された著書「トヨタ生産方式」(大野耐一氏:ダイヤモンド社)で紹介されて有名になりました。多くの会社で業種・業態に関わらず採用され、社員教育の一環でも活用されています。
しかし、これには大きな落とし穴があります。なぜなら、真因探しの “なぜなぜ分析” は、言い訳ばかりの “なでなで分析” になってしまうからです。
< 真因探しの なぜなぜ分析 言い訳ばかりの なでなで分析 >
小島はU社の現状を確認し、この落とし穴に陥っていると判断しました。そのため、すぐにこの手法を止めて別の観点から対策を設計・実施するようアドバイスをしました。一体どういうことでしょうか?
なぜなら “なぜなぜ分析” をすると、3つの着眼で不具合を生じてしまうからです。どれだけ注意しても人はこれに甘えてしまい、結果として “なでなで” と許してしまうことになるからです。
●不具合 その1:活用場所の間違い
最も基本的な着眼では、この手法を使う場所を間違えるという点です。
そもそも “なぜなぜ分析” は、工場の製造現場で生まれた改善手法です。工場では、前提として自働化された設備があり、それを担っている社員が繰り返しの作業をしており、そこで発生した問題に対して分析するアプローチでした。一歩踏み込んで前工程(設計段階)まで遡るケースもあります。
いずれも目に見える仕組みがあり、その不具合に対して原因を分析する手法です。ですから、 「人間性や人の意識の側面で原因を特定してはいけない」 という厳格なルールに基づいて行うようにしなければなりません。
しかし、Y社の現場は製造現場ではありません。店舗型のサービス業で、接客が中心です。基本はありますが、店舗の人員構成やお客様の特性、状況によって、柔軟に対応することが求められます。どうしても不確定要素が増えてしまうからです。すると、どれだけ分析のルールに留意していたとしても、本人も気づかぬ間に 「人間性や意識の側面に原因がある」 ととらえてしまうのです。
もし、ルールを厳守して仕組みを分析したとしても、社員の視野の広さ、時間軸の長さには限界があります。ですから、結局は全体像が見えない中で原因を追求することになってしまいます。このように、なぜなぜ分析で根本対策を導くことは、構造的に困難なものなのです。(社員が自ら考える訓練としての意味合いでは有益な活動です)
つまり、訓練されつくした人でない限り、工場の製造現場(設計含む)以外では冷静に仕組みの分析がされず、上手く活用されない手法なのです。本来は「どれだけ注意をしたとしても人間はミスをおかす存在である」「個人の努力ではなく仕組みで成果を担保する」という前提で取り組む活動です。ただ、人はそれを維持できないのです。
●不具合 その2:人間の構造によるワナ
次に重要な着眼は、人間の安全安心欲求・生存本能が邪魔をするという点です。
どれだけ仕組みに注力したとしても、仕組みをつくるのも・使うのも・見直すのも、結局は人の仕事です。人はこれを無意識的に認識しています。つまり、 “仕組みに原因がある” ということは、間接的に “仕組みに関わっている人に原因がある” ということと同義だと捉えるからです。
もう少し丁寧に説明すると ”仕組みの見直しに着手しきれてない” という社員の 【行動】 に問題があったとしても、社員の深いところでは 【存在が否定されている】 と解釈するからです。社長や幹部が 「自己責任の意識を持て!」 と部下に言えば言うほどこの傾向は強くなります。
つまり、真の原因を追究すればするほど、その原因を認めるほど、人は自己否定をすることになってしまうのです。だから、社員は建前の原因(真因モドキ)を、さも事実かのように語ってしまうのです。冷静に見ればでっち上げに過ぎませんが、あたかも正しいかのように聞こえてくるのです。これは特定の誰か(人)が悪いということではなく、人間の構造の問題です。人間の本能がそうさせてしまうのです。
●不具合 その3:原因と結果の構造の認識間違い
最後に根本的な着眼では、 “問題には、それを発生させた真因がある” と信じている点です。
本来、真の原因なんてありません。それを発生させた複数の要因があるだけです。
真因があると思っている方は、 <原因と結果> が <1:1> で紐付いていると無意識のうちに考えています。人は分かりやすい固定点を見つけることで、安心したいからです。
しかし、実態は異なります。社会も会社も複雑な構造の中で、様々な要因が相互に影響しあって、様々な結果をもたらしています。つまり、原因と結果は、N:Mなのです。
あえて、特定の結果一つに絞って原因を追究すれば、 <原因と結果> は <N(複数):1> になっているのです。ですから、冷静に多面的に分析すればするほど、真因は特定できないのものなのです。
このように “なぜなぜ分析” は、大きな欠陥を孕んでいます。
教科書的に机上で考えれば、改善活動が進みそうな分析手法です。ところが、実態は異なり改善活動は進みません。ましてや会社を根本的に良くする変革活動にはならないものなのです。繰り返しになりますが “なでなで” と甘やかしてしまう活動にならないように注意が必要です。
< 真因探しの なぜなぜ分析 言い訳ばかりの なでなで分析 >
もし、御社が “なぜなぜ分析” を重視していたとしたら、冷静に事実を確認し、使い方を見極めてください。もちろん全ての “なぜなぜ分析” が間違いだというつもりはありません。特定の分野で、特定の使い方であればとても有効なアプローチです。ただ、それを万能な手法だと信じることは大間違いだというだけです。
御社は、自社の将来をより良いものとするために、今年は何をどう実施していきますか? それは、どれだけ全体観を踏まえて決定しましたか? 限られた経営資源をどこに投入するのか……今一度、社内で取り組んでいる活動を確認してください。それが、自社を良くする第一歩です。2020年がはじまりました。御社の挑戦を応援しております。
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