ノートとペン 今週の「コジマ式 変革経営の視点」 代表 小島 主の経営者様向け専門コラム

第109話人件費が高いと悩む会社の共通点

福笑い経営は、人件費が高い。設計型経営は、人件費が安い。
第109話:「人件費が高いと悩む会社の共通点」( 福笑い経営は、人件費が高い。設計型経営は、人件費が安い。 )

 

「社員は 『人が足りない、人が足りない』 と言うけど、既に人件費が高すぎなんですよ……」
 

Y社長は悩んでいました。主力商品の売上が順調に伸びており、それなりに投資もしてきました。だからもっと効率化が進むはず、と思っていました。しかし、現実は違いました。既に異常値とも言えるほど労働分配率が高くなっています。これでは採算がとれません。
 

「福笑い経営が問題ですね」
 

小島はY社長のお考えと、社内の状況をお伺いした後、結論をお伝えしました。
 

福笑いとは、「おかめ」「おたふく」などと呼ばれるお福面を使った正月遊びの一つで、江戸時代後期に始まったといわれています。顔の輪郭だけを描いた紙を前に、目隠しをされた人が眉や目、鼻や口などを、自分が正しいと思う場所に並べます。目隠しをされているので、各パーツの位置がずれることがほとんどです。その滑稽な表情をみて笑い楽しむ遊びです。
 

Y社長は 「福笑い経営? 」 と不思議そうに聞き返しました。
 

小島 「はい。御社には社歴も役職もほぼ同じAさんとBさんがいます。二人とも真面目に頑張っていると思います。ただ、いただいた資料を見ると一人当たりの生産性が3倍も違います。これは人に業務がはり付いている証拠です。福笑いでいえば、Aさんは毎回上手く顔のパーツを並べますが、Bさんは何回やっても下手くそ。そんな状況ではないですか? 」
 

Y社長 「そうなんですよ。Bさんだけでなく、なかなか人が育たないというか、成果をだせない社員が多くて……」
 

小島は言葉を選びながら伝えました。
 

「Y社長、社員に問題はありません。恐らく創業時に経営者が陥りやすい思考パターンのワナが問題です。これのよって社長が優先度を誤ってしまったんだと思います」
 

さらに続けました。
 

「理想を言えば、事業を拡大する前に、福笑いで言えば、社員が目隠しされていても眉や目、鼻や口の位置が分かるような仕組みをつくることが先決です。仕組みがあってはじめて再現性高く人が育ち、生産性も高まるものだからです。でも、思考パターンのワナにはまると仕組みづくりを後回しにしてしまうのです」 と。
 

< 福笑い経営は、人件費が高い >
 

正月遊びで “福笑い” をするのであれば何も問題はありません。しかし、事業会社の社長が、いつまでもやみくもに社員に福笑いをさせている。そんな状況であれば大問題です。
 

社長は、社員を雇用します。このとき、社員には大きく3つの役割があります。(1)作業をしてもらう人なのか(例:年収300万)、(2)仕事をしてもらう人なのか(例:年収500万)、(3)仕組み化をすすめてもらう人なのか(例:年収800万)、の3つです。当然、主な役割によって報酬の基準が異なります。社長は、役割の違いを意識して誰を採用するのか判断していくべきなのです。
 

創業直後の社長は、業績をつくるためにトップ営業に注力せざるを得ません。そして事業が軌道にのる前の段階では高い人件費を払うことに躊躇いを感じます。
 

さらに、社長は 「人に任せるよりも自分がやった方が早いし確実だ」 と考え、自らマルチに働いてしまうのです。実際にとても忙しく、サボっているつもりはありません。 「自分は最善を尽くしている」 と信じています。
 

数年後に冷静に振り返れば、これが間違いだと分かります。仕組み化は創業後の極力早い段階で行うものだからです。仕組み化は主に、社長自身が進めるケースもあれば、進めてくれる人材を採用し進めてもらうケースがあります。ところが、創業直後の社長は、目の前の緊急対応を優先し、仕組み化を後回しにしてしまうのです。
 

これが、創業時に陥る社長の思考パターンです。Y社長もこのパターンでした。
 

そして、受注が決まれば案件をこなさなければなりません。だから、社長が直接指示をして、言われたとおりに作業をしてくれる社員を優先的に採用します。
 

やがて売上が増え、社員数が増えるにつれてマネジメント社員が必要になります。社長の変わりに指示をしたり、作業者をまとめたり、といった仕事をしてもらうためです。
 

この時、社長の頭の隅には <仕組みづくりをしなきゃなぁ> という気持ちがあります。でも、目の前の現状は何とか回っているし、人件費を抑えたいし、と考えこの状態を続けてしまいます。
 

手順も基準も各マネジメント社員の人間性に委ねたまま、拡大していくのです。創業直後から順調に業績を伸ばした同族会社は、ほぼ間違いなくこのパターンに陥ります。そして、人に業務がはり付いていくのです。
 

すると売上の増加にともない、社長の目が届かなくなっていき、やがて不具合が急増しはじめます。その後は社長が火消しに忙殺されるようになり、マネジメント社員に 「原因を特定しろ。さらに仕組みをつくって、不具合を減らせと!」 激を飛ばすようになります。
 

ところが、どれだけ社長が激を飛ばしても、人に業務がはりついた状態が続くものです。埒が明きません。
 

本来、会社が組織をつくる背景には、 <社長一人がすべてをやるよりも役割分担をしたほうが作業効率が高まる> という意図があります。ところが、仕組み化を疎かにしたまま拡大すると、ある規模を超えたあたりから非効率が非効率を呼ぶ負のスパイラルがはじまります。ずぶずぶと泥沼に沈んでいき、止められなくなるのです。
 

この時、多くの会社のマネジメント社員は仕組み化を進めることができません。それまでは、伝書鳩のように社長の指示を作業者に伝え、管理をしていただけだからです。仕組み化には別の能力が必要です。それは、リーダーシップ(変化させる)という力です。
 

それでも指示を受けた一部のマネジメント社員は恐る恐る、オペレーションレベルの仕組み化に着手します。基準を定めたり、手順書を整備したりするのです。ところが、これが組織に浸透することはありません。別のマネジメント社員をはじめ、各作業社員も自分のやり方を変えたくないからです。
 

そして、異なる役割を無理にやらせ続けると、悲しい結末が訪れます。恐る恐る挑戦したマネジメント社員は、気力と体力を失い退職してしまうのです。この結果、変われないマネジメント社員と作業者だけが残ってしまうのです。
 

とはいっても受注した案件は止められません。社長は、良くないと思いつつも場当たり的に新たなマネジメント社員を採用したり、作業の抜けや漏れを補う作業者を補充したりします。これが、さらに非効率を拡大させていくのです。
 

こんな状態を繰り返すと、会社はますます烏合の衆になっていきます。とても組織とはいません。秩序の無い単なるカラスの集団です。だから、生産性は下がり続け、相対的に人件費が高くつくようになるのです。
 

既に仕組み化を終えた社長は、口を揃えて言います。 「1日でも早く、仕組み化に注力した方が良い」 と。補足するなら、仕組みを見直す仕組みも必要です。
 

令和の時代は、作業や仕事がどんどんコンピュータや機械に置き換わっていく時代です。つまり、がんばったら何とかなる時代ではありません。自ら仕組みをつくり、自ら仕組みを成長させることができなければ、何ともならない時代です。
 

10年、20年先の我が社を想像してみてください。作業と仕事を任せるだけの人材をどれだけ採用しても、仕組みは構築されませんし、雇用も維持できなくなります。
 

短期的に見れば、仕組み化を進める人員の一人当たりの報酬は多少高くつきます。しかし、中長期的にみれば、仕組みによる生産性の向上は図りしれません。初期投資の人件費は、安すぎるといっても良いぐらい格安な投資になります。
 

構築した仕組みがどれだけ効果を生むのか。これは、設計段階で90%が決まるといっても過言ではありません。だから社長であるあなたは、仕組み化を最優先に考えなければならないのです。
 

< 福笑い経営は、人件費が高い。設計型経営は、人件費が安い。 >
 

ぜひ、御社も仕組みを設計し構築できる人材、道無き道を切り開き仕組みに落としこめる人材の確保を強化してください。この仕組みには、オペレーションレベルの仕組みや、変革レベルの仕組みがあります。御社の状況に応じて、整備する仕組みを見極めてください。あと、社員教育をどれだけ進めても、仕組みづくりの前に実施すると場当たり的になってしまいます。ご注意ください。
 
 

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