第66話リスクを許容するマネジメントの仕組みとは
「準備は整った。全社一丸となって挑戦していこう」
C社長が力強く幹部社員に語りかけます。
先日お伺いしたクライアント先での出来事です。この日、来期の目標予算が決まりました。そして、どのように目標予算を突破するのか。どう戦って実現させるのか。全社の方向性が伝えられました。
「全社の営業戦略にもとづき、次回の会議までに具体的な作戦を考えて欲しい」
C社長はまとめました。お題を受け取った幹部社員は、真剣な眼差しでうなづきます。小島は、この会社の雰囲気が大きく変わっていることを実感しました。
実はこの1年前、C社長は小島に悩みを打ち明けていました。
「保守的な社員ばかりでどうしたら良いのでしょう。失敗が怖いから挑戦しないなんて、言わないで欲しいのに…」
この会社は、既存得意先を中心に顧客奉仕型(御用聞き型)の営業を続けていました。訪問先は、慣れ親しんだ得意先です。いつものパターンで注文を受け、いつものパターンで応対する。どのタイミングで訪問し、何をすれば良いのか。阿吽の呼吸で営業活動が進みます。
主な製品は受注生産で製造しています。得意先ごとに提供する製品が異なります。先代から続いている営業スタイル。年月が流れました。仕事に人が付くのではなく、営業担当者一人ひとりに仕事が付いていました。
属人的になりすぎており、担当変更もできそうにありません。既存得意先の業績も頭打ちです。打開策をもとめ、社員に新規取引先の開拓を指示をするものの、何年経ってもスローガン止まり。C社長は困っていました。
この状態が続くと、企業経営は厳しくなります。分かっちゃいるけど打破できない。C社長は悩んでいました。
これは、多くの同族企業がおちいる現状維持のワナです。今週は、この現状維持のワナを脱却するために <リスクを許容するマネジメントの仕組み> をご紹介します。
■1.社員は知らない。現状維持は、最大のリスク
経営環境は常に変化し続けます。企業は環境適応業と言われるほどです。だから、新規取引先の開拓や新規案件の発掘は、営業部門において最重要業務です。社長は、この重要性を十分に知っています。
ところが社員は、異なります。現状維持(既存得意先へのフォロー)を優先しまうからです。
既存得意先からの見積依頼がきたり、トラブルの対応を求められたり、人間関係を維持するための付き合いがあったり。目の前の作業をこなすだけで、定時を過ぎてしまいます。
積極的にサボろうとしてるわけではありません。既存の数字を落とすことを恐れ「前例や既存のルール通りやらなければならない」と思い込んでいるだけなのです。
社長が「やり方を変えて挑戦しろ」と指示をしても、現場がこの状態のままでは変わりません。前例が無ければリスクだと感じてしまい動けないからです。
<現状維持の文化は、最大のリスクである>
まずは、この事実を社員に認識してもらいましょう。やり方は簡単です。全社会議の場で、電卓を持参させ簡単な計算をさせるのです。
既存の売上を100として、既存得意先のリピート率で掛け算をします。リピート率90%・消滅率10%なら“×0.9”と掛け算します。2年目、3年目、…と続けて掛け算をさせてください。
すると社員の表情が変わります。
100に“×0.9”を7回かけると48。“×0.8”の場合は3回で51。“×0.7”の場合はたった2回で49と半減するからです。これまでは既存得意先の成長や、紹介等による営業を中心に攻めてきました。これにも限界があることに、ようやく気がつきます。
社員が「現状のままではマズイ」と痛感するほど、組織は変化しやすくなります。現状維持という最大のリスク。今すぐ社員に気づかせましょう。
■2.挑戦の文化で、最大の安定を手に入れる
経営環境は常に変化し続けます。この前提がある限り、企業も変化し続けなければなりません。変化するためには、挑戦すること。当然のことです。
この大切さは、社長も社員も分かっています。しかし、頭だけの理解で止まっています。皮膚感覚では、バラつきがあるのです。会社存続の危機にでもならない限り、心のどこかで現状維持で何とかなると思っています。
だから挑戦する文化をつくらなければなりません。この文化があれば、挑戦=安心、現状維持=危険となり、変化しないことに不安を感じるようになるからです。
C社長は、この大切さを実感していたので、挑戦する重要性を何年も語ってきました。しかし、なかなか挑戦する文化にはならなかったそうです。
<失敗が怖いから挑戦しないなんて、言わないで欲しい>
冒頭の台詞は、このときに呟いた言葉でした。
この原因は大きく2つあります。
一つは、挑戦して失敗しても良いというルールが無かったからです。
もう一つは、挑戦したことを評価する仕組みがなかったからです。
この対策はシンプルです。
ルールを変更しましょう。前もっての変更がおススメです。
既存のルールで戦うのであれば、失敗は許されません。しかし、新たに挑戦するのであれば、失敗することは前提になります。そこから次につながる教訓を抽出すれば良いのです。だから、“失敗しても良い” というルールをつくりましょう。
一般的には、挑戦して失敗することよりも、何もしなかった方が安全です。だから、“挑戦すること(成功・失敗は関係なく) >>> 何もしないこと” となるように評価する仕組みをつくりましょう。
とはいっても社員に闇雲に失敗してもらうのは困ります。現状のペースでいくと将来の業績がどうなるのか。実際に試算しながら、いろいろと挑戦する。この挑戦内容が一定の確立で実現したとすると、今期の着地見通しはどうなるのか。見えるようにして予め手を打つのです。
目標予算を突破するためには、新たな価値を提供することによって、消滅していく既存得意先向けの業績取り返さなければなりません。もちろん失敗することが前提にあります。だから、売上高・粗利益の不足分に対し、3倍、4倍を稼ぎ出す挑戦をしなけれなりません。予めリスクを許容しておくのです。
つまり、挑戦していることを、将来の業績に置き換えて試算する仕組みをつくるのです。そして、リスクを許容するだけの対策を積み上げた上で、成功確率を上げる工夫をします。これがリスクを許容するマネジメントの仕組みになります。
<挑戦の文化で、最大の安定・成長を手に入れろ>
これが経営の原理原則です。
■3.挑戦する文化を育むために、仕組み以外で必要なこと
リスクを許容する仕組みがあれば、自社に挑戦する文化が育つのでしょうか。
実は、これだけでは不十分です。挑戦する文化は育ちません。根本的な要因が、仕組み以外のところにあるからです。
それは、何か。
それは、社長の姿勢です。
社長は、自社の最高意思決定者です。この社長自身がどれだけ挑戦しているのか。社員は何も言わず見ています。だから、社長自ら挑戦する姿勢をとることで、社員は感化されます。すると挑戦する文化が一気に育ちます。
C社長は、この姿勢が足りませんでした。相談を受けたとき、営業担当者の異動(ローテーション)をためらっていました。古参幹部の処遇にメスを入れたり、若手社員を選抜したりせず、「挑戦しろ!」と言っているだけでした。また、トップ自ら同行営業もせず、社長室にこもっていました。新たな戦い方を手に入れる投資も渋ったまま、目先のコストカットばかりに注力していました。
「挑戦しろ!」という社長自身が挑戦していない。保身に走っている。
社長にそのつもりが無かったとしても、社員は敏感に感じとっています。子供が自然と親に似てくるように、社員が自然と社長に似てきただけなのです。
あなたは、今、何に挑戦していますか? それは、御社が、今、挑戦すべきことに連動していますか?
次のステージに進むためには現状を手放す覚悟が必要です。そして、前に進む決意も必要です。
世の中が不可能だらけだったら、人間は原始時代から進化していません。ここまで人間が進化できた背景には、多くの人間が挑戦してき歴史があるからです。会社に置き換えても同じです。自社が不可能だらけだったら、自社は創業時から進化していません。ここまで存続してきた背景には、先人が挑戦してきた歴史があるからです。
経営者の仕事は、自社の可能性を引き出すことです。社員が挑戦しなくて…と困っているのであれば、社長ご自身の姿勢を見直してみましょう。今一度、リスクを許容できるマネジメントの仕組みをつくるとともに、社長自身が挑戦する姿勢を見せてください。
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