第62話組織のチームワークを高める相互理解の進め方
「もっと協力し合う文化があれば、目標を達成できると思うのですが…」
先日、別のお仕事で知り合ったT取締役からご相談をいただきました。T取締役は、新たに東京営業所を担当することになったそうです。東京営業所は業績不振。3年連続で目標未達の組織です。昨年もあと一歩のところまできたのですが…。
「自社製品を担当するメーカー営業部隊と、他社製品を担当する商社営業部隊が、競合するケースもありまして…。もっと協力し合えば良いのですが、どうやら対立してしまっているようで…」
負け癖が付いたうえに、営業所内で対立も起きているとのこと。いったいどうしたらよいのでしょうか。今週は、この事例を通じてチームワークを高める方法をご紹介します。
■1.組織が抱える業績不振の2大原因
まず、業績不振の原因探しです。業績不振の組織は、「戦略」の間違いか、「実行力」の不足か、大きく2つの原因が上げられます。また、その両方が絡んでいるケースもあります。当たり前のことですが、この原因の特定が必要です。原因を把握せず対策を打ったとしても、期待する効果は得られません。
戦略の側面では、個別の市場を意識して戦略を立ていないケースが濃厚です。かつては一律で全国共通の戦略を推進していくスタイルが多く見られました。しかし、近年は異なります。マクロ視点の戦略を中心においても、あまり効果的ではありません。地域や顧客属性にって個別に戦略と立てる必要があるからです。
しかし、「戦略」が正しいのか、間違いなのか、前以て断言することは困難です。なぜなら、その答えを持っているのは市場の顧客だからです。明らかな間違いを除き、やって見なければ分かりません。常識的に間違いに見えることも、試行錯誤の結果、新たな市場開拓につながることが多いものです。つまり、戦略は、試行錯誤を前提に、実行しきった上で判断できるものです。市場と顧客の反応をみて、期待する効果があれば正解。無ければ間違いだった。といえる側面があります。
一方で、実行力の側面では、ほとんどのケースでヒトに問題があります。設備やキャッシュなど経営資源を使うのも、情報を共有するのもヒトが中核になるからです。つまり、業績を上げる仕組みをつくったり、それを活用したりして、実際に実行するのは、ヒトだからです。
しかし、業績不振組織の社員は、エネルギーの使い方を間違えています。お互いに協力し合うことが少なく、結果として足を引っ張り合うような悪い行動を繰り返しています。つまり、外側に発信すべきエネルギーを、内側の対立や自己防衛に浪費してしまっているのです。まずは、これを自覚すること。そして、実際に行動を変えること。そうしなければ、目標を達成する組織にはなれません。
■2.チームワークが実行力を高める
小島がこれまで支援してきた企業では、ほとんどのケースで「実行力」に問題がありました。実行力を高めることで、業績が上がりました。また、業績を上げることで前以て「戦略」を見直す余裕も生まれました。だから、オーナー経営者様には、まずは組織の実行力を高めることをおススメします。
このとき、実行力という観点では、チームワークが重要です。環境変化が早く、複雑な時代は、試行錯誤が前提だからです。一人では解決できない課題を、複数人の知恵と創意工夫を掛け合わせ、チームで解決する時代なのです。
T取締役の担当する東京営業所は、お客様の課題を解決するための製品・サービスを、既存顧客や新規顧客に届けるための組織です。つまり、メーカー営業部隊と商社営業部隊が協力することで、お客様の課題を解決に導くことで、提供する価値を増やすことができます。
■3.自らに役立つことを優先すると、対立する
ところが、営業所では「営業情報を隣の部隊に漏らすなよ!」と極秘指示が飛び出すような関係性だそうです。目標予算をの達成を邪魔する敵として、認識していたからです。このように、自らに役立つことを優先すると、対立が生まれます。チームワークどころではありません。
このとき、大手資本の入った会社は、すぐに組織変更をしています。戦略的な側面もありますが、ほとんどが建前です。実際には、数年毎に親会社からやってくるサラリーマン経営者が、目に見える実績づくりとして実施しています。現場では、部門名が何度も変わったり、ガラガラポンと異動があったりするため、既存顧客を引き継ぐだけでも大混乱してしまいます。
一方で、中小・中堅規模のオーナー経営者は、頻繁に組織変更をすることは少ないものです。組織変更にともなう既存顧客の流出が、致命傷になりかねないからです。とはいっても、現状のまま対立を続けていても、現状は変わりません。組織変更をする前に、何らかの手を打つ必要があります。T取締役は、いったいどうしたらよいのでしょうか。
■4.誰かに役立つことを優先すると、協力する
この答えは、とても単純です。ヒトの善意に焦点を当てることです。そもそもヒトは、誰しも誰かの役に立ちたいと感じる生き物です。しかし、程度の差はありますが、生命の危機を感じるときに自己防衛に走るだけなのです。
だから、安全・安心を土台に、誰かに役立つことを推奨する仕組みを考えてみてください。このときは2つ。視点を上げて共通目的を共通認識することと、相手の立場の理解をうながすことが大切です。対立ではなく、協力し合うことが有益だ(安全だ・安心だ)と実感できれば、勝手にチームワークは高まります。
共通目的を認識させるためには、視点を上げなければなりません。そして、視点が上がると、社員の関係性が変わります。視野が広がるからです。部門を越えて活躍する社員が出てきます。ところが、一部で当事者意識が薄れてしまう受け身社員もでてきます。
ここも拾い上げてください。そこで、この社員に当事者意識を持たせるためには、二つ目の視点が大切です。相手の立場の理解をうながすのです。それでは、いったいどうした相手の理解が進むのでしょうか。
■5.相手の立場を理解する方法とは
どれだけ、意識的に相手の立場を理解しようとしても、なかなか難しいものです。自分の立場というフィルターをかけたまま、表面的に相手の立場になったつもりになるだけだからです。だからお互いを理解できません。そして、合意を得て協力体制を築くこともできません。
相手の立場を理解する最も簡単な方法は、実際に相手の立場になることです。T取締役の組織でいえば、メーカー営業の一部社員と商社営業の一部社員をトレードし、一定期間実際に働いてもらうとよいでしょう。すると、社員が実際にみる景色が変わります。日常業務を通じて相手の立場を全身で理解できます。結果として視野も広がります。そして、この経験が、相手の立場を考慮する誠意に変わるのです。元の部門に戻したとき、この社員は両部門をつなぐ橋渡し役を担うようになるでしょう。組織変更をしなくても、できる具体策です。
<意識を変えても、合意はできない。景色を変えると、誠意が生まれる。>
相手の立場に立つ方法は、意識するのではなく、実際に体験させること。これが基本です。
■6.続・相手の立場を理解する方法とは
「よいアイデアだと思うのですが、誰をトレードしたら良いのか。担当したばかりで見極めが…」
T取締役は、こうつぶやくと腕を組んで動かなくなりました。
中小企業は人員が限られています。組織によっては、トレードさえ難しいかも知れません。でも、諦めないでください。実際に相手の立場に立つ方法は、もっと容易にできるからです。
それは、お互いの立場を理解しあう場を設けることです。具体的には、次のようなステップで議論する場を設けてください。
STEP(1)議論するテーマを設定する
STEP(2)メーカー営業部隊の立場と商社営業部隊の立場を定義する
STEP(3)現状のやり方のメリット・デメリットを両部隊の立場で抽出する
STEP(4)どちらの立場を優先したほうが良いのか、両部隊で討議をする
STEP(5)両部隊の立場を踏まえた“良いところ取りのアイデア”を考える
STEP(6)両部隊の立場を超える“前提を変えた柔軟なアイデア”を考える
特に(4)の進め方がポイントです。メーカー営業部隊の社員は、商社営業部隊の立場として議論する。商社営業部隊の社員は、メーカー営業部隊の立場として議論する。そして、ルールを設けます。“本来所属する部門とは異なる立場を優先すべきであると主張しなければならない” というものです。その上で、討議をしてもらってください。
すると、相手部門(自分が本来所属する部門の立場)の主張を聞くときに、心の中で「その通り」「その通り」と思いながら、逆の立場で反論しなければなりません。そして、議論が白熱しても自部門のあら捜しをせねばならず、気分がのりません。不思議な感覚になります。すると、必要以上に感情にとらわれることなく、冷静に討議をすすめることができるようになります。このプロセスを経ることで、相手の立場をしっかりと理解できてしまうのです。
その上で、元の立場にもどり、“良いところ取りのアイデア” や “前提を変えた柔軟なアイデア” を意見交換させてください。対立していた両部門が、驚くほど協力し合うようになっていることでしょう。本来、社員は、自社を支えあう仲間のはずです。そして、どのように社会に価値を提供していくのかお互いに切磋琢磨する関係でいるべきです。つまらない消耗戦をやめて、前向きな活動に切り替えましょう。
貴社には、このような場をどれだけ設けていますか。チームワークを高める相互理解の仕組みが必要です。また、このような議論を進める中立なファシリテーターは、誰が担うのでしょうか。
まずは実際に討議する仕組みをつくり、何度か討議をしてみてください。すると、自社の中から変革ファシリテーターが現れます。そして、どんどんチームワークが良くなります。我が社を次のステージに導くためにも、どのような仕組みを社内に導入するのか、しっかり見極めていきましょう。
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