第19話2:6:2の法則を克服。経営者が実践すべき原理原則
成果を上げ続ける会社もあれば、徐々に輝きを失う会社も存在します。この違いは、どこにあるのでしょうか?
「2割のダメ社員。全くもって我慢の限界です。」
「新規事業の立ち上げ。新規顧客の開拓。思うように進んでいません。」
御社がこの状態であれば、赤信号です。徐々に輝きを失う会社は、このような悩みを抱えたまま試行錯誤を続けているからです。
伸びている会社は、違います。2:6:2の法則を克服する適切な考え方を浸透させています。さらに、健全な危機感を持っています。全社員で理想の3年後と現実的な3年後の差をありありと認識したうえで、先手を打ち続けています。
伸びている会社の経営者が浸透させている適切な考え方とは。今週は、<2:6:2の法則を克服する経営の原理原則>をお伝えします。
■1.組織における2:6:2の法則 (ひとまず一般論)
組織における2:6:2の法則とは、人材を組織への貢献度で分類した割合です。根拠や意味を調べると、さまざまな説がみつかります。実際には、経験則として語られているケースが多いようです。
・上位2割は優秀 … 特に貢献している主体的な社員
・中位6割は標準 … 平均的に貢献している普通社員
・下位2割は劣等 … 受け身で貢献度が低いお荷物社員
一般的には、上記のように組織への貢献度(業績や生産性などの発揮能力)で、自社の人材を分類します。そして、上位・中位・下位ごとに、人材をどのように活かすのか、どのように育成していくのか。議論する切り口として、使われています。
■2.下位2割のお荷物社員を切り捨てる経営者
切り捨てる経営者は、下位2割のお荷物社員から順に組織から排除します。
例えば、話し合いの場を設け自主退職を進めたり、不当な行為を記録し減給・降格・懲戒などの制裁をしたりします。全体最適を考えると必要な行為です。貴重な経営資源を有効活用するために、情に蓋をする。正義でやっていると自身に言い聞かせます。
下位2割のお荷物社員は、組織から排除したほうが良い。人材のリストラが進み、組織の自律神経が働きやすくなる。より筋肉質な組織ができる。残った人材は、組織内で再度2:6:2に分布するが、絶対値でみれば、全体を底上げできる。このように信じているからです。
もし社員が機械であれば想定どおりに底上げができるでしょう。しかし、実際には上手くいきません。人材の発揮能力は、固定していません。環境や状態によって変わります。そのうえで、人間は感情を持っているからです。特に日本文化では、デメリットが生じやすくなります。
例えば、繰り返し下位2割が組織から排除される可能性があると(※1)、上位・中位あわせて8割の社員の士気が下がり、業績も下がるのです。社員は、明日は我が身と考え、自身の存在価値を死守するからです。すると情報や感情が共有されなくなります。ノウハウは引き継がれず、ブラックボックス化します。部下、後輩の育成は進みません。信頼関係は崩れ、協働とは程遠い状態になります。社員は社長の顔色を必要以上に気にするようになり、社長は組織の実態が見えなくなります。この結果、各社員の立場・役割は変わらなくなります。組織への貢献度も固定化し、年月だけを重ねます。やがて、組織全体が環境変化に適応できなくなります。
お荷物社員を安易に切り捨てる経営者は、士気も業績も落としてしまいます。ダルマ落としのように、組織全体の発揮能力が下がり、徐々に輝きを失います。現状をみて、目の前のお荷物社員を排除してしまえばよい。この考え方が状況を悪化させます。
ダルマ落とし派の社長は、士気や業績を失う。この状態にならぬよう、組織を活性化させるアプローチを模索しましょう。
※1:繰り返し排除することで、デメリットが生じます。再建時は、社員に「今回限り」と宣言して一気に実施します
■3.上位2割の優秀社員を引き抜く経営者
引き抜く経営者は、上位2割の優秀社員から順に既存事業・既存得意先から担当を外します。新規事業の立ち上げや、新規開拓に専念させるのです。現在の業績を支えている中心人物を引き抜くには、覚悟と決意が必要です。しかし、3年先を想定し、健全な危機感を社員と共有していれば、勇気を持って実行に移せます。
小島がかつて支援した卸売業K社の事例を紹介します。K社は、年商100億円を超え、地元でも優良企業として知られています。既存事業では、圧倒的な成果を出していました。そんな時だからこそ、将来を見据え新規事業をいくつか立ち上げました。
第1弾のプロジェクトでは、階層別の研修(Off-JT)として、中堅社員の一部と幹部社員を集めました。一通りのトレーニングをしたのち、新規事業のアイデアを一人ひとりが企画しました。そこで面白そうな企画をグループでテストしたのち、経営陣に事業計画を提案しました。3ヶ月の中で計15日間参加してもらうハードな研修でした。
第2弾のプロジェクトでは、選抜の実践訓練(OJT)として、上位2割の優秀社員を各新規事業の企画のリーダー・推進メンバーに任命し、少数精鋭で新規事業を立ち上げるよう指示・支援しました。既存事業は、中堅社員・若手社員を責任者に抜擢したり、中位6割・下位2割の幹部社員にこれまでとは異なる役割を与え、同等以上の成果を出すよう指示・支援しました。
すでに活躍している優秀人材を新規事業に挑戦させたため、新規事業の推進力が高まりました。また、残った人材で既存事業を死守しなければなりません。同等以上の成果を出すために、多くの社員が「次は自分が!」と挑戦するようになりました。各社員の立場・役割が変わり、責任感を持つようになりました。すると互いに情報や感情が共有されるようになり、ノウハウも引き継がれ、相互に教えあうようになりました。信頼関係も再構築でき、協働する組織になったのです。一人ひとりが挑戦し、新たな形で組織に貢献しはじめました。
K社の挑戦は、とても勇気がいるプロジェクトでした。社長も、社員の皆さんも、小島も、胃がキリキリと痛みました。悩む瞬間が何度もありました。しかし、後から思えば、健全な緊張感によるものでした。共に挑戦することができ、充実した時間でした。この結果、いくつかの新規事業が芽を出し、根を張ることに成功しました。一つの事業体として採算がとれるようになったのです。あれから数年が経ちますが、主力事業の一つになっていればと思います。また、K社のように「変化することが当然」という文化が育てば、環境変化に柔軟に適応できるでしょう。
優秀社員を引き抜く経営者は、我が社を成果・成功に導きます。組織を活性化させ、士気も業績も高めるのです。クレーンゲームのように引き抜き、新規事業の中心人物として役割を与える。既存事業を推進する社員も、自ら挑戦する。3年先をみて、優秀社員を引き抜き、先手を打つ。この考え方が、組織全体の発揮能力を高めます。状況をより良い方向に導き、徐々に成果を上げるのです。
クレーンゲーム派の社長は、成果をだし、組織を成功に導く。人を育てるために、新たな立場・役割を与える。組織を活性化させるポイントを押さえましょう。
■4.<2:6:2の法則を克服する経営の原理原則>
組織における2:6:2の法則とは、人材を組織への貢献度で分類した割合です。ただし、この貢献度の判断基準は、さまざまです。また、ある一時点の状態を表しているだけです。
この法則は“正しい”とか、“ウソだ”とか、議論をする方がいます。正直、どうでもよいことです。そもそも定義が曖昧ですし、判断基準が1つではなかったり、時と場合によって変わったりするからです。それよりも、この切り口をヒントに、どのように組織を活性化させるのか、業績を向上させるのか、社員の進化・成長と社会貢献を両立させるのか、を考えたほうが得策です。
2:6:2の法則を克服する2つの原理原則とは、
(1)立場・役割を固定化すると停滞する … 現状維持は衰退である
(2)立場・役割を変えると動き出す … 変化は安定を手放すことで手に入る
です。「こんなの当たり前じゃないか」と思ったかもしれません。だからこそ原理原則なのです。シンプルだからこそ、本当に実行できているか確認してください。<知っていること>と<出来ていること>は違います。おそらく、自身が思うほど、実行できていないでしょう。
企業の前提は、永続発展すること(ゴーイングコンサーン)です。経営環境は、常に変化している。だから、企業も変化し続ける。当然のことです。いつまでも同じことを繰り返していませんか。ひょっとしたら、今あえてバランスを崩し、はじめの一歩を踏み出すタイミングかもしれません。
(1)立場・役割を固定化するケース
組織では、立場・役割を固定化させると現状維持が優先されます。社員が同じ景色を見ています。新しいことは何もしません。だから何も変わりません。環境変化を考慮すると、絶滅危惧種の如く、じわりじわりと追いやられます。
(2)立場・役割を変えるケース
その一方で、立場・役割を変化させると変化がうながされます。ただし、注意が必要です。貢献度が高い優秀社員を、引き抜かなければならないのです。勇気がいる経営判断です。挑戦する文化・協働する文化を育み、組織を前進させるために必要な経営者の通過儀礼だと思ってください。
逆に、貢献度が低いお荷物社員を、排除ばかりしているとかなり危険です。表面的には、排除した人員分だけ少数精鋭化できると勘違いしてしまいます。実際は、貢献度が高い社員ほど保身に走り、組織は足元から弱体化するからです。やがて、組織を支えきれなくなり、一気に崩壊します。
■5.原理原則を踏まえた仕組みづくりができるのか
経営者自身が、既存事業の業績を支える中心人物をクレーンゲームの如く引き抜くことができるのか。社員が見ている景色を意図的に変えることに注力できるのか。また、その準備期間を設けることができるのか。場当たり的にやると失敗するでしょう。
当然のことながら、適切な準備をしたうえで、優秀人材を引き抜いてください。大前提として、まずは既存事業で、将来の業績を現実的に予測できる仕組みをもち、全社員で共有・運用できていること。この前提がなければ、単なる博打になってしまいます。
その上で、2:6:2の法則を克服する仕組み、新たな立場・役割を与え挑戦する仕組みがあること。当然、意志の力だけでは、継続できません。意思を補完する仕組みがあること。ぜひ、仕組みづくりから着手してください。
貢献できない社員がいるのではなく、貢献できない環境や状態があるだけです。あなたは、全社員が挑戦する文化を育むために、どのような仕組みをつくりますか。
また、社長自身が最も愛着のあるパターンを、一度手放してみてはいかがでしょうか。
※追伸
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