第77話なぜ、あなたの会社は反骨精神で頭打ちになるのか
「反骨精神では、次の壁を乗り越えられません」
これが結論です。いったいどういうことでしょうか。
オーナー経営者、特に創業社長は、反骨精神の塊です。この精神があるから、数々の障害を乗り越えてきました。反骨精神、ハングリーさは、社長にとって必須の能力です。
この反骨精神は、社長を奮い立たせるエネルギーの源泉です。社会や業界、かつて勤めていた会社、ご自身が生まれ育った環境など、現状に対する不満があり、それを何とかしたい。自分の正しい考えを社会に広めたい。この想いから、事業を起こし、我が社を前進させてきたからです。
事実。人は、何かを否定すると、分かりやすく活力が湧きだします。例えば、同業他社といったライバルです。あの会社には負けたくない。あの社長には、負けたくない。敵を認識することで、踏ん張りが利くようになります。
敵が無いときと比べてみてください。敵がいるだけで、とてもパワフルになれます。社内も統制が取り易くなります。
例えば、シェア争いです。はじめは「打倒○○社。A地域でシェアNo.1を取るぞ!」と意気込み、社員を鼓舞します。
実際に結果を出すと「次も打倒○○社。今度はB地域でシェアNo.1だ!」と意気込みます。一つのエリアで結果を出すと、次のエリアを目指すのです。こうしてC地域、D地域とエリアを拡大させるのです。
社長は、社外だけでなく、社内にもライバルを意識させ、社員を動かします。事業部や支店・営業所をそれぞれ競わせたり、社員同士を競わせたりして、やる気をかき立てます。時には、結果を出した社員を表彰し、他の社員の反骨精神を引き出そうとします。
このように反骨精神は、とてもパワフルなエネルギーの源泉です。否定から生まれるエネルギーは、とても分かりやすく、簡単に引き出すことができます。有効に機能するケースが多く、ついつい社長は乱用してしまいます。
しかし、ある段階にきたとき、反骨精神だよりの経営には限界がきます。次の壁を乗り越えられません。
なぜ、反骨精神では限界がくるのでしょうか。
この原理を紐解きましょう。冷静に考えてみてください。
否定をエネルギーの源泉にするとき、当たり前ですが否定する対象が必要です。つまり、“否定する対象があること” が前提です。本人は気づきませんが、これには「自分(自分達)は正しい。相手が間違っている」という前提が含まれています。さらに「自分(自分達)は正しいので、この自分を変えてはいけない」という前提も含まれているのです。
これが限界をつくりだす原因です。
例えば、稼ぐ仕組み(ビジネスモデル)で検証してみましょう。
既存の稼ぐ仕組み(従来のビジネスモデル)の視点では、同じ次元の戦い方で、活動を加速させたり、改善によって活動を強化したり、小さな積み重ねで勝負が決まります。このとき、反骨精神をエネルギーの源泉にする方法は、とても有益です。基本的にやり方は正しい。あとは、それをどれだけやり切るかが勝負になるからです。
しかし、別の次元の稼ぐ仕組み(今後のビジネスモデル)の視点では、根本的に戦い方を変えなければなりません。ところが、反骨精神ばかりに頼って経営をしてきた会社は、根本的に戦い方を変えられません。知らぬ間に “自分(自分達)は正しいので、変えてはいけない” という前提を刷り込み続けてきたからです。
少し考えれば、分かります。かつての成功体験、つまり既存の稼ぐ仕組みが、自社の変革の足かせになっています。かつて事業を支えてきた古参社員が、変革の足かせになっています。このように、反骨精神は知らぬ間に己の限界をつくり、企業は頭打ちになってしまうのです。
「反骨精神は限界をつくる原因ではない。俺は、自分自身を否定することで、これまで自社を成長させてきたんだ」 という社長も多いことでしょう。
躊躇しますが、思い切ってお伝えします。実は、これが御社の限界をつくりだす根本原因です。
なぜなら、社長が自身の不足感をエネルギーの源泉にしている限り、社長の経営スタイルを根本的に変えられないからです。
詳しい解説は省きますが、社長は都合よく表面的に自分を否定してきただけです。根本的には変えるつもりはありません。自分自身を信じてきたからです。
残酷な表現をすれば、ハムスターが、回し車の中で努力と工夫を重ね、永遠に走り続けているようなものです。
回し車の中を今までよりも早く走ってみたり、回し車をプラスチック製から金属製や木製に変えたり、サイズを大きくしたり…。子供のハムスターが月日を重ねて成長し、どれだけ筋肉質になったとしても、ハムスターはゲージの中、檻の中にいるのです。
これまでの経験を振り返ってください。社長は、既に分かっているはずです。
例えば、下請け企業のまま、どれだけ努力や工夫を重ねても、下請けという立場を脱却することはできません。大手得意先から「御社は優良取引先です」と、どれだけ表彰されたとしても、下請けは下請けです。自社が取引の主導権を握ることはできません。
御社が、どの業界であったとしても、同様です。もし、今現在、価格競争に苦しんでいるのであれば、すでに限界が見えているはずです。既存の戦い方でどれだけ努力や工夫をしても、自社が商売の主導権を握ることはできません。
同様に、社長がこれまでの経営スタイルを根本的に変えない限り、つまり反骨精神をエネルギーの源泉にしている限り、御社は次のステージに進めません。社長の反骨精神が、変革の足かせになっているからです。
それでは、いったい何をエネルギーの源泉にしたら良いのでしょうか。
反骨精神は否定がエネルギーの源泉になっている。これには限界がある。じゃぁこの逆を考えてみよう。つまり、肯定がエネルギーの源泉になるのでは? というアイデアがでてきます。いわゆるポジティブシンキングです。
早い話、物事やお互いの良いところに注目させるのです。競争させて反骨精神を奮い立たせるのではなく、信用させて相互協力を生み出すのです。心理学や脳科学では、この有効性が紹介されるケースも多いものです。一見すると、正しいように見えます。
しかし、これにも限界があります。ポジティブに見ようとした時点で、それまでネガティブに見ていたという前提が含まれるからです。つまり、否定をエネルギーの源泉にしても、肯定をエネルギーの源泉にしても、結局は同じレベルなのです。
それでは、結局、何をエネルギーの源泉にしたら良いのでしょうか。
この答えは、良くも悪くも、全てを受け入れることです。否定や肯定を超えて、存在を認めることです。言葉で表現すれば “承認” です。
「なんだそんなことか。承認の重要性は、分かっている」 という社長も多いものです。
しかし、ここが盲点なのです。 “分かっていること” と “できること” は異なります。実行するのは容易ではありません。なぜなら、生き物には安全安心欲求があり、さらに脳は区別することで物事を認知しているからです。端的にいえば、人間はどうしても評価をしてしまう生き物だからです。
それでは、どうしたら本当の意味で承認ができるのでしょうか。
誤解を恐れずに言えば、それは「心底あきらめること」です。
反骨精神といった否定のエネルギーで限界まで、努力と工夫を重ねる。ポジティブシンキングといった肯定のエネルギーで限界まで、努力と工夫を重ねる。そして、それでも頭打ちになったとき、否定した自分も、肯定した自分も、すべてを受け入れて心底あきらめるのです。(あきらめるしかないという状況が近いかもしれません)
この境地になると、これまでこだわっていた(限界となっていた)自身の執着を素直に手放すことができます。従来の戦い方を深い意味で認めた上で、手放せるのです。そして、何ともいえない満たされた感覚が、これまでとは異なる次元でエネルギーの源泉となり、機能しはじめます。
大切なのは、社長が自己責任の意識をもってとことん向き合い、実際に行動することです。その上で、壁にぶつかり、もがききってから、心底あきらめることです。
するとあなたの経営スタイルは、次のステージに相応しいものに引き上げるられます。さらに、前の次元で使っていた否定によるエネルギーも、肯定によるエネルギーも、一つの道具として使いこなせるようになります。これまでの経験すべてをリソースにするのです。
<頭打ち企業は、反骨精神でとどまる。躍進する企業は、あきらめて乗り越える>
このとき、本当の意味で、次の戦い方にシフトできるのです。
このプロセスでは、感情に振り回される自分や、感情を殺し論理的に考えすぎる自分を抑止しなければなりません。適度に痛みを感じつつ、適度に理知的に考えるのです。そして、何のためにその事業を行うのかという目的に、常に立ち返ることが必要です。
「にんげんだもの」相田みつを。有名な言葉ですね。
「清濁併せ呑む」ということわざもあります。
現実的なレベルで解説するならば、何らかのプロジェクトを進めるときです。否定派を否定するエネルギーでゴリゴリと進めるよりも、肯定派を肯定するエネルギーでノリノリで進めるよりも、否定派も肯定派もともに味方にして進めたほうが有益です。
否定派が抵抗勢力としてブレーキをかけることも減るし、肯定派が暴走しすぎることを防げます。適度な修正をしつつ、適度に前進できます。これを社長業に当てはめるのです。
もし、御社がどうしても超えられない壁にぶつかったとき、もう一度この言葉を思い出してください。
<頭打ち企業は、反骨精神でとどまる。躍進する企業は、あきらめて乗り越える>
あきらめることは、とても勇気がいります。短期的な視点で、つい反骨精神に頼ってしまいます。しかし、中長期的にはそれに見合った価値があります。
何もせずに「あきらめるのがよい」という話ではありません。事業の目的を意識し、適切な努力を重ねた上で、結果として心底あきらめること、これがとても有益なのです。このとき、不思議と追い風が吹き、御社は難局を乗り越えることができます。そのためにも、まずは仕組みをつくり適切な努力を重ねましょう。
※追伸:当社は、社長や組織が感情や理屈にとらわれすぎず、適切な努力を重ねる方法として「社長も社員も心から安心できる状態をつくる 【3年分 受注残をつくる経営】(業績3年 先行管理のすすめ方)」を公開しております。御社のまだ見ぬポテンシャルを発揮するために。興味のある社長様は、ぜひ弊社セミナーご参加ください。